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吉野直子インタヴュー

吉野直子(ハープ)、ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)、 ヴォルフガング・シュルツ(フルート)の3人によるトリオ・コンサートを前に、 水戸芸術館のお客様にはもうおなじみの、そして今回のコンサートの「仕掛け人」でもある吉野直子さんにお話をうかがいました。 インタヴューの一部は演奏会当日に配布されるプログラム冊子にも掲載されますが、以下はより詳細にその内容を伝えるものです。


吉野直子さんと水戸芸術館

―吉野さんは水戸芸術館にはもう何度も登場されていますから、水戸のお客様にはお なじみですね。

吉野: またかって思われているんじゃないですか(笑)。

―いえいえ。 水戸室内管弦楽団の最初の春(1990年4月)にはフルートの工藤さんと一緒にモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲を弾いていらっしゃいますし、 その後も水戸室内管弦楽団にはずいぶん参加していただきました。

吉野: そうでしたね。水戸室内管弦楽団ではマーラーの〈アダージェット〉、 R.シュトラウスの〈ナクソス島のアリアドネ〉(若杉弘指揮)、去年の武満さんの〈海へII〉 (小澤征爾指揮)…。おそらく室内楽より回数が多いんじゃないでしょうか。

―そうなりますね。それから96年にはフルートの佐久間さんと一緒に、 水戸市の中学一年生の前で演奏していただきました。中学生の前で演奏するというのはいかがでしたか。 実は吉野さんと佐久間由美子さん(フルート)のおふたりに、 中学生のために演奏してくださいって依頼したときには、 正直なところ本当に受けていただけるか不安だったんです。それが実現して嬉しく思いました。中学生のために演奏するというのは、 普段の演奏会とはちょっと違っていると思いますが、いかがでしたか。

吉野: 水戸芸術館のようなすばらしいホールに中学生が来て音楽を聴くという機会はよくあるんですか。

―おそらくこのとき、中学生のほとんどは生まれて初めて「なま」の音楽を聴いたのではないでしょうか。

吉野: 私は子供の頃日本にいなかったので日本の事情はわからないんです。 私の場合には、6歳から9歳までの間、ロスアンジェルスに住んでいました。 ロスにはYoung Musicians Foundationというのがあって、オーディションに合格した若い演奏家たちに、 学校をまわってコンサートを開くという機会を与えていました。 私もそこに加わって、同じくらいの年齢の子供たちの前で演奏していました。 演奏が終わったら質問コーナーがあって、ハープという楽器の構造を説明したり。

―では、水戸芸術館でやっていただいたときと内容が似ていますね。

吉野: あはは、そう。あとは小編成のオーケストラと共演したり。こういうところでは、 「勉強」としてではなくて、音楽を楽しむということができたと思います。 だから水戸からお話があったときには、私もやりたいと思ったんです。 ただ、むしろ、「会場がざわざわして、ちゃんと聴いてくれなかったらどうしよう」とか「中学生からどんな質問が来るかなあ」とか、 あのときも佐久間さんと一緒に、ちょっぴり心配もしました。 これで音楽に興味を持っていただけて、次は水戸芸術館でやっているコンサートにチケットを買って行ってみようという人が、 その中からでてきてくれればいいんだと思います。

―ありがたいお言葉です。

吉野: 実は最近も鎌倉芸術館でやったんですよ。そのときも佐久間さんと一緒でした。 終わったあとでロビーでサインをしたりお話をしたりすることができたんですれど、 予想以上の反応があって「こちらから問いかければ、好きになってくれる人もいるし、 わかってくれるんだなあ」って思って、面白かったですね。 チケットを買っていくコンサートはまた違うでしょうけれど、こういう生徒たちのためのコンサートでは、 あまり堅苦しくならないで、音楽が好きになってもらうことに意義があると思うんです。


「トリオ・コンサート」について

―吉野さんは室内楽でも何度か水戸芸術館に出演されています。オーレル・ニコレさん、 今井信子さんのおふたりとは1992年に、ギドン・クレーメルさんとは96年に、 それから水戸芸術館専属のATMアンサンブル演奏会には92年に出演していただきました。 今回の「トリオ・コンサート」のプログラムは、グバイドゥーリナ、武満、 ドビュッシーのトリオをはじめ、共演者によってずいぶん解釈が変わってくる曲が多いですね。 構成的にカチッとできているというよりは、 演奏家の想像力にまかせる部分の多い曲がたくさん選ばれているように思います。

吉野: まさにそうですね。

―それだけに、共演者との間に信頼関係がないとできないプログラムだと思うんです。 ところで、吉野さんとシュルツさんのインタヴュー(インターネットでも公開中 http://www. music.co.jp/classicnews/) を拝見しましたけれど、そのインタヴューによれば今回の3人の組み合わせを提案されたのは吉野さんだということですが。

吉野: ええ。これまでにシュルツさんとは何度か共演していますし、 ヴェロニカさんとも室内楽をして意気投合をしたので、ぜひ3人でやってみたいと思いました。 それでおふたりをお誘いしたところ快く受けてくださって。

―おふたりとはどこで共演されたのですか。

吉野: ヴェロニカ・ハーゲンさんとはロッケンハウス音楽祭(オーストリア)で、 グバイドゥーリナの<喜びと悲しみの庭>を共演したのが最初です。 この時はギドン・クレーメルさんの発案で、オリジナルのフルート・ヴィオラ・ハープではなく、 ヴァイオリン・ヴィオラ・ハープという編成で演奏したんです。 このメンバーでロッケンハウスとダシュタード(スイス)とザルツブルク(オーストリア)の音楽祭をまわりました。 これでヴェロニカさんとは意気投合して、その後も演奏会には何度かうかがっています。

―そうだったんですか。シュルツさんとは?

吉野: シュルツさんとはこれまでに何度も共演しています。音楽的にとても包容力のある方です。 今回のプログラムではドビュッシーのトリオと武満徹の<海へIII>を一緒にやったことがあります。

―吉野さんが信頼を寄せるおふたりとの初めてのトリオというのですから、楽しみでしょうね。

吉野: ええ。このふたりとはこれからも長く共演できればと思っています。 今回が初めてですから、まだ予想できないところもいろいろありますけれど、一緒に練習していくうちに、 それぞれがどんどん変わっていって、音楽がまとまっていくんだと思います。

―プログラミングについても、やはり吉野さんが中心になってお決めになったんですか。

吉野: ずいぶんシュルツさんの知恵もお借りしました。 私は最初からドビュッシーと武満のトリオをやりたいと思っていました。いろんな時代のものをやるよりは時代を絞った方がいいと思って、 そうしました。現代ものが中心なんですが、決して前衛的というわけではなく、 聴いて美しく感じる曲を集めたつもりです。このプログラムは、ヴェロニカさん、シュルツさんというおふたりとトリオを組めるというので決めたものです。 信頼関係がなければこうはしなかったと思います。プログラムの原案は、 経験豊富なシュルツさんがいくつか出してくださいました。それで話し合ううちに決まってきたんです。

―今回演奏される作品には、武満徹の〈海へIII〉があります。 〈海へ〉は、元来アルト・フルートとギターのために作曲されたのですが、武満さんはその後、 アルト・フルートとハープと弦楽合奏という編成にした〈海へII〉と、 アルト・フルートとハープのための〈海へIII〉を作成されています。吉野さんは、去年は小澤征爾さんの指揮、 工藤重典(フルート)さん、水戸室内管弦楽団との共演で〈海へII〉をヨーロッパと日本で演奏されましたし、 今回は〈海へIII〉を演奏なさるわけです。水戸のお客様は、ふたつのヴァージョンを続けて聴けることになりますね。

吉野: 本当ですね。

―それから武満さんのもう1曲の作品、<そして、それが風であることを知った>は、 7年前に吉野さんが、ニコレさん、今井さんとご一緒に水戸で世界初演された作品で、これも水戸のお客様にはゆかりの作品です。

吉野: そう、あのときはツアーの最初の日が水戸だったんです。フルートのヴォルフガング・シュルツさん、 ヴィオラのヴェロニカ・ハーゲンさんとご一緒する今回のツアーでも水戸が最初なんです。

―そうなんですか。7年前の演奏会はすばらしい内容で、そのあとCDにもなりましたね。 確か、96年のクレーメルさんとのデュオのツアーの時も水戸が最初で、そのあとCDになりました。 ですから今回の演奏会に寄せる期待もおのずと大きくなるわけです。 ところで今回のプログラムでは、吉野さんだけソロがありませんけれど。

吉野: これは、シュルツさんとヴェロニカさんを皆さんにご紹介したいと思ってそうしました。 私は〈ラクリメ〉や〈海へIII〉などの二重奏でも充分に自分を表現できると思いますので。

―そういう奥ゆかしさが吉野さんらしいですね。 ストラヴィーンスキイの〈エレジー〉とドビュッシーの〈シリンクス〉でヴェロニカさんとシュルツさんがソロをやって、 ハープの音が途絶えたところでドビュッシーのソナタを効果的に響かせようということなんですね。

吉野: (首をたてにふって)そうです。


音楽家・吉野直子さんのこと

―演奏を聴いていていつも感じるですが、そして今日お話をうかがっていても同じ印象を持つのですが、 吉野さんはとても柔軟な方でいらっしゃいますね。 状況に応じてふさわしい対応を瞬時に判断なさる方だと思います。今回のプログラムでも、 例えば、ブリテンの<ラクリメ>では、ヴィオラの即興的ともいえる自由な動きに対して、 ハープは離れることなく付き添わなくてはなりません。こういう伴奏的な役割、 それから協奏曲の独奏、ひとりだけで演奏するソロと、吉野さんはそれぞれの役割をとても柔軟に、 自覚的に演じ分けていらっしゃると思います。ご自分ではどういう役割が特にお好きなんでしょうか。

吉野: みんな好きです(笑い)。どれが欠けてもいやですね。自分ひとりで演奏するときには、 すべて自分の思ったとおりにやれるという面白さがありますし、 人と共演していて自分が伴奏的な役割をするときには、相手の人のやりたいことを一生懸命聴いて、 理解して、そのうえで、伴奏だけに徹するのではなくて、 そこに自分の考えを「放ってみる」ということをします。これは今回の演奏会のように信頼関係があって、 リハーサルも充分できないと無理ですね。人と一緒に演奏するときには、 相手に何かを要求されたときに、自分ではそれまでできないと思っていたことができてしまったり、 いろんな発見があります。私も相手にとってそういう存在でいられればいいなと思いますけれど。 室内楽はそれが面白いのだと思います。会場のお客様には、そういうやりとりを聴くだけでなく、 目でも見て、その空気を共有していただけると面白いと思うんです。こういう感じというのは、CDやテレビでは伝わらないと思うんです。 特にシュルツさんやヴェロニカさんはそういう空気をとても大切にする人たちですから。 それは楽しみであると同時に、自分にも厳しさを要求されるということでもあります。 おふたりとも、ちょっとしたことにも反応するすばらしい音楽家たちです。

―きっとそうなんでしょうね。

吉野: それから協奏曲となると、オーケストラとの間でそういうことをするのは無理なので、 指揮者と相談してその方の意図を理解しながら、一方で自分はソリスティックに弾くことになりますから、 ソロと室内楽の中間に位地するのでしょうか。

―お話をうかがっていると、吉野さんがソロや室内楽、協奏曲の独奏と、 それぞれを非常に楽しんでいらっしゃっているのがよく分かります。マンネリに陥ることなく、 常に新鮮な気持ちで挑むことがおできになるのでしょうね。

吉野: ハープの場合には、ヴァイオリンやピアノと違って、 好むと好まざるとにかかわらずレパートリーが限られているというのもありますけれど。

―もちろん、それはそうですが。

吉野: 私の場合、「あなたは、これだけやりなさい」というふうに決めつけられるのにはとても辛く感じるところがあって、 音楽以外でも、いろんなものをオープンに、広く知っていきたいと思うんです。そういうところが音楽をするときにもでているのかもしれません。

―吉野さんの柔軟さは今回のプログラムにも表れていますね。 グバイドゥーリナとドビュッシーという対極にあるような音楽を、どちらも自然に演奏される方は、そうはいないと思いますから。

吉野: そうでしょうか。私は感覚で入っていくタイプで、もちろん時代背景や知識も必要ですが、 私の中ではグバイドゥーリナもドビュッシーもそんなに違わないんです。

―そうおっしゃられるのは吉野さんならでは、かも知れません。

吉野: 私はもともと良くも悪くもどのような音楽にも自分を「合わせる」ということが大体できてしまうタイプなのです。 でもそれだけで終わらず、ようやく最近自分のものをきちんと表現できるようになってきたと思います。

―ずいぶんご謙遜ですね。私には吉野さんは最初からそういうことのできる方と映っていましたが。

吉野: 私のそういう部分を出せる人たちにめぐり会って共演できると、お互いにうまくあわせて、 さらに自分たちひとりひとりの音楽もできる、ということなんでしょうね。 クレーメルさんも、ご自身の音楽をはっきり持っていらっしゃる方ですが、 私にもとても自由な部分をくださいました。共演してとても楽しかったです。

―ところで吉野さんは、グバイドゥーリナやシニートケも演奏していらっしゃいますが、 こうした旧ソ連の作曲家はクレーメルさんとの共演を通してお弾きになるようになったのですか。

吉野: ロッケンハウス音楽祭にいっていなかったら、 グバイドゥーリナは未だにやっていなかったかも知れませんね。 この年のロッケンハウスではエレキスベン・トゥールさんとペテリス・バスクスさんというふたりの作曲家が来ていて、あとペルトなど、 バルト三国の作品ばかりのコンサートが毎晩のようにあったんです。 このときにクレーメルさんやクレメラータ・バルティカの方々を知って、こうした音楽に強い興味を持つようになりました。

―興味のつきないお話ですが、いつまでもというわけにもいきません。今日のお話を通して、 ハープの世界で華々しいご活躍を続けられる吉野さんがどのような考えのもとに演奏されているのか、 その一端が分かったような気がします。どうもありがとうございました。

(1999年6月14日、東京・梶本音楽事務所にて。訊き手:音楽部門 飯森豊水)


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