音楽ホ−ルに関しては、私はこれまで二つ小屋をつくってきました。一つは「ノヴァ・ホ−ル」という、つくばセンタ−ビルの中にあるもの。もう一つは「カザルス・ホ−ル」という、お茶の水スクウェアにあるものです。この二つは前者が約1000、後者が約500席で、大小ちょっと差がありますけれども、同じコンセプトでやっておりまして、どちらも長方形の空間です。この長方形のホ−ルのモデルになったのは、ウィ−ンに「ムジ−ク・フェライン」という劇場がありますが、そこの長方形のプランを原形にしてきたものだというふうにいっていいと思うのです。ウィ−ンのは2000弱入るもので、もうちょっと大きいわけですが、世界で一番いい音響特性をもっているホ−ルだというふうにいわれています。
それを手がかりにやったのですが、水戸ではもう一つ違ったタイプのものを考えていまして、この形式というのは、どちらかというと、ベルリン・フィルハ−モニ−で考えられている、ちょうどアリ−ナ形式と呼ばれているもの、日本では「サントリ−・ホ−ル」が若干それに近づいていますけれども、そのタイプが原形になっていて、観客席の数は700くらいですから、中の小ぐらいのホ−ルですね。
基本的には500以下だと室内楽という形になりますけれども、700ぐらいだと小編成のオ−ケストラも入れられるというぐらいの感じですから、小ホ−ルともいえない、音楽ホ−ルとしては中ホ−ルなのでしょうね。そういう形式で、楽器の編成も、つまりフルオ−ケストラというのはちょっと無理だけれども、小編成のオ−ケストラはできる。それからそのほかのあらゆる室内楽に相当するものは、もちろん全部できるというようなスケ−ルのものですね。
このプランは、ちょうど手のひらを広げたようなプランをしています。そしてその手のひらの真ん中が舞台になっていて、指の方角に観客席が広がっている。そして舞台の裏側にも観客がまわり込めるし、かつそれをコ−ラス席に置き換えることもできるという仕組みになっていて、中ホ−ルなのだけれども、大ホ−ル的な気分を出せるような、そういタイプのものになるのではないかと思います。
そこでかなり特徴的なことは、ホ−ルの中に入ると、壁からちょっと離れて大きな柱が三本立っています。この三本の柱で大きい屋根を全部支えています。この柱はもちろん座席の邪魔になるということはないのですけれども、手のひらを広げた形の観客席のちょうど指の付け根くらいのところに二本立っていて、さらにもう一本の柱が舞台の真後ろにも立っている。その三本が大きい天井を支えているのです。そうして、その天井の真ん中が必要に応じて上下するようになっているのです。臨場感の楽しさ
観客席は基本的には五つに分かれていて、平土間から傾斜がついて上がっていくところが三グル−プある。その両サイドにバルコニ−席があるということで、結局五本の指のようになっているわけです。それでその五本の指の真ん中の二本のコ−ナ−に柱が立っている、そうい仕組みになっています。レコ−ディングとリハ−サル
その次には、騒音がいかに入ってこないようにするかというのが音楽ホ−ルの最大のポイントの一つなのです。それに、外からの雑音が入ってこないということのほかに、空調とか、そういうものから発生するノイズをいかに減らせるかということがその次にやっぱり問題になってきて、これはこれまでやってきたホ−ルの経験からすれば、今回の場合もかなり下げることができる―下げるということは、要するに雑音をカットすることで、これが下がると、レコ−ディングのスタジオに使うということも可能になってくる。
現在のレコ−ディングのスタジオというのは、空間的な残響や反響というようなものは、ライブでない限り、むしろそういうことを全部排除して楽器の音を直接レコ−ディングして、それを組み合わせてレコ−ドやテ−プにしてしまうという傾向になっていて、ホ−ルのもっている響きから生まれてくる音というものがレコ−ディングではあまり重視されてこなかった。ところが、ホ−ルのライブ演奏をレコ−ディングしたものというのがいま見直されてきている。今までのやり方ではどうしても機械的な音になってしまうのに対して、ホ−ルがもっている特徴がいろいろと影響してくる、そういうレコ−ドがふえてきつつあるのですね。で、ライブというのは、なにも観客が拍手したりワイワイいったりというようなライブということではなくて、観客がいなくて、演奏だけやってもいいということなので、やっぱり違ってくるということなのです。そういことができるぐらいの基準をここでは確保したい―つまりこれは遮音性というレベルで考えていて、遮音が完璧にいけば、レコ−ディングもできるし、そうすると響きのあるレコ−ドというのができ上がってくるということになる。これはぜひとも実現させたい目標の一つだとい うことです。
ですから結局、今日みたいにビデオとかレコ−ドとかいうものが発達しちゃうと、特に音楽の場合には演奏会に行かなくてもいいじゃないかというふうになっていく。映画館だって行かなくなってきた。映画館に行かなくなったけれども、やっぱり行った方がいいと思うのは、スクリ−ンの大きさが違うということがありますね。実は音楽の場合というのは、もっとそれがはっきりあって、ホ−ルにいる臨場感が感じられることによって、やはりもう一つ、単純に音を機能的に満足して聴かせるということだけではなくて、三つも四つも次のファクタ−をつけ加えることによって臨場感を生み出す。この感覚がおそらくホ−ルにわざわざ聴きに行くモメント(重要性=moment)の一つだというふうに思いますから、それを感じられるようにホ−ルというのはしなければならない。この点でこのホ−ルは先ほどいいましたように、場合によったらお互いに視線が合うような、観客側をも感じさせるような配置になっていますから、よりいっそうの臨場感が観客の中で感じられると思います。そうしない限り、空間というもののもっている意味というのはないわけですから、そこはぜひともうまく考えていきたいと思っています。
世界に誇るオルガン・ホ−ル
最後に、オルガン・ホ−ル(エントランス・ホ−ル)について。これは道路側、広場側、両側からともこの建物に入るときにともかく必ず通過しなければならない、そういうホ−ルなのですが、ここのホ−ルは天井を高くして、いわばヨ−ロッパ教会のようなプロポ−ションをもった部屋になっていて、二階にパイプオルガンが設置されています。
これは2種類の意味をもっているのです。一つはこのホ−ルがエントランス・ホ−ルではあるけれども、場合によってはこれはクロ−ズして、他から切り離して純粋にオルガン・ホ−ルとして使おうというのが一つです。それから、正式のコンサ−トをやっているのではなくても、たとえばヨ−ロッパの教会などに行くと、普段オルガンの練習が行われていたり、ある時間になるとオルガンが演奏されていたりというようなことがありますが、この二つの意味をもった、純粋な演奏会という目的と、それから一種のバックグラウンド・ミュ−ジックのような性格をもたせるようなオルガン音の流れ、この二つをここで考えているというわけです。
その場合になぜここでオルガンをもってきたかという問題がその次にあるのですが、これは常識的にいうと、コンサ−ト・ホ−ルの中にコンサ−ト用オルガンを入れるというのがみんないまのホ−ルの常識になっています。それをあえてやっていない理由というのがありまして、これは一つは残響時間の問題があるのです。パイプオルガンの響きというのは、ヨ−ロッパで教会音楽として発達したということから考えてもわかるように、残響時間の非常に長い教会堂の中で演奏するためにつくられてきたのがこのオルガンの特性なわけですね。
それを具体的にいいますと、残響時間が5秒とか7秒とかいうような、あるいはもっと長い残響時間をもっている教会堂があって、そういうところで響いてくるオルガンが一番オルガンらしいものに見えてくるということが実際に考えられるわけです。ところが、その長さをもったコンサ−ト・ホ−ルというのは、これは音楽ホ−ルとしてはほとんど使いにくい。とりわけ打楽器などを使う曲目では、残響時間が5秒もあったら響き過ぎて、もう全然聞こえないということになって合わないわけです。それで結局どこでも、オルガンの響きを減らして、コンサ−ト・ホ−ルに合わせるというのが妥協の産物としてやられている。それでだんだん、その妥協したオルガンを聴いているとぼろが出る。何となく枯れたというか、音の響きが悪いし、せっかくのオルガンの感じが全然出てこないというのが一般的にいえるわけです。そこでこれをごまかすために電気的にオルガンの音響だけを増幅する装置とか、そういうものも世の中には発明されていて、これを使うということも考えられますけれども、しかしこれは姑息なやり方であって、いかんともしがたい場合はいいけれども、普通あまりとるべき方法ではないというふうに思います。
ですから、やっぱりオルガンにはオルガン専用の部屋が本来演奏会場にあるべきなんで、そうした場合に、コンサ−ト・ホ−ルから追い出して−−追い出してというか、エントランス・ホ−ルが具体的には教会のような形体になっているわけだから、それを徹底してオルガン用の音響特性にしてしまえばいいというのが今回のアイデアなのですね。これは5秒ぐらいの残響時間です。おそらくメインのホ−ルはそれに対して1.6秒とか、それくらいの残響時間になると思います。だから、全く残響の関係が違うわけですね。そしてここで常時−−まあ、常時でなくても、ときどき演奏会がやられる。
もう一つは、人が入ってきてざわめいていると、あまり完全なパフォ−マンスにはならないんですけれども、教会に行ってもぶらぶらしながら来ている人もオルガンをふっと聴いていることもあるし、練習やちょっとしたBGM的な性格を持たせても、このオルガンの場合はいいのではないかというふうにも思っていまして、それであえてここへもってきたということです。この部屋は普段はがやがやすると音が響く部屋になると思いますけれども、これは逆に空間がそれだけ響きのある空間になりますので、違った印象を受けるだろうというふうに思っています。
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