水戸芸術館ACM劇場 (水戸芸術館演劇部門)
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平成17年度文化庁芸術拠点形成事業
ACM劇場プロデュース <現代劇作家の新作>
『La Cucaracha ラ・クカラチャ―ゴキブリの歌』
(作・演出: 長谷川裕久

「稽古場から」 2 -- 水戸芸術館演劇部門学芸員 桜井 琢郎

7月11日の唐十郎氏と長谷川裕久の対談が終わり、水戸へ帰る電車のなかでいろんなこと考えながら・・・

再び稽古場で。

台本がすべて渡された状態で、休み明けに臨む稽古場は、再び台本の内容の確認から始まりました。
今回の芝居は、時間が1868年の箱館五稜郭の戦争から、台詞の上で言及されている終わりは1968年のメキシコ・オリンピックまで、約100年に渡るスパンで進行。 その間、舞台の場所が日本とメキシコを、何回か渡って帰ってくる構造で成り立っています。

時間と空間を飛んで、軽やかに登場人物が日本人とメキシコ人の「はざま」を行き来する様は、単純に見ていて楽しい。 この行き来する様が、今回の芝居を観劇する肝の部分かなと考えています。

時間と空間を往還する運動の「はざま」から、かつての榎本武揚の夢想、日本と日本人の未来の姿が見えてきます。
単に榎本武揚伝説を、劇作家が書こうと思ったのではなくて(当然この物語の主人公は、彼ではない)、榎本というヴィションをきっかけにして、日本の歴史の上で、ちょっとはみ出してしまった人物たちを、そしてその人物たちが関わった出来事を、日本史とは違う視座で描いてみると面白いのではないか。そういうところにこそ、人間の本質、他人とのコミュニケーションの真実がみえてくるのでないかなと、こんなところがこの芝居のメイン・テーマだと考えています。

しかし、そうした榎本武揚の発想のスケール感、ダイナミズムと一言で言ってしまってもいい、幕末・明治期に描かれた、または発揮された彼のヴィジョンは、頭のなかで詳細な世界地図を一瞬の間に描けてしまう「完成された俯瞰の美意識」によって、私たちに感動を与えています。
これは資料を調べれば調べるほどに、面白くなってくるのですが、芝居のはなしから脱線する勢いなので、今はやめにして・・・

後半部分に展開されるシーンを睨みながら、台本前半の稽古を繰り返す日々。

7月17日、稽古した前半部分をまとめて、舞台方、制作方のスタッフに見せる。 後半へ向けての展望がなんとなく見えてきました。
が、ここが新作の怖いところで、こうだと決めつけた瞬間に、急速に芝居が面白くなくなってしまう。 せっかくの新作なのに、予定調和のお約束の芝居になってしまう。

早く台本の先へ先へと行きたい気持ちを抑え、シーンやピースごとに丁寧に芝居を作ることをこころがけて、いつも新鮮な状態でいなければいけない、役者も、スタッフも・・・。 新作の場合は、お客さんにその鮮度のよい舞台を提供して、初めて何らかのコメントを頂けるのでしょうね。
稽古ってきびしいね、とこの時期、いつもいつも感じてます。

7月20日、舞台で装置の仕込み。いよいよ舞台稽古に突入です。

以下に、『ラ・クカラチャ』の<物語へのイントロダクション「日本」「メキシコ」><物語><登場人物>を掲載します。観劇のご参考までに、ぜひご一読を。



イントロダクション

日本: 幕府海軍副総裁であった榎本武揚は、明治新政府軍を相手に箱館五稜郭を戦場とし、北海道に独立国を夢見て戦うも敗北する。 1869年、五稜郭を明け渡し、東京辰の口の獄舎へと投獄された。 しかし、その後罪を許された榎本は、一転して新政府に重用され政府要職を歴任し、1891年、外務大臣となる。 オランダ留学中に培った南進論、海外殖民論という持論実現のために、外務省通商局内に移民課を設置。 当時、増えつづける人口問題の解決策を海外に求めた。榎本は多くの移民団を海外に送り出すが、その行き先の一つに、国交樹立間もない南米は太陽の国、メキシコがあった。

メキシコ: 1876年に権力を掌握した独裁者ポルフィリオ・ディアス大統領は、海外資本とその労働力の移入に貪欲であり、国を切り売りしていた。 しかし、その35年に及ぶ恐怖政治にも幕が下りるときが来る。 1910年、アメリカに亡命していたディアスの政敵マデーロは国民に決起を促し、それはやがてメキシコ中を巻き込む暴動へと発展、ここにメキシコ革命が始まる。 一時は政権を奪ったマデーロも、陸軍首脳ウェルタの裏切りにより暗殺される。 そのウェルタに対抗するのは南部のエミリア−ノ・サパタ、北部のカランサにパンチョ・ヴィラらであり、内乱は続き戦国の様相を呈するようになる。


物語

1947年の日本。
GHQの命令により、外務省下級官吏の男と日系アメリカ人の男が、元アメリカ領事館シカゴ局員・羽田正蔵を尋問している。
早期に講和をなして本国に帰りたがっているマッカーサーからの、「親日国家メキシコを通して、講和のために友好的なムードをつくり上げろ」との指令のためである。 そのための、うってつけの象徴的人物として羽田は召喚された。
彼はかつて、日本政府の密旨により、アメリカとの国境のリオ・グランデ川を超え、革命只中のメキシコに潜入し、将軍パンチョ・ヴィラと渡り合い、革命軍捕虜の数百の邦人を解放。 さらに数千の同胞を北部チワワ州の戦場から救出し、アメリカへ離脱させたその人物とされていた。
尋問の途中、羽田は突然錯乱し、自分を「榎本武揚」であると言い出す。 そしてメキシコの "死のマリアッチ" の幻影を見るようになる。

やがて羽田は、"死のマリアッチ"に促されるように、1913年10月の、メキシコでの出来事を話し始めた。
人種差別的移民法によりアメリカへの入国を拒否され、メキシコ国内に孤立した邦人を救出するために訪れた国境の町、シウダー・ファレス。 ティエラ・ブランカと呼ばれる白い砂漠にあった朽ちた教会、そこに巣くう遥かなる日本の侍たち、「新選組」の話を・・・。

幕末、明治の風雲児、榎本武揚が仕掛けた1897年の夢の事業、メキシコへの「榎本殖民団」。
開国と同時に一気に押し寄せたグローバリゼイションの波のなかで、榎本が夢想した日本と日本人の未来とは一体何だったのか?





登場人物


日本 1947年

男 1 羽田正蔵。元アメリカ領事館シカゴ局員といわれる・・・。
外務省下級官吏の男 GHQの命を受けて羽田にインタビューをする。
日系アメリカ人のGHQの男 ジャップでチカーノ。日系である血を嫌っている。



日本 1877年

相馬主計 共和国五稜郭新選組隊隊長。東京に出て切腹したと言われていた。
市村鉄之助 土方歳三のお小姓。かわいいかもしれない・・・。
柴四朗 会津白虎隊出身。西南戦争に参加後、「佳人之奇遇」で明治のベストセラー作家・東海散士となる。
橋本 新選組の生き残り。抜刀隊士として西南戦争に向かう。
並木 同じく新選組の生き残り。相馬を西南戦争抜刀隊へと誘う。
亭主 新選組のみんなが仲間割れしたり、騒いだりする料亭のオーナー。



日本 1874年

榎本武揚 元蝦夷共和国総裁。後にメキシコ殖民団を組織する。
マヌエル・フェルナンデス 青年エリート・メキシカン。後のディアス大統領の政権下、メキシコに殖民団を招く。



メキシコ 1913年

男 2 メキシコの砂漠で石の花を彫る、抜刀居合術の遊芸人。
男 3 榎本殖民団の生き残りの男。
男 4 自分をアメリカ人だと言い張るカメラを持った男。
男 5 自分を日本人だと言う、靴磨きをするメキシコの百姓。
ウェルタ将軍 革命戦争当時の政府軍首領。
パンチョ 山賊出身の北部の革命家。
サパタ 農民出身の南部の革命家。



死のマリアッチ 羽田正蔵につきまとう、幻想のマリアッチ
マリアッチ・ダンサーズ 死のマリアッチと共に行動する女たち




次回は、『ラ・クカラチャ』の見どころについて、「稽古場から」ご報告させていただきます。本番まで、本当にもう少し。
ぜひ、観に来てくださいね。それでは、またまた・・・



「稽古場から」1

「稽古場から」3



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