特 集なんでこれがアートなの?
―『開放系』を観て―(2)
― 調子よく話していた一方の男性(B)、「手段」ということばにとまどってしまったみたい。しばらく沈黙が続く。
A:…考えを伝える手段なんだったら、ことばでもいいんだよなあ。
C:自分の考えをことばで表すんだと、評論とかエッセイとかになっちゃうんじゃない?…あ!そうか!
A:何?
B:評論とかエッセイっていうのは、ことばで表せることだからそうなってるんで、ことばで表せないから美術の作品にするのよ、きっと。
A:ああそうか! ことばで表せたら美術にしないもんな。いいこというね。
B:だけどさ…。だけど…、だったら、あのひつじの作品はどうなんだ?
C:ひつじの作品って、田甫律子さんの?
A:どうなんだって、何なんだよ。
B:あの『世界の市民』って作品、ガラスの表面にいろいろなことばが書いてあっただろ。あのことばは、そこのガラスの中に入ってるひつじの様子を表すようなことばだったじゃないか。あんなにことばで説明しちゃっていいのかな?
C:あそこに書いてあることばが、作品の説明になってるわけじゃないからいいんじゃないの?
B:でも、美術の作品が、あんなにことばに頼ってていいのかな?
C:あそこに書いてあることばだけで、田甫さんの言いたいことが表しきれないんじゃない? 逆に、ひつじの写真だけでもやっぱりわからないような気がするわ。どっちも必要だったのよ。
A:これもさっきのお墓と同じで、作家がこのことばを選んだってことが重要なんだよ。
B:そうかなあ…。う〜ん。
A:作品に使われていることばが作家の言いたいこととは限らないだろ?
C:そうね、あの作品で作家が言いたかったことは、あそこにあったことばとは別のことなんじゃないかって、見てて思ったわ。
B:え? 別のことってどんなこと?
C:それは…。それは、わたしにはわからなかったけど…。
A:そうやって、何か別のことが言いたかったんじゃないかって考えさせるためのことばだったんだよ。絵の具や粘土で何かを作って表現しなくても、さっきのお墓みたいなものでも作品に使うことができるんだから、ことばを美術の作品で使っちゃいけないってことないだろう?
B:そりゃそうだ。うん。でも、ことばがあるとことばに頼っちゃうなあ。
A:ことばって、直接的だからな。そのことばの意味を、それこそ「ことばどおり」に受け取っちゃうんだけど、実際に言いたいことってそのことばの裏に隠れてたりするじゃないか。
B:そうか、そこにあることばを、そのまま受け取ってるだけじゃいけないのかもしれないなあ。
*本ページの内容は、1994年9月1日発行当時のものです。
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