アーティスト・インタビュー

−自然に色を感じて−

画家 小林孝亘さん 


 小林孝亘さんは、水戸アニュアル'95「絵画考−器と物差し」展に、潜水艦や犬、木などを描いた絵を出品された方です。タイでの二度目の長期滞在に出発直前のお忙しいなか、水戸芸術館においでいただき、お話を伺いました。
 小林さんは、1995年に「絵画考」に出品され、同年安井賞展出品、VOCA賞奨励賞など、活躍されています。また、96年から97年にかけて一年間、文化庁芸術家在外研究員としてタイのバンコクに滞在され、昨年はフランスにおいて制作されるなど、海外での活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。


─タイで色を感じて─

●小林さんは、タイでの長期滞在は今回が二度目で、前回は シラパコーン大学にアーティスト・イン・レジデンスとして滞在されていたとのことです。タイで絵を描かれること、またタイの魅力などについて伺いました。

「タイで描くからといっても、誰が見てもこれがタイで描いたものという絵にはなりません。場所が変わると見るもの、対象物が違うという変わり方はしますが、根本的には変わらないですね。ただ、色は変わります。バンコクの街を歩いていると、とにかく色が目につきます。例えば、屋台で使っているプラスティックの食器など鮮やかで、とても色を感じるのです。それで日常的に色を感じていると、自然に色が使えるようになってくるのです。東京に住んでいると、全体的にグレーの色しか感じられなかったのですから、場所から受ける色の影響は、確かにありますね。

 また、潜水艦以後は、モチーフを日常的なものから選ぶようになったのですが、問題意識がある時に描きたいものが目につくのです。しかし、今の日本は平和で安定していて、だんだん絵に描こうとするものがなくなってしまったのです。その点、タイは矛盾だらけだったり、不便だったり、少し危険だったりで描きたいものがどんどん出てくるのです。

 タイの魅力については、みなさんによく聞かれるのですが、ちょっと一口では説明できませんね。プーケット島でのんびりしていた短い旅行などを含めると、タイには10回ほど行っています。とにかく、私はタイが好きで、自分の体質に合っていると思っています。」

 日常生活にも特に支障はなく、タイ語も普通の会話はできると言われる小林さんが、大好きなタイでじっくりと腰を落ち着けて描かれる絵が、どのように変わるのか、変わらないのか、私たちもとても楽しみです。

「Gold Fish」1998

─ぬめっとした絵肌を感じて─

●小林さんの絵の特色の一つである、ぬめっとした絵肌、あの質感は、どのように描き出されるのか伺いました。

「潜水艦の初期の段階の絵は、表面が少しごつごつした感じや肌合いを作ろうと、また自分が好きな作家の絵肌に近づこうと、意識的に質感を作っていたのです。その時の絵の終わり方、納得の仕方は、自分の作ろうとした質感に似てきたら、このへんでいいというような終わり方をしていたのです。

 ところが、最後に潜水艦を描いた94年頃から、意識せずに、感じるままに自然に絵が描けるようになってきたのです。ぬめっとしているのが、良い悪いという考えはなくて、自分が生まれつき持っている体質というか、本質的な部分だから、消さなくてもいいと思っています。今は、自分が培ってきた感覚で納得するまでは、絵は終わらないのです。

 納得するということは、自分の表現したいものが根本的に出ているかどうか、ということです。ぬるぬるやざらざらの度合いで納得するわけではないのですが、微妙な点でいえば、質感によって本質的な面が出る助けになることがあるともいえます。」

●最後に、小林さんの絵はなぜ人を引きつけるのでしょうかと伺いました。

「私は、自分がなぜ絵を描きたいのか、何を描きたいのか、表現したいのかを考え、表現したいことを日常的なモチーフの形を借りて描いているのです。例えば、絵を描きたい気持ちになった時に見たものが木だったとします。それは、木を説明したいから木を描くわけではなく、なにか言葉に言い表わせないことを、木の姿を借りて表現しているのです。誰が見ても分かる木だから、自分と全く違う生活をしている人が絵を見ても、その人と木とのかかわり、ものとのかかわり、絵とのかかわりが別なところで生まれてくると思うのです。その人が作品を見て、なにかを感じてくれればいいと思っています。」

 小林さんはお忙しいなか、私のいろいろな質問に対して分かりやすく、丁寧に答えてくださいました。また、インタビューのなかで、「自然に」「日常的」と何度も口にされていました。私たちが小林さんの絵に惹かれるのは、このへんに秘密があるのではないかと思いました。

(1999.1.7 文:笠原、写真:鶴野)

*本ページの内容は、1999年3月1日発行当時のものです。



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