ほんとうの学芸員


浅井俊裕(あさい・としひろ)さん


 今回は水戸芸術館開館以来学芸員として活躍され、先頃行われたジョン・ケージの「ローリーホーリーオーバー サーカス」の展覧会を制作された、浅井俊裕さんにインタビューをしました。

V(ボランティア):学生生活は関西とお聞きしてますが…。

浅井:群馬県出身ですが、東京に行きたくない、歴史のある京阪神方面に行って学生生活を送ってみたかったんです。結果として 関西学院大学の社会学部に入学し、在学中に現代思想に興味を覚えました。大学2年の頃から美学系の大学院を考えていたので、そこで研究を続けるか、美術関係で仕事として成立していると思っていた学芸員になれたらいいなぁ、という漠然とした気持ちでした。卒業後の就職は考えていませんでしたね。そういうことで、関西の大学院ではとてもフレキシブルな関学の大学院に入って、美学を専攻しました。

V:なぜ美学にひかれたのですか?

浅井:決して哲学史とか現代思想史を勉強していたわけではありません。偉そうな言い方をすれば、自分で考えたかったんですよ。

V:現代美術を含め、美術との関わりは?

浅井:美学を専攻していましたから、美術史を勉強するという意味で美術館巡りをしましたが、現代美術には馴染めなかったんです。

V:えー!そうだったんですか。

浅井:今でこそ、こういう生活を送っていますが、学生時代は、現代美術を毛嫌いしていました。僕の場合、現代美術といえば、芸術の純粋化といった“観念主義の最果て”のような作品が多かったので、あまり興味を覚えませんでした。しかし、80年代も半ば頃、関西のニュー・ウェイブのアーティスト達−僕の同世代の中原浩大、松井智恵、杉山知子といった人達−の登場によって、現代美術に対する考え方が変わってきました。作品に具体的な色と形が戻り、同じ時代に生きる僕等の心に響くような内容をもった作品が多くなりました。その頃から僕は毛嫌いすることをやめて、現代美術を楽しみながら見るようになり、今日に至っています。今では現代美術に身を置く学芸員ですが、美術館志向の湧かない人達や、美術は好きでも現代美術に疑問を抱いている人達の気持ちが良く理解できます。その辺りを水戸芸術館の学芸員として意識しています。そのような人達に、水戸芸術館へ来て現代美術を素材にして、新しい発見とか柔軟な思考作りといった体験をしてほしいのです。

V:どんなアーティストに関心がありますか?

浅井:今のところ特定のアーティストはありませんが、僕が面白いと思うアーティストは、日本人としてのリアリティを表現できる人かなあ。

V:“日本人としてのリアリティ”とは何ですか。

浅井:日本人の“曖昧さ”です。最近、大江健三郎がマスコミで語っているけど。僕は以前から、その“曖昧さ”を表現できるアーティストに関心があり、好きなんです。例えば、ある一つの状況下に極を成す2つの主張とか意見があると仮定した場合、それら相反するメッセージを鋭く突きつけ合うのではなく、むしろそれらの中間を漂うニュアンスに共感を覚えます。どちらかの陣営に付いたりするのは楽だろうし、作品に日本人ぽい素材とか流行のハイテクノロジーを使用することは、世界的マーケットとかコレクター向けには受けがいいかもしれないが、そうではないところに真の日本人としてのリアリティがあると確信しています。 (奥野)

*本ページの内容は、1995年3月1日発行当時のものです。



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