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池辺晋一郎、小泉浩 インタビュー
NHK大河ドラマ「元禄繚乱」の音楽を収録しているスタジオにお邪魔して、
今度の
「現代音楽を楽しもう」の公演について、
池辺晋一郎さんと
小泉浩さんのおふたりにインタビューをしてきました。
−今回のプログラムは、池辺さんと小泉さんとで何度も話し合ってお決めになったとお聞きしていますが、そこにはどのようなお考えやねらいがあったのですか。
池辺:小泉は現代音楽作品をいっぱいやってるからね、どの作品をやってもいいんだけどね、たとえばCDに入れてあるような多くの作品のうちのどれをやってもいいんだけど、水戸のお客さんが聴いていて面白いだろうと思うプログラムを組みたかったというのがありますね。だから、割と傾向の違うものをいっぱい入れたという感じですね。
小泉:そう、傾向の違うもの。それとあんまりあの訳のわからんていうか、一時期流行った超現代っていうの、そういうのは避けて、音もいろいろな意味で奇麗だし、見てても楽しいというような作品を揃えました。だから、いろいろ変化に富んでるプログラムだと思います。面白いと思いますよ。
−見てても楽しいというのは、具体的にはどのようなことがあるのですか。
小泉:<ガゼローニのための韻>(松平頼暁)なんかは面白いと思いますね。フルート以外に色々な道具が楽器として出てきて、僕のパフォーマンスも入りますから。
池辺:本当はしゃべらせると面白いんだけどね。(笑)喋ってると2時間たっちゃうからね。
小泉:たっちゃう。終わっちゃうよ。2人で喋っていると止まらないよ。(笑)
−この演奏会の為に書き下ろすことになっている池辺さんの新作<夕暮れの底深く…>についてお教えください。
池辺:現段階ではまだわからんけど(笑)、僕の中のイメージでは、非常にこうスタティックな静かな曲ですよ。静かな曲でずーっとゆったり歌ってゆくような感じの曲ですね。たぶん、そういう意味では、僕現代音楽についてわかりやすいかわかりにくいかという言葉を使うのはあまり好きではないけれど、まあ親しめる曲を書こうと思ってますけどね。
小泉:(池辺氏の)<ストラータII>というフルート・ソロの曲は、途中静かなところもあるけど、いわば「動」の曲ですよね。
池辺:うん、ほとんどそうだよね。動く曲だからね。
小泉:それに対して(今度の新作は)「静」だとするなら、池辺君の2つの面が出てくることになるね。
池辺:<ストラータII>というフルート・ソロの曲はね、とにかく小泉のために書いて、それからしばらくたって出版されたわけだ。そうしたら(小泉氏が)何て言ったかというと、「なんで出版するんだ、どうせ出版したって俺しか吹けねえ」て言ったんだ。でね、ところが実際に出版されたら、それから半年位後にベオグラードからCDが僕のところに送られてきて、そこに(この曲が)入ってたんです。そのCDどこか行っちゃったけどね、10分位の曲の頭の20秒くらいしか聴いていない。とても堪えられなくて聴けたもんじゃないわけ。その話を(小泉氏に)したら、「ほら見ろ、出版なんかするからそういうことが起きるんだ」て言ったんだよね。(笑)
小泉:テンポが倍くらいだったって(笑)。遅くて。
池辺:しかし、僕は楽譜というものは、CDを聴きながら見る人もいるし、必ずしも演奏する人が見るとは限らないのだからって言ったら、「ああそうか、まあそういうこともあるだろうな」と(小泉氏は)言いました。はい。(一同笑)
−今度の新しい曲も小泉さんでなくては吹けないような曲なのですか。
池辺:テクニックというのは必ずしも指が速く動くとか超絶技巧を吹くというのが本当のテクニックとは限らない。それもテクニックのひとつだけれども。逆に非常に精神的に静かなものをいかに持続させるかというのもテクニックなんだよ。そういう彼のテクニックの別な面を出す曲にしたいと思ってますけどね。
小泉:ああいいね。
池辺:それと楽器の組み合わせね。フルートの小泉浩、打楽器の山口恭範、ギターの佐藤紀雄という非常にエキスパートな3人がそろいましたね。
−そのフルート、打楽器、ギターという編成が面白いと思いましたが。
小泉:うん、面白い。
池辺:面白いと思う。書きたかった編成ですね。
小泉:<スタンディング>(近藤譲)も面白いんです。この曲はどんな楽器で演奏してもいいんだけど、僕たちがやった時は、今回と同じ3人でやったんだけど、これもまったく「動」なのね。伸ばしている音なんかひとつも無いの。
−小泉さんは「フルートの現代奏法」(日本ショット)という本まで書かれていていますが、特殊奏法によるフルートの音色というものは、普通にイメージされるフルートの音色とは、ずいぶん違ったもので、新鮮に感じられるお客さんも多いのではないかと思いますが。
小泉:重音(注:管楽器で、同時に複数の音を出す奏法を重音奏法と言います)なんかは、その1つの重音だけ聴くと何だこりゃになるけど、連続して聴くとそれが非常に意味があることがあるんですよ。だから、そういうのも聴いてもらいたいな。
池辺:フルートというとねバッハの<ポロネーズ>とかビゼーの<アルルの女>になったりとかね。そういう風なイメージだけではなくて、もっと色々な可能性のある楽器だということを知ってもらいたいですね。
小泉:1曲目の<ストラータII>だけでもかなりのもの(特殊奏法)が出てきます。きっと、こんな演奏を初めて聴くような人は、わりとその(特殊奏法の)場所になると身を乗り出すんじゃないかな。こんなことも出来るんだとか、なんでこんな音が出てるのかなとか、2つか3ついっぺんに音が鳴ってるぞとかね。
(ドラマの録音の合間を縫って
山口恭範さんが話の輪に加わった)
−山口さんから見て、今回の演奏会の聴きどころはどこですか。
山口:小泉のフルートがね。笛の音がこんなに素晴らしいものだということを音楽であるということ以前にね。それをまず堪能してもらいたい。これが第一。
小泉:(照れくさそうに)誉めすぎなんだよ。
一同:(笑)
−おふたりは学生時代から30年にもわたり共同作業をされてきていらっしゃると伺いましたが、その中でも特に今回の水戸の演奏会はどのような特色がありますか。
池辺:これは「現代音楽を楽しもう」というシリーズの一環なんでね、そこにまったく収斂されるんだけど、要するに現代音楽だからといって別に他の音楽と違うわけではないんだし、いろんな知識や前もって勉強しなきゃ聴けないものだというふうなことなしにね、楽しんでもらおうというコンセプトではじめからこのシリーズをやっているわけです。だからそれこそこれは特別だとか、こういうことを前提に聴いてくださいとか、あまりそういうことは言いたくないんですよ。ただ何もなしにとにかくぱっと来て、楽しんで聴いてくれればいいという、それだけですね。
−話題をかえまして、今ちょうどお仕事をされているNHKの大河ドラマ「元禄繚乱」の録音作業についてお尋ねします。通常の演奏会の準備とはどのような点が違いますか。
小泉:それはやはり、その場でまったく新しい音楽を次々に演奏してゆかなくてはならないので、初見(演奏)の力が無いと駄目なわけです。
池辺:僕もたとえば現代音楽を書くのとちょっと違って、それから演奏家もそうだけど、ある種のアルティザンの世界ですよ。職人の世界ですよね。「元禄繚乱」だけだって、今日は37回目の録音なんですけどね。他にもこういうものはいっぱい何百とやったけども間に合わなかったということは1度もないわけだし。それはプロとして、職業として作曲をやっている以上、それは許されないことだし、演奏家だって皆見事にできるわけだし、これはいわば職人の世界ですよね。それでやっぱりお互い信頼のもてる人に来てもらわないと困るわけで。それと1年間こういうものをやっていると必ずその間に例えばどうしても前からの約束で海外の仕事とか入ったりして、作曲はするけれど、録音の日にいられないということがあるのですよ。これまで実際にあったんだけど、そういうときの指揮者は小泉ですよ。時間ぴったり何分何秒の音楽を指揮するなんていうのはすごくうまいですよ。今年も僕レバノンに行ってて2回くらい来れなかったことがあったんだけど、その時は楽譜は書いて置いていくけども、実際の録音のときに指揮してくれるのは彼なんですよね。もちろん、そのときはフルートは別な人が来るわけですよ。
あははは(笑)。当たり前だけど(笑い)。
小泉:ほら、池辺の音楽は池辺よりよく知っているから。(笑)
−最後に聴衆の皆さんにメッセージをお願いします。
小泉:現代音楽っていうとね、なんか特殊奏法ばっかりで、へんな音ばかり出すんじゃないかという感覚を持つ人が多いんだけど、そうじゃないのもあるから。<海へ>(武満徹)のアルト・フルートのいい音、それから普通のフルートのいい音、綺麗な音、これ以上綺麗な音を出しちゃいけないって言うくらい綺麗な音の音楽もあるし。いろいろだから、まあ聴きにいらっしゃい。本当に面白いから。
池辺:そうだね。それと現代音楽の面白さというのは、つまり、バッハだって、モーツァルトだって、ベートーヴェンだって一応、大作曲家ということになっていて、その作品を聴いてこれはすごく出来の悪い曲だという評価は誰もできなかったりするんだけど、現代音楽っていうのは、たとえば僕の曲を聴いてね、たとえば聴いたあなたが「くだらん曲だ」と思ったらそれでいいわけだよ。なんの前提もなしに自分自身の評価をくだせるという面白さですよ。今はじめてこの世に生まれるものを好きなように評価できる。つまらなかったらつまらなかったでいい。面白かったら面白かったでいい。非常に自由な心を楽しんで欲しいという気がしますね。
−ありがとうございました。
(1999年 8月25日、於:NHK、訊き手:音楽部門 中村 晃)
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