ほんとうの学芸員
V(ボランティア):なぜ学芸員になろうと思ったのですか?
清水:昔から父に連れられてよく展覧会や美術館に行ってました。自分で行くようになったのは高校生くらい。その後、ヨーロッパへ渡って美術館の充実ぶりに驚きました。そしてフランスの美術館を見て歩いているうちに「ものを見る」状況を作っていきたいと考えるようになりました。友人の手伝いをしていて、同じ美術品でも配置の仕方で全然違ったものになることに気付いて、これはおもしろいな、と思ったんです。23、4歳の時だったかな。
V:「ものを作る」側になりたいとは思いませんでしたか。
清水:才能ないですから(笑)。昔から絵が好きで描いてたんですけど、だんだん本当に才能のある奴がいるんだなってことがわかってくるんですよ。だから、見る側に立つ方がおもしろかった。
V:今まで出会った作品の中で、人生を変えるほど素晴しいと思ったものはありますか?
清水:やっぱり奈良の法隆寺ですね。大学生の頃、よくお寺巡りをしてたんです。
V :法隆寺のどういうところが素晴しかったのですか?
清水:最も古いのに現代にも生き続けているという点ですね。それに何もないところがいい。いかにも芸術品です、というんじゃなくて。その中で自然と向き合うことのできる装置なんですよ。回廊から見える空とか、人にやすらぎを与えてくれるんです。そして素晴しいのは、それが人工のものであることです。回廊から見える空の素晴しさは、山の頂上で仰ぎ見る空の素晴しさとはまた違うわけですよ。日本の美術っていうのは、自然のリズムに人がひたれるようにしてくれる入口だと思うんです。
V :今一番興味をもっている作家は誰ですか?
清水:ジェームス・タレルです。アメリカのロサンゼルス出身の作家です。20世紀を引っぱってきたアメリカが今やもう疲れていて、それを癒そうという姿勢を出してる人です。アメリカだけじゃない多くの国々が疲れてきている中で、タレルの癒し方は普遍性を持っていると思いますね。つまり、「自然に戻る」っていうことなんです。戻るといっても原始の時代に戻るとかっていうんじゃなくて、工業化社会を経た上で、今できる形で戻っていくっていうことです。すべてを捨て去って自然に戻っていくっていうんじゃなくて、人工的なものを使って自然を見る。さっき話した法隆寺とつながるんです。ジェームス・タレルはぜひやってみたいですね。 <き>
*本ページの内容は、1994年9月1日発行当時のものです。
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