水戸芸術館コンサートホールATM(水戸芸術館音楽部門)

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2007年 9月14日(金) 公演「ブーレーズの肖像」

ルツェルン・ニュース -- 余韻 -- 笠羽映子
(Photo: Philippe Gontier)



今ヨーロッパは 9月 8日午後 9時。 7日の朝、アカデミー参加者の大半は帰路に着いたはずだが、水戸芸術館公演に出演する演奏家たちとジャン・ドロワイエ、そしてルツェルン・フェスティヴァル・パーカッション・グループの12名の打楽器奏者たちと指導者兼指揮者ミシェル・セルッティ(アンサンブル・アンテルコンタンポランのベテラン打楽器奏者)、そしてピエール・ブーレーズはドイツ・ルール地方の中心都市エッセンへ向かい、まさに今頃水戸のそれと同じプログラムの演奏会が開かれているはずだ -- ブーレーズはエッセンでも『シュル・アンシーズ』を指揮。 9日日曜日の晩は、パーカッション・グループがやはりルツェルンと同じプログラムによる演奏会に臨む。 なお 9日には別の会場で、ルツェルン音楽大学のアンサンブルによるペーター・エトヴェシュの室内楽作品の演奏会も開かれるようで、ルツェルン・フェスティヴァル・アカデミーの外縁的(?)プログラムの一環として、音楽大学の学生たちもエトヴェシュの指導を受けたり、様々な催しに参加したり、多彩な現代音楽を聴いたりしていたのだろう。 そのように地元の音楽家たち、そして地元の聴衆たち、さらには子供たちに対しても、実にルツェルン・フェスティヴァル当局は細やかな配慮を色々な形で示している -- 。

エッセンでの様子もできれば現地に出向いた人物に聞いてみたく思っているが、このニュース -- 余韻 -- では、6日の演奏会終了後にお見かけし、声をかけてみたヒラリー・サマーズさんについて少し述べておくことにしよう。 イギリス出身で、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック、国立オペラ・スタジオで学んだサマーズさんは、バロック音楽の領域で、アカデミー・オブ・エインシャント・ミュージック、キングス・コンソート、レザール・フロリサンといった団体と、したがってJ. E. ガーディナーやウィリアム・クリスティといった指揮者と一緒に仕事をする一方、現代音楽の領域では、エリオット・カーター(1908年生まれのアメリカの作曲家で、来年のアカデミーでは、メシアンとともに生誕百周年が祝われる予定の、しかも未だ現役で活躍している驚くべき人物)のオペラ『What next (次は何) 』の初演(1999年、ダニエル・バレンボイム指揮、ベルリン州立歌劇場の演奏)でステラ役を歌い、またペーター・エトヴェシュのオペラ『ル・バルコン』のエクサン=プロヴァンスにおける世界初演にも出演、2002年以来、ブーレーズの『ル・マルトー・サン・メートル』の演奏にアンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーたちと度々参加しているアルト歌手である。 サマーズさんは、長身の堂々とした体格で、輝かしい経歴の持ち主ながら、大変気さくで心底明るい、親しみ易い人物。 リハーサルにもジーンズ、スニーカーといういでたちで現われていた。 サマーズさんのフランス語は聴き取りにくいと批判する人もいなくはないけれど、音を的確に拾い、シュプレッヒシュティンメ的な部分やハミング部分を着実に声で、しかも必要以上に硬直せずに表現していく歌唱は定評がある。 「『ル・マルトー』は構成がきっちりしているから、一端全体を深く掴めば、取り組みにくい作品ではないと思う」、と明るく笑いながら言い、マイケル・ナイマンとも良く仕事をするサマーズさんは、「日本では、マイケル・ナイマンは人気があるんでしょう?」とまたにっこり。 高水準の歌唱法を備えたこのような人物が、現代音楽を明るく照らしてくれるのは、現代音楽にとってとても幸せなことではないだろうかと思った。

水戸には出演しないけれど、バルトークの『中国の役人』でチューバを担当、大きな楽器を抱え、これまた大きな弱音器を出したり入れたりしつつ熱演していた馬場晴美さんにも、「真後ろが大太鼓で、演奏だけでも大変なのに、大太鼓の振動はきつかったのでは?」とたずねたら、「慣れれば大丈夫」と元気いっぱい笑っていた。 優れた指導者や助言者のもと、初々しく若い演奏家たちが、偏見を持たず、貪欲に、現代音楽に取り組むことによって、現代音楽の演奏にも思いがけない突破口がひらけていく・・・

エッセンでの演奏会も終わったことだろう。 昨年、ヴィデオ・メッセージをお願いした頃、風邪で咽喉を痛め、咽喉アメで咳を抑えつつ話して下さったブーレーズ氏は、今年は風邪をひかれることもなかったが、さぞお疲れのことだろうと思う。 来日されないのは日本の聴衆の方々には残念至極だろうが、今後のためにも、しばし休養を取っていただき、ドロワイエ氏の率いるメンバーたちの日本公演を成功させて喜んでいただこうではないか。


パリにて、9月8日、笠羽映子




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