特 集

キノコに還った発明家

ジョン・ケージ(3)


■フルクサス、ハプニング

 ヴェトナム戦争、ヒッピームーヴメント、人類初の月面着陸等、人々の意識が著しく変化した60年代、アートもまた美術館やギャラリーを飛び出し、人々を直接巻き込むべく様々な動きが世界各地で同時多発的に起こっていた。それらが「フルクサス」、「ハプニング」、「パフォーマンス」と呼ばれるムーヴメントである。

どの動きもJ・ケージが率先したり、中心となったものではない。しかし、1952年の「4分33秒」や、同年ブラック・マウンテン・サマースクールでのケージによって組織された出来事―ある者はピアノを弾き、ある者は詩を朗読し、絵が天井に掛けられ、歌い、踊る者もいた―がそれらの動きの原型と言われ、ジョージ・マチューナス、ナム・ジュン・パイク、オノ・ヨーコといった60年代のムーヴメントを代表するアーティストらにその精神は受け継がれていった。

 そうした動きのもとを各所で産み落としながらスルリ、スルリと別の次元へ移動してゆくJ・ケージは真に前衛的な人物だったに違いない。

透明なアクリルボックスには、手紙や楽譜などが収められ、自由に引き出してみることができる。このボックスも含め、<サーカスギャラリー>内の全ての展示物は、チャンスオペレーションで展示場所や展示する時間が決められた。

■コラボレーターズ

 ケージには長年にわたって共同作業をしてきた人々がいる――マース・カニングハム(ダンサー)、デヴィッド・チュードア(ピアニスト)、ロバート・ラウシェンバーグ(現代美術家)、ジャスパー・ジョーンズ(現代美術家)らである。

 特にマース・カニングハム・ダンスカンパニーとの仕事は、モダン・ダンスの巨匠マース・カニングハムのダンス音楽をケージが作曲すれば、舞台美術をロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズが担当する、という夢の競演とでも言うべきものであった。ただし、普通考えられるような、ダンスのために音楽や美術があったのではなく、それぞれは独立して存在し、リハーサル時に初めて重ねられるケースが多かった。つまり、ダンサーは決められた動きを忠実に守り、音楽や美術はダンスの進行とは無関係にそこにあるが、時にそれらは拮抗し、あるいは共鳴しあう緊張感が彼らの作品をよりすばらしいものにしていたのである。

 ケージとラウシェンバーグがかけ合い漫才のように騒いでいるのを、隣で微笑みながら見ているカニングハム…3人のインタビュー・ビデオを観ながら、こうした分野を越えてのアーティストどうしのコラボレーションがこれからももっと必要なはずだと感じた。

■キノコ研究家

 1954年に郊外に引越したのをきっかけにケージは菌類、特にキノコに興味を持つようになる。全米でも指折りのキノコ研究家であったとか、ニューヨーク菌類学会を設立した、等実にまことしやかであるけれども、キノコの何について研究していたのかは私が調べた限りでは、はっきりしなかった。森に入ってキノコを収集するのが得意で(それこそ神業のようだったとか)、もっぱらそれを食用にしていたらしい。毒キノコにあたって死にかけたこともあったとかなかったとか…。

キノコは植物でありながら光合成ができず、かといって動物のように自由に移動もできない、実に奇妙な生物である。「キノコやカビというのは、宇宙からやってきた異星の生物なのではないか」とは私自身の印象だが、これはもしかするとJ・ケージのイメージとダブるところがないだろうか。彼の死後、生涯親友であったマース・カニングハムによる「ケージは森に還り、キノコに還ったのだ」との発言もそうしたイメージから来ているのだろう。

■出会い

 サーカス・ギャラリーに展示された150点余りのケージのコレクションを眺めながら、ギャラリー・ガイドで1点1点作者を確かめていると、なんと多くの出会いがあったことか、驚くとともにその重さとすばらしさに圧倒される思いがする。ケージは魅力溢れる人間であったと思う。優れた役者が持つという、そこにいるだけで人を惹き付ける「花」を持ち、加えてユーモアと真剣さで多くの人を魅了し、人々に影響を与え、自らも多くの人々から影響を受けた。開催記念パーティーで語られた吉田館長のケージとの出会いの話、汽車の旅での禅をめぐる会話など、ケージの面目躍如であった。

*本ページの内容は、1995年3月1日発行当時のものです。



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