現代美術ギャラリー/現代美術センター(水戸芸術館美術部門)
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椿昇ワークショップ・水戸のご老公

第1部:1999年 2月25日(木)から28日(日)
理論演習「宇宙老人アキラ ─電子身体を楽しむ」

第2部:1999年 2月28日(日)
公開講座「パラダイムシフト ─2002年を視野にして」

この度、水戸芸術館現代美術センターでは、高齢者と社会との新しい関係形成をテーマとする<ワークショップ・水戸のご老公>を1999年 2月25日から28日の会期で開催することにいたしました。

今回のワークショップでは、総合プログラムディレクターを現代美術作家の椿昇氏にお願いいたしました。椿氏は、隣接しながらも互いに接点を持つことなく専門化、細分化し孤立化を深めていく現代社会の今ある問題を並列に並べ、相互に関係させることで、硬直状態にある状況を露わにし打開するためのヒントを提示することをテーマとしています。

第1部の理論演習「宇宙老人アキラ ─電子身体を楽しむ」では、高級アニメーションシステムを用い、最先端をゆく映像製作の実習を行います。第2部では、言語・数学・アート・情報の各分野の論客をゲストに迎え、シンポジウム「パラダイムシフト」を開設します。


開 催 概 要
開講日時 1999年 2月25日(木)から28日(日)
第1部: 25日から28日 理論演習「宇宙老人アキラ ─電子身体を楽しむ」(15人限定)
第2部: 28日午後 公開講座「パラダイムシフト ─2002年を視野にして」(300人)
会場 水戸芸術館会議場
主催 水戸芸術館現代美術センター
企画・構成 椿 昇(アーティスト)
森 司(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
技術協力 日本電信電話株式会社
ソフト協力 株式会社エヌ・ケー・エクサ 
プリンター協力 EPSON販売株式会社
マシン協力 日本インターグラフ株式会社
お問い合わせ E-mail: akira225@arttowermito.or.jp
水戸芸術館現代美術センター(茨城県水戸市五軒町1-6-8) 
電話: 029−227−8120 (担当・森)




第1部:理論演習「宇宙老人アキラ ─電子身体を楽しむ」
カナダのサイドエフェクト社が開発した高級アニメーションシステム・Houdiniを用い、最先端をゆく映像製作の実習を行います。一見表層的に見えるアーケードゲームやSFX映画といったポピュラーカルチャーを支える世界の深部において、電子と対話するために生み出された新しい言葉によって、哲学と科学が融合していることを体験していただきます。
演習では、3人1チームとなって作成したキャラクターに命を与え、人間らしい感情表現を与える過程を通じて、電子文化をコントロールするプログラムの概念に触れていただきます。
単にコンピュータの操作を覚えたり、ソフトを使いこなすという目先の効果にとらわれず、21世紀の電子文化は何を求めているのかという鉱脈に触れていただきます。また、インターネットに始まったコミュニケーション革命のゆくえをネットワークの中に発見していただきます。
会期 1999年 2月25日(木)から28日(日)
会場 水戸芸術館会議場
対象者 60歳以上の方で、電子メールをすでに使用され、全日の参加が可能である方。(3Dアニメションソフトの使用経験の有無は問いません。)
募集定員 15名 (定員になり次第締め切らせていただきます)
ワークショップは、3名1チームとして5チームで実施いたします。グループでのお申込みも可能です。
お申し込み後、インターネット上メーリングリストに加わっていただきます。
また、「子供達に伝えたかったこと」をテーマにした物語の絵コンテもしくは文章を事前にご提出いただきます。
お申し込み方法 水戸芸術館チケット予約センター(029−225−3555)にお電話ください。
受付開始日 1999年 1月20日(水) 9時30分から
受講料 4万円 2万円 (ワークショップ受講料、交流会費、市民講座#4聴講料、公開ジンポジウム聴講料を含みます)
3名様のグループでお申し込みの場合は1グループ4万円とさせていただきます。
水戸芸術館までの交通費及び滞在費は含んでおりません。
お支払い方法 ワークショップ参加費は、申込みの日から1週間以内にご来館いただくか、指定の郵便振替用紙でお振り込みください。なおご入金なき場合は、キャンセル扱いとさせていただきます。
講師陣 椿 昇(アーティスト)
谷口 直嗣(プログラマー)
下村 知央(システムエンジニア)
松本 空(グラフィックデザイナー) 
ワークショップ環境 使用ソフト: Houdini (Side Effects Software社)
3Dアニメーションシステムとして、ハリウッド映画「アポロ13号」「インディペンデンス・デイ」「コンタクト」「タイタニック」などのビジュアルエフェクト制作に貢献し、この功績により98年3月にオスカーの技術部門賞を受賞しています。
使用マシン: TDZ 2000 GL2(日本インターグラフ株式会社)
各人1台ずつご用意しております。LANで繋ぎ、インターネットと接続しております。


第2部: 公開講座「パラダイムシフト ─2002年を視野にして」
言語・数学・アート・情報の各分野の論客をゲストに迎え、シンポジウム「パラダイムシフト」を開設します。来るべき21世の社会を考え、適応するにはどのような問題意識を持ちそれを問い続ける必要があるのか討論していただきます。
日時 1999年 2月28日(日) 13時30分〜16時00分 (13時開場)
会場  水戸芸術館コンサートホールATM
定員300名  全席自由
パネリスト 田中康夫(作家)
浪川幸彦(名古屋大学教授、数学者)
椿昇(アーティスト)
モデレータ 高橋潤二郎(慶應義塾常任理事、環境情報学部教授)
聴講料 500円
チケット:当日、水戸芸術館チケットカウンターにてお買いもとめ下さい。




椿昇ワークショップ・水戸のご老公 プログラム


2月25日(木) ガイダンス
第1部: 理論演習「宇宙老人アキラ ─電子身体を楽しむ」
15時00分〜15時15分:ご挨拶、他
15時15分〜16時15分:「アート・アルマゲドン」(コンピュータとアートの宇宙)
--Houdiniの映像と自作品をスクリーンで紹介しながら…
16時15分〜16時30分:休憩
16時30分〜18時30分:「ハードウエアとOSに馴染む」
--ハードウエアの基本的な仕組みとOS WindowsNT4.0の解説
18時45分〜20時00分:懇親会

2月26日(金) 実習初日
10時00分〜12時00分:実習1「レオナルドのデッサン」(パーティクル演習) 
--自然科学がよみがえるルネッサンス期の苦闘を、物理式を使うパーティクルの実習を通じて体験する。 
12時00分〜13時00分:昼食
13時00分〜15時00分:実習2「生命は沼に」(階層構造とモデリング演習)
--Houdiniのバイオブラウザの階層構造を理解しながら、生命を電子粘土の中に作る。
15時00分〜15時30分:休憩
15時30分〜17時30分:実習3「男らしさのヒミツ」(アニメーション演習)
--パス・インバースキネマティクスなど様々なアニメーション手法を実習し、積み木や魚に人間らしい動きを与える。 
18時30分〜20時00分:第4回市民講座 「明日を担う新しい高齢者たち」 
講師:エルダー・ホステル協会会長 豊後レイコ
アートを育み楽しむ精神をテーマに開催される市民講座を聴講します。

2月27日(土) 実習2日目
10時00分〜12時00分:実習4「ヒロスエ効果」(カメラワーク演習)
--"見る"と"見られる"という相互作用が、世界を魅力的な姿に変える過程を探求。
12時00分〜13時00分:昼食
13時00分〜14時00分:鑑賞「宇宙の和声」(Java、VRML)
それぞれのコンピュータをインターネットで繋ぎ、南カリフォルニア大学のサーバーに置かれた下村の作品に参加する(お互いを惑星として認識する仮想社会の実験)
14時00分〜14時30分:休息
14時30分〜18時30分:実習5「デジタル・パペット2」(応答アニメーション完成)
--「笑う、泣く、居眠りする、怒る」などを繋ぎ、それぞれのチームがパペットに命を吹き込む。
18時30分〜20時00分:休憩
20時00分〜22時00分:クラブ活動
1)頑張り隊部:テクスチュア・マッピングとレンダリングまで欲張る(夜間マシンにレンダリングさせ、翌朝巨大インクジェットでプリントアウト!)顧問:松本
2)遊び隊部:ネットワークの対戦ゲームに血道を上げる(専門のゲーマーを招いて)顧問:椿
3)やすらぎ隊部:ホテルで休息

2月28日(日) 実習最終日
10時00分〜12時00分:発表会
12時00分〜12時30分:エンディング「ヒューマンインターフェース」 講師:椿
12時30分〜13時30分:昼食
13時30分〜16時00分:
第2部:公開講座「パラダイムシフト」(13時開場)  
会場:水戸芸術館コンサートホールATM 全席自由、定員300名
パネリスト:浪川幸彦(名古屋大学教授、数学者)、田中康夫(作家)、椿昇(アーティスト)
モデレータ:高橋潤二郎 (慶應義塾常任理事、環境情報学部教授)



「宇宙老人プロジェクト」 in Art tower Mito コンセプトシート

椿 昇

A:はじめに

オスグッド・シュラッテル症は、骨格が急に成長する思春期に膝下に痛みを伴ってあらわれます。様々なスポーツを本格的にはじめた若者達にとって、力いっぱい体を動かせるこの時期に「休む」というのはとても辛い試練です。しかし長い目でみると、敢えてこの時期に無理をしないことが将来の活躍と、バランスのとれた美しい成長を約束します。こうして急激な成長に伴ってあらわれる優しいリバウンド現象は、植物や動物の成長、また宇宙の生成にいたる隅々に現れ、先へ進もうとする本能に追いつけなかった器官に癒しの時を与えます。

20世紀のさまざまな困難は、地球レベルで起こった急速なテクノロジーの進歩に人々のメンタリティーが追いつけず、家庭、学校、企業、社会、国家にいたるディレクトリの細部に深刻な機能不全を誘発したことに起因します。この事実をふまえ21世紀初頭は、新たな建設を無理に押し進めるのではなく、家庭から国家に至る隅々において今あるシステムの不整合を見なおし、勇気を持って既得権にしがみつく組織の習性を変更し、不適切な部品を交換することによって知恵と資源の効率的な運用を計らねばならないのです。次世代は、後方にあってシステムを軽量化し、新たなアルゴリズムを組み立てた集団によってもたらされ、先を焦って無謀で無知な計画を強引に実行しようとする組織からは誕生しないでしょう。

未来のために、まず後方に穿たれた不安な空白を補完すべき時が訪れています。テクノロジーの発展に伴う強迫観念から生じたコンプレックスを個々のメンタリティーから取り除き、「知らない」ことからくる過剰な排他衝動を緩和しなければなりません。テクノロジーを他者への優位を保つために使用する人々を遠ざけ、他者への対話に用いる人々を招かなければならないのです。

私、椿昇はアーティストです。美術館はビジョンの生産拠点であり、実験場です。今回のワークショプを水戸芸術館において行う意味がそこにあります。近年実用主義に基づく取り組みが各地で行われ、地域との連携も模索されていますが、美術館やアーティストこそ斬新なプロトタイプを提示する役割を担うべきであり、単調な風景を何度も映写するファクトリーとなるべきではありません。この事実を履き違えると、新たなパラダイムを生むための諸器官は急速に輝きを失い、結果として地域の先進性や豊かさも、誤った平等主義の澱みに沈んでしまうのです。


B:ワークショップ趣旨

かって大家族主義コミュニティーにおいて、その集団を発展させる働き手が直接幼児教育に携わることはありませんでした。多忙な彼らにかわって子供達の養育の中心となっていたのは、前線を退いた老人達であり、経験豊かな彼らの知恵が次の世代を形成する力となっていました。戦後の共同体教育崩壊の原因にはさまざまな要因がありますが、その一端を企業戦士と呼ばれる人々の家庭教育放棄と主婦のパート労働に転化するのは短絡的に過ぎます。根底にあるのは、高齢者を罪悪であるかのように捉え、役目を終わった廃棄物のように扱うシステムを平然と作り出した官僚制度や、未来をみつめる誠意を喪失し先人への尊敬を怠った政治制度というシステムの暴走なのです。
いままで高齢者と子供達が教育の現場で出会うときは、木製玩具や陶芸の製作、地方に伝承された文化的蓄積を語ることに限られてきました。子供達も社会も、彼らは昔の事を教えるものだと頭から決め付けているのが現状でした。…もちろん豊かな文化を伝承することが大切なことは言うまでもありませんが、平均寿命から健康寿命という概念が生まれ、65歳から15年の時間を保証したとき、その充実した時間を新たな出発点として捉えなおしてみることも重要です。孫達が遊ぶテレビゲームをぼんやり眺めるよりも、いっしょにゲームしてみてはいかがでしょう。そして"HOUDINI"を組み立てている人工言語や数学を使って自然現象を再現して見せながら子供達にハリウッド映画の解説が出来るなら、こんなに素敵なことはありません。

時代は、多くのチャンネルが可能になった「CS放送」と、ウィンドウズの登場で身近になった「パーソナルコンピュータ」。インターネットによって加速された「高速通信網」が登場させ、歴史上経験したことのないリアルとバーチャルの融合した世界を我々の身体にもたらそうとしています。この不可思議な時代に遭遇できたことを私は素直に喜んでいます。このプロジェクトの為に組み上げられた若く優秀なプログラマとのユニットは、仮想世界に繰り広げられる物語の生成過程をご紹介(作成)しながら、参加される貴方を時代の熱狂にお招きするでしょう。

おりしも文部省は、ねじれた平等主義によってもたらされた創造力と個性の衰微に危惧を抱き、2002年から「総合学習」というカリキュラムを導入いたします。冒頭でも触れましたが、21世紀には持続可能な循環を生む産業を中心に新たな価値意識をもたらさなくてはなりません。「老人」という差別的な言葉によって機能不全に陥れられた人々、設置したもののワープロ程度にしか利用されず眠ったままのコンピュータ、日々生徒指導に明け暮れ新たなパラダイムを感知する余裕の無い現場の教師。総合学習導入を持て余し、目先の誘惑に屈して意味の無い英会話などに置き換えてしまっては元も子もありません。この「宇宙老人」プロジェクトが、深遠なる人工言語に生み落とされたデジタル宇宙の本質に迫り、表層的な情報に汚染された人々に語りかけるエレガンスとなるように願います。

時間軸を不可逆的なものと捉える意識の薄かった江戸時代には、北斎先生や源内先生が、毎日のように「はやりもの」に飛びついておりました。彼らにおいて高齢は、知的身体的振るまいの豊かなデータベースとして、身体の衰えと見事に交換されていました。このまたとないチャンスを利用して一気に21世紀の「流行りもの」を極め、子供達の尊敬を集めながら彼らのなかに君臨してやろうではありませんか。ふたたび共同体教育の楽しい主体となって逆襲してみようではありませんか。今こそ、グレン飛行士のように宇宙─未知の空間へ飛び出してみてはいかがでしょう。

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