緊急特集

阪神大震災とアート(2)


■藤本由起夫

1950年生れ 大阪市在住本年1月水戸芸術館「ジョン・ケージ展」・オーディトリウムで「電卓と語学学習機」演奏

 『水戸芸術館でのパフォーマンスを終え、大阪に帰宅した翌朝、震災に遭遇しました。早朝の一撃は、新大阪駅近くの自宅の部屋中に本や食器をぶちまけ、大阪市内のアトリエでは作品を収納した棚をなぎ倒しましたが、その程度の被害ですんだことを幸運であったと思いました。

 さて今回のご質問で、まず「震災の前と後でのアートに関する考えが変化したか」ということに関しては、私の場合まったく変わっておりません。実は、それまでのアートに対する考え方が当然変わって行くのではないかと思いましたが、むしろ、何ら自分の中では変わっていないことを確認しました。

 次に「悲惨さの中でどのように関わることができるか」ということに関してですが、現実問題として関わらざるをえないのが現状です。一つには経済上の問題として、進行中のプロジェクトがキャンセルされる等、生活の問題として押し寄せてきました。私は、アートと社会とは密接に関わっていると思っていますので、こういった不測の社会状況にもどのように対処して行くかが他人事ではなく自分自身の重要な問題であり、この現実的な問題は今後さらに深刻になって行くのだろうと考えています。そして、もう一つ援助の問題があります。アートの現場から、援助活動としてのチャリティーの展覧会への出品の誘いを幾つか受けましたが、私はすべて参加しませんでした。というのは、普段でも経済的に機能しない現状で、作品の売上金を義援金にするということは有効的ではないと考えたからです。作品を売るよりも、現金を必要とするところに送るほうが役立つのが、悲しいかな現状であると考えたからです。私は作品ではなく現金で関わりました。

 そして3番目の「どのような可能性があるのか」という質問ですが、私はこれからがアートの出番だと考えています。混乱した状況の中で、アートはカンフル剤にも鎮静剤にもなりにくい性質のものだと思います。アートの使命は、実はこれからの長い時間の中で、飾り物ではない本当の価値を創造して行くことにあると思います。そして、私はそのプロセスに関わりたいと思っています。('95.4.9記)』

段ボールで「基地」を子供達と作った。何かを作ることは、避難所生活で投げやりになっていた子供達の表情を明るいもにに変えていく。(写真提供:島袋道浩氏)


 ログズ ギャラリー クルージングクラブの濱地氏と中瀬氏は、乗せた鑑賞者を日常と非日常の接点の薄さに気付かせ、そのはざまに見事に招き入れるパフォーマンスをしてくださり、地震の混乱の中から「でしでしでし」に参加してくださった杉岡氏を含む関西の若者たちは、水戸芸術館での2週間を終え、雨降る関西に帰り着いた時、もっと水戸にいたかったと言った、と聞きました。このことは被災地の心をお天気が如実に表わしていたのではないでしょうか。また、パフォーマンスは関わった者の心や身体にインプレッシヨンを与えますが、作品として生み出されその作品自体が別個に生きる時、おのずと作家としてのスタンスは微妙に異なるはずです。街のあちこちで「義援金箱」や「震災に売上げ金を送ります」としたチャリティーの展覧会を見かけますが、「義援金箱」にカンパしてもそのお金が何処にどう使われたのかが見えてきませんし、チャリティーの名のもとに作品を「売る」とはどういうことなのでしょうか。作品を買う人はチャリティーであろうとなかろうと買う力があり、作品を売った人は作品だけでなく、ある種の心地よさと一緒に名も、それが善意であれ、故意であれ「売る」ことになるのではないでしょうか。(勿論、チャリティーに参加するのは作家の方の自由で全く否定するものではありません。)が、藤本氏の考え、行動は作家として、作家以前の人として素晴らしいスタンスを提示して下さっているのではないかと思いました。また、各氏が、これからの本物のアート作りに掛けておられることに敬意を表します。最後に中原浩大氏からのお返事を掲載し、今回の特集を締めくくりたいと思います。(服部)

*本ページの内容は、1995年6月1日発行当時のものです。



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