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3種の "メイン・ディッシュ" をどうぞ -- 寺神戸 亮
皆様ようこそ
「ミト・デラルコ」第2回演奏会にお越しくださいました。
今日のメニューは、ハイドン作品50の1、幻の作曲家アンドレアス・ロンベルグ作品16の2、そしてベートーヴェン作品18の2です。
ハイドンの弦楽四重奏曲は70曲以上にのぼり、そのほとんどすべてといっていいぐらいの名曲ぞろいですが、数が多いゆえに、有名な作品以外はコンサートのプログラムに載せられる機会が少ないのも事実です。
また、弦楽四重奏のコンサートではプログラムの最初に置かれ、前座的な扱いを受けることが多いのは残念でもあります。
今回取り上げた作品50の1は、ニックネームがないのであまり知られているとは言えませんが、特に第1楽章の始まりが斬新で、印象的な曲です。
全く調性を感じさせないチェロの反復音の上に突然現れるメロディーともつかぬ断片。
しかも主和音ではなくドミナント(属和音)です!つまり、まず主題の提示から始まるというソナタ形式の常識を、その確立者とも言われるハイドン自身が打ち破ってしまったのです。
他にも,第2主題の存在が薄いこと、展開部から再現部に戻るときに主題の始まりが再現部からの橋渡しの中に隠されてしまって途中からしか再現されないことなど、型破りな様子はハイドンがいかに創造的な人だったかを窺い知ることが出来ます。
詳細は曲目解説に譲りますが、ミト・デラルコはハイドンの作品をライフワークの一つとして、なるべく毎回コンサートで取り上げるようにしたいと思っています。
今回はプログラムの最初に置かざるを得ませんでしたが、前菜としてではなく、いきなりメインディッシュから始まるつもりでお聞きください。
さて、2曲目のアンドレーアス・ロンベルク。ほとんどの方には馴染みのない名前だと思います。
チェロをよく知っている方の中にはべルンハルト・ロンベルクをご存知の方もいらっしゃることでしょう。
そう、このアンドレーアスは彼の従兄弟なのです。
詳しくは、第2ヴァイオリンのディマ君の記事に譲るとして、この作品を発見するに至った経緯をお話いたしましょう。
今からもう10年ほど前、ベルギーの古都ゲントにある本屋の古本コーナーで、いかにも古めかしい皮表紙の四冊の楽譜を見つけました。
普通、このような所にあるものは古い楽譜といっても古くて19世紀の終わり頃、多くは今世紀になってからのものがほとんどです。
しかし、この楽譜は古い銅版印刷で紙に押し跡があり、どうみても19世紀前半に印刷されたもの。
中には18世紀終盤に印刷されたページもあるようでした。
これは珍しい、と思ってよく見てみると、これは弦楽四重奏曲の楽譜で、パートごとに四冊に分かれているのです。
かなり分厚い楽譜で、第1ヴァイオリンのパートは厚さ7センチほどもあります。
とりあえず買っておこう、という感じで手に入れ、後でよく見てみますと、中には18世紀後半と19世紀初頭の様々な作曲家の作品が何と48曲も!
多分貴族の愛好家の持ち物で、もともと別々の楽譜だったものをを一つにまとめたもののようです。
ほとんどの曲は現在忘れられたか全く知られていない作品ばかり。
フィオリロやロードなどヴァイオリンの練習曲で有名な人の作品や、クロンマー、プレイエルのような当時の人気作曲家のものに混じってヴィンター、ベニンコーリなどというたいていの音楽事典には載っていない人の作品もあります。
その中で見付けたのが、ロンベルクの作品16の3曲でした。
最初はチェロのべルンハルトだと信じて疑いませんでした。しかしよくタイトルページを見てみると、A. Romberg となっています。
調べてみると、従兄弟のアンドレーアス・ロンベルクだということがわかりました。
いざ音を出してみると、これが期待以上の素晴らしい曲ばかりです。
その中でも群を抜いて優れていたのが今回演奏する第2番ト短調。
古典派の影響を残しながらもすでにロマン派に大きく足を一歩踏み入れた感じがあり、なかなか新鮮な感動を覚えます。
アンドレーアスの作品は、録音自体が極端に少なく、オリジナル楽器では全く録音されていない上、作品16に関しては現代楽器でも録音された、という記録は全く見つかりませんでした。
現代では完全に忘れ去られた作曲家と言えるでしょう。
現代版の楽譜も出版されていませんから、多分いくつかの図書館に残っているものに自分のものを合わせても、世界に10部と残っていない譜面なのではないかと思います。
そんなわけで、有名な作品と併せて知られざる作品を紹介して欲しい、という水戸芸術館側の要望もあり、今回この作品が(恐らく100年以上ぶりに!)日の目を見ることと相成ったのです。
ロンベルクに関するエピソードが長くなってしまいましたが、今回の本当のメインは、やはりなんと言ってもベートーヴェンの作品18の2です。
作品18の6曲はベートーヴェン最初の弦楽四重奏曲集ですが、どれをとっても名作力作ぞろい。
いずれ全曲演奏しなくては、と思っている曲集です。
今回取り上げた第2番ト長調はハイドンの影響を色濃く残す作品で、第3番ニ長調がいかにもモーツァルト的なのとは好対照です。
ベートーヴェンはモーツァルト、ハイドンそれぞれに各曲を通して敬意を表したかったのでしょうか。
そしてこの曲の最も大きな特徴は、(ここが特にハイドン的なのですが)「ユーモア」であるといえるでしょう。
第1楽章のぶつぶつと途切れる出だしは、いかにも不器用な田舎貴族の挨拶を思わせますし、しっとりと深遠なメロディーの第2楽章の中間部には突然、前のセクションの語尾をもじった非常にばかげたスケルツォが現れて聴いている者を唖然とさせます。
お喋りをしているようなスケルツォの後に来るのは中間部、トリオでの田舎貴族の粋を気取った不器用な踊り、或いはアルレッキーノ(道化)のオトボケでしょうか?
第4楽章は、「若きベートーヴェンの悪乗り、ここに極まれり」、といった感じで、次々に悪趣味と紙一重のおふざけが繰り広げられます。
このようなベートーヴェンのユーモラスな面は、ともすると無視されるか、見落とされがちです。
あのしかつめらしいベートーヴェンの肖像と、数々の偉大な作品の影に隠れて、笑顔のベートーヴェンはなかなか私たちの前に現れてはくれません。
作り上げられた虚像のベートーヴェンとは全く違う、まだいたずらっ子の面影を残した彼の一面をお楽しみください。
私達 "MITO DELL'ARCO" も、「ベートーヴェンに初挑戦!!」と言うよりは、よく知ったハイドンの延長線上に開かれた、新しい世界の発見の喜びを、肩肘張らずに皆さんと分かち合うことが出来れば、と思っております。
どうぞ最後まで、全く味わいの違う3つのメインディッシュをお楽しみください。
寺神戸 亮
8月 ブリュッセルと東京の間の空の上で
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