エントランスから地下室まで
一番最初に、この美術館に入ってくるときには、ここの全館共通のロビーを通ります。これはエントランス・ロビーまたはエントランス・ホールという名称になっていまして、ロビーなんですけれども、そこにはパイプオルガンが置かれています。時によっては音楽会、オルガンの演奏会もできるという、そういう部屋なんです。そこには、全館の案内所とか、インフォメーション・センターとか、そういう種類のものも全部あります。ミュージアム・ショップもそれに面しているし、カフェもそのちょっと奥ですけれども、それに面しているという格好になっています。
そういうところにまず入って、オリエンテーションをまず頭にいれてもらわなきゃいけない。美術館に行くには、それからコンサートホールのほうに入っていって、階段で一度上がるということになるんです。そしてコンサートホールのロビーに出ます。そこはもうすでにこの美術館のパーマネント・コレクションが展示されている場所になっています。ですからこの美術館のコレクションの展示場であり、同時にそれはコンサートのときのロビーになる。こういう二重の役割をそこですることになるわけです。ですから、この芸術館の場合、そういう重なり合いで部屋を使うという、そういう性格の使い方がしばしば他にもあるんですが、美術館の場合にも音楽ホールのロビーと兼用されるということがまず一つあります。
そこを通り抜けると今度は美術館の本体のギャラリーに入っていくわけですが、これは二階にまず上がります。二階に上がると、基本的に四つの独立した展示室と、その展示室を繋ぐ中間の、少し天井を低くした幅も少し狭くなっている展示室、この中間の部分と二つに分かれているんですですけれども、そういう一種の展示室群がありまして、まだ名前がついていないのですけれども、こちらからA、B、C、D、E、F、Gとこうなっている。このGのところがロビーです。それからギャラリーになって、逆の方向から言いますけれども、Eに入ります。それからD、C、B、Aと来て、それからこのIギャラリーを通って(恐らく)Fに戻って、FからHに入っていくというのが一応の巡回路になっています。
ここで考えていることというのは、全部が同じタイプのギャラリーでは結局空間体験としての面白味に欠けるものですから、部屋一つ一つの光の状態、それから部屋の大きさ、部屋の縦横の比例がみんな違う部屋になっています。そしてこの違う部屋を順々に通り過ぎることによって、もし美術品がなくても空間体験を感じ取ってもらえるというぐらいのつもりでこういう部屋の配列ができ上がっているわけです。
このGを除いて延べ壁延長が約300メートルありますので、300メートルということはかなり大型の企画展ができるということになっています。その上で、この部屋のタイプに応じて展示するものの内容とこの部屋の空間とが相互に作用し合うだろうと思いますから、それに応じて独特の展示を考えていくのがいいんじゃないかと思います。
それから、もう一つ他にHというギャラリーがあって、これはエントランス・ホールの二階の一角に面したものですが、これは独立して小さい展覧会、個展とか、そういうものができるような大きさで、町の画廊程度という大きさを持ったものです。ですから、小さい展覧会とか、常設展とかいうものもこの建物の一部で必ず開かれているということは可能なわけです。
そしてこの階にあと二つ美術館の機能が入っていまして、一つはワークショップです。ワークショップは、市民のための美術教室とか工芸教室とかいう形でここで実技をやったり、実際に芸術家が制作をするというような一種のアトリエになると思います。ですからここは全く別個に外から入ることもできるようになっています。
次に、二階のテラスに出ると、彫刻テラスになります。彫刻テラスには噴水を付けます。このテラスの上はあまり数多くの彫刻を乗せるというわけにもいかないかもしれませんけれども、ある種のスケールを持ったものにも大丈夫なように頑丈になっていまして、ここでは彫刻家の個展できるそれくらいの大きさになっています。将来の使い方として、広場の半分を芝生に仕上げようとしています。そこはまた必要に応じて屋外彫刻を展示することもできるように考えられています。
ですから、さほど大きくない規模の展覧会をやるとか、彫刻展もやるとか、個展もやるとかいう具合で、様々な用途の展示が同時にできるというのが一番の特徴になっています。この機能をサポートするための様々な部屋がちょうどこの美術館の一階に多岐に入っているんですけれども、具体的に言いますと、事務室、学芸員室、館長室、事務長室、そして、大町通り側に荷物の搬入口がありまして、トラックで運び込まれたものを受け取って、それから荷物用のエレベーターで地下に下ろして、箱をほどいて、それから展覧会に持ち込むもの、倉庫に入れるもの、というような形にそこで仕分けをするのですけれども、そういう部屋が一階にあります。
地階には、学芸員の作業室といいますか、一種の図書室、資料室、そういうものを兼ねたものです。収蔵庫はこの荷物用のエレベーターの反対側に、かなり大きく取ってありまして、これは将来この美術館のコレクションを収納する場所になるわけです。
ですからこの建物の美術館だけを取り出せば三層の構成になっていて、一番上の階がギャラリー。一階が事務室、オフィス関係。地階が作業室と資料室と収蔵庫。そういう区分になります。
床・壁・天井・光
この美術館の特徴をあげるときに、日本のいままでの美術館の問題点として感じるのは、まず、部屋の大きさが何が展示されるかわからないような比較的曖昧な大きさを持っていまして、適当に区切ればいいという感じのものがわりと多いということ。もう一つは、自然光を入れると、古い作品に対して紫外線が作用して物が焼けるという問題があるということから、初めから自然光を全部入れないということで計画した美術館が多いんです。
ところが外国から来た人たち、特に美術館の専門家たちが日本の美しい美術館を見て異口同音に言うのは、まず部屋が鬱陶しいということを言う。その理由は二つあって、つまり自然光が入ってないということで薄暗い。それから天井高がない。広さがはっきりしていない。つまり天井高がなくても部屋のプロポーションをうまく考えていればそう狭くは見えないんですけれども、その辺を大雑把に考えている。ギャラリーを快適な建築空間として考えてないものが多いものですから、日本の美術館は鬱陶しいという一番の批判になっている点です。
もう一つの批判は、美術館のギャラリーの内部まで建築的に様々な装飾的なものが入り込んでいる。たとえば床にいろいろ模様がついている。壁面に妙なかたちをした窓がついている。様々な色を使っている。石割りの壁なんかもたくさんあって、それは美術館だから建築も美術品にしようと思っていて一所懸命やった結果だろうと思うんですけど、これは大概裏目に出て、うるさい。つまり鬱陶しくてうるさいというこの二つの批判が多い。うるさいというのは、そういう別な要素が目に入ると肝心の絵や彫刻をちゃんと見ることができない。ディスターブ(邪魔)してしまう。
われわれがここで考えているのは、基本的にギャラリーというものが美術品を展示する背景になるべきものであるから、この建物は外から見れば全体としては非常に主張があるのですけれども、ギャラリーの中に入ってくると、形や色で主張はしていない。むしろそこは抑えてありまして、ここで何を感じるかといえば、建築的には光と比例と部屋のサイズ―高さの感じとか、垂直感とか、水平感とかいうそういうものですね。そういうものだけを感じていて、具体的なものがそう目に入ることはないということを目標に考えています。
まず、床を板張りにする。これは堅木の板張りですけれども、いろんな重い彫刻であるとか何かを扱っても大丈夫というふうになっている、ということが一つ。それから、いろんな模様というものは出てこなくて、むしろ木の素材、しかもそれもある程度色を整えた、木の木目が妙に見えてくるようなものじゃない、そういう板を使いますので、床というのは一つのユニフォームな面であるというように考えています。
壁面は全面真っ白く塗られた壁面で、これは建築的にいうとドライ・ウォール─日本でいうとプラスターボードですね。厚手のプラスターボードの裏に人造木材を張って二重にしてある壁面なんです。これはなぜかというと、壁面に釘を打てる。それで釘穴はあとで潰してもらう。そのためのメンテナンスということは実際に必要になってくるんですけど。
これは、世界中のギャラリーや美術館が長年何が美術館の壁面で一番いいかという研究を重ねてきた結果なんです。芸術館ではほとんど毎回展覧会を組み立てていって現代美術ギャラリーという、そういう性格を持っていくと思いますので、そうすると非常に活動的な空間になっていくだろう。それを実現させるにはその都度釘の穴がでてきたら潰して塗りかえるという、そういうやり方でやるのが世界中でこれが一番、メンテナンスから言っても、見かけから言ってもうまくいくというのが、大体この10年か15年ぐらいの間に定着してきているものなんです。また、もし展覧会で壁面を暗くしたいということがあれば、そこは暗いペンキで塗ることができる。平気で塗っていいというように考えています。ですから、ピンクの壁面を使った展覧会ということも十分できるわけです。本当の一番新しい取れたての作品を展示できる場所。そのためにこういう素材が考えられる。
それに応じて照明が非常に問題になるわけです。はじめに申しましたように、照明は部屋の雰囲気をほとんど決定づけますから自然光の状態と人工光の状態にある部屋を順々に訪れていくというそういう体験だけで一つのリズムが体の中で生まれてくるような、そういう形にしたい。いま「ギャラリーC」と言っていますけれども、ここはピラミッド形の部屋ですが、縦9.5メートル、展示の壁面の高さが5.4メートル。5.4メートルというと二階分のものですから超大作も掛けられる部屋です。ここは天井が斜めにピラミッド状になっていまして、その一番頂点から光が入ります。
もちろん断面を見れば縦よりも横のほうが長いんですけれども、ピラミッドの頂点まで15メートル弱ありますね。というと、この部屋に入るとドーンと垂直に高い塔があるという感じがしてくると思います。そして光が真上から降り注ぐという、そういうタイプの部屋になっています。これがまず一つのタイプ。
もう一つは、このAとEというギャラリーですけれども、これは普通の寄せ棟のような形の天井になっていまして、これも中央が自然光になっています。この二つの部屋は天井を閉ざすことができるわけです。ブラインドというか、ロール・スクリーンが天井に入っている部屋です。この部屋の大きさは、幅が9メートル、奥行きが19メートル、壁面の高さが3.6メートル。こういう高さですので、これ自体としてもかなり大きい部屋という感じがすると思いますが、ここの場合には縦横の比例がかなりバランスして安定した部屋になると思います。というのは基本的に正方形の二倍のプランをしているわけです。
その間にあるBとDとIという部屋は天井がやや低くて展示壁面が3メートルで、ここは天井に自然光が入りません。むしろ天井を低くして、たとえば紙の作品─版画とかデッサンのような、比較的自然光を嫌うものがありますから、そういうものはむしろ目を低くして見るというようなものですから、こちらを使うことができる。ここも3メートルありますから大概の作品は掛けられます。
そういうことでバリエーションがあるわけです。非常に横に長いIというギャラリーとか、垂直性のあるCとか、比較的まとまったEとか、いろんなタイプの部屋がつながっています。
そこで次の問題として「自然採光」というのがどういう問題を起こすのかということになるんですけど、これはいまいろいろな模型をつくって、光が一日のうちでどういうふうに変わっていくのか、どういうような光の分布状態がギャラリーの中で生み出されるかというような、そういうスタディをやっています。これに使うガラスは紫外線をカットするガラス─ドイツの会社でつくっている一種のプラスチックの繊維─それをガラスでサンドイッチして光の透過を調節している。いろいろ厚みがありまして必要に応じて光の量をコントロールできるというものなんです。これを日本の美術館では初めて─実はこれをロサンゼルスのMOCAで探して使ったんですけれども、非常に効果がよかったので、ここで日本で最初に使うことにしています。
人工照明は光の質がいつも問題になっていまして、いまいろいろな種類の蛍光灯ができて、自然光に一番近いといわれているんですけれども、やっぱりどう見てもブルーというかグリーンになっていまして、写真を撮ると蛍光灯はグリーンに写りますから、したがって、当然ながら絵の色が生き生きしてこないということがあって、これは避けることにした。
アンビエンライトというのは特定のスポット照明をやらずにギャラリーで普通に照明をしてあるという状態のものですが、150ルックスあれば、むしろ版画やその他はそれ以上あってはいけないということが多いし、もっと減らしたいというケースもありますから、これをベースにして、その上でもっと明るく当てたいときにはシリカのスポット照明、美術館照明ができるようになっている。
美術館と私
それから、いままでの私の美術館建築の経験をちょっと言っておきますと、日本では、県立、市立の中規模の美術館を二件、これは群馬県立近代美術館と北九州市立美術館と二つやりました。その他に、小型のものを二つやっていて、一つは岡野山美術館という横尾忠則さん個人の作品を展示する美術館と、昨年オープンした原ミュージアムアークという、これは渋川市にできた、主として夏のリゾートの時期の時期にオープンするもの。この四つがいままでにあります。
外国ではロサンゼルスのMOCAという現代美術館、これは3年前にオープンしました。現在進行中のものではニューヨークにブルックリン美術館というのがありまして、これは総合的な美術館で、エジプトから現代美術まで様々なセクションが展示される非常に大規模なもので、恐らく来世紀までかかるだろうというようなペースで仕事をしていますが、かなりの部分はこれから数年以内に第一段階ができる予定で作業をしています。
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