館長挨拶

水戸芸術館 館長 吉田 秀和

水戸の復興に向けて -- 芸術館が芸術を発信する意味

 東日本大震災により被災された皆様方に心よりお見舞い申し上げます。
 僕は、震災があろうと原発の問題があろうと、芸術が人間の心に関わる在り方というのは、本質的には変わらないと思います。音楽家は人に何かを働きかけようと思ったら音楽を通じてやる。それは地震があった時も無かった時も、戦争があった時も無かった時も、他にやりようがない。美術家も同じです。ただこのような異常な、常識で考えられないような程度の災害が起こった場合には、音楽家が音楽の中で表現すること、美術家が美術を通じて、演劇家が演劇を通じて言いたい事、そういうものの訴えかけの緊張度は高まると思います。けれども芸術が何であるかということの本質的なところは、どんなことがあっても変わらない。
 ただ、今度もこういう事件が起こってみると、幸いなことに音楽部門で言えば、芸術館のステージで音楽をやってきた演奏家たちは、「僕たちにも何かやらせてくれ。チャリティーコンサートでも何でも僕たちはやる気持ちがあるから。」と言ってきてくれました。そういう意味では、ここに出演する芸術家たちと芸術館との関わりあいの仕方で、音楽家の、あるいは他の芸術家たちの積極性というのがとても感じられましたね。7月に水戸室内管弦楽団が、水戸芸術館での演奏会の後に東京のサントリーホールで、1日に2回演奏会を行うなんていうのは、少なくともクラシックの演奏家の、ことにアンサンブルの非常にきめの細かい仕事をやる人たちにとっては考えられないようなことなのですが、これが僕たちから働きかけるのではなくて、音楽家の方からそういうのをやろうという意志表示があって、それではといって芸術館のスタッフが仕事のスケジュールや場所を決めたわけです。
 幸いなことに、この芸術館があって、それから、水戸では道路に亀裂が入ったり、市役所などにもいろいろな災害があったにも関わらず、水戸の市役所の方では芸術館の損害に対して、それを修理する予算を出してくれた。僕はとっても、大変失礼な言い方かもしれないけど、水戸ってすごいなと思いました。
 今年度(2011年)の事業は全てが復興支援事業という訳ではないけれども、結果として復興の支援に役立つことを僕は願っているし、僕だけじゃなくて芸術家たちはみんなそう思っていると思います。音楽家は音楽をやる、それが人の心に、生きる力に役立つだろうと信じているから、音楽家になったんですよね。だから、彼らは自分が活動することが復興支援のどこかで役立つことを望んでいると思います。

※これは、2011年5月27日に会議場で行われた平成23年度水戸芸術館事業計画記者説明会における発言からまとめたものです。