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2017-03-16 更新

小林沙羅さんがうたう子守歌、アヴェ・マリア……ぬくもりのある母の歌声

春到来。桜の季節にふさわしく、あたたかく麗しい歌声がコンサートホールを彩ります。
人気のランチタイム・コンサート・シリーズ「ちょっとお昼にクラシック」4月9日(日)は、国内外でその実力が高く評価され、人気が高まっているソプラノ歌手の小林沙羅さんを迎えてお贈りします。
共演は、CDやコンサートで小林さんの伴奏を務め、透明感のある音色で心地よいアンサンブルを聴かせてくださっているピアニストの河野紘子さん。そして――これが今回のコンサートの特色のひとつですが――3人目の共演者としてチェロが加わります。読売日本交響楽団首席代行を務める実力派チェリストの髙木慶太さんです。人間の声に近い音調と言われるチェロが、ときに歌に寄り添うように、また別のときには歌と対話するように、アンサンブルに加わると、音楽は一層深みを増します。歌とピアノとチェロが奏でる、ぬくもりのある音楽に、ゆっくりと身をゆだねてみませんか。

小林沙羅さんは、オペラ歌手として、また、宗教曲や声楽付き管弦楽曲のソリストとして、国際的な舞台で活躍されてきました。
水戸芸術館では2014年の「クリスマス・プレゼント・コンサート」にご出演くださり、そのピュアで、しかも芯の通った歌声が大きな拍手を巻き起こしました。
けれども印象的だったのは歌声だけではありません。このときは30分に満たない短いステージでしたが、薔薇の花に因んだ歌曲から始めて、クリスマスに因んだ曲、そして得意のオペラ・アリアで締めくくり、アンコールで再び花の歌に戻って自ら作詞作曲した〈えがおの花〉を歌う、というプログラム自体がよく練られた内容でした。

今回のコンサートでも、小林さんは明確なコンセプトをもとに曲目を選んでいます。そのコンセプトは「母性」という言葉に集約できるでしょう。
2014年のステージからおよそ2年半。その間に小林さんには第一子が誕生。昨秋発売された小林さんの新譜CD『この世でいちばん優しい歌』(日本コロムビア)は、妊娠中に録音されたアルバムでした。

小林さんはインタビューのなかで、妊娠と出産の体験が歌手としての表現の幅を広げることにつながった、と語っています。

「歌手って体が楽器なんです。だから〔妊娠で〕その楽器が変わっていくんですよ、日に日に。どんどんお腹が大きくなっていって、そうすると臨月の頃なんかは息の入る場所が少なくなっていって。あとお腹に赤ちゃんがいると安定するんですよ。歌では「支え」と言うんですけど、それがしっかりするので。今までは筋肉で支えていた部分が、筋肉を使わなくても勝手に支えられるんです。だから赤ちゃんが大きくなるにつれ、日に日に感覚が変わっていきました。〔…中略…〕歌手としてはとても面白い経験だったなと思います。短期間で色々な楽器を使ってみる、というような。結果、色んな奏法を試した事によって、発声法の引き出しが増えたように思います。」
(小池直也氏によるインタビュー。『Music Voice』より。http://www.musicvoice.jp/news/20161231056021/)

今回の約1時間のコンサートを貫く1本の軸は、北原白秋作詞、草川信作曲の童謡〈揺籃(ゆりかご)のうた〉に代表される「子守歌」
そして、もう1本の軸が「アヴェ・マリア」。「アヴェ・マリア」は聖母マリアという、いわば母親の理想像を讃える歌と言ってよいでしょう。
ドイツ後期ロマン派の作曲家マックス・レーガーによる〈マリアの子守歌〉のように、この2本の軸の交点に位置する曲もあります。
新譜CD『この世でいちばん優しい歌』に収録された曲も数多く歌われますが、今回のコンサートを逃してはなかなか聴くことのできない、けれどもコンサートのコンセプトにぴったり、という曲もあります。19世紀にオペラ歌手、作曲家、音楽教師として多才ぶりを発揮し、同時に4人の子供を育てた女性ポリーヌ・ヴィアルド(1821~1910)によるソプラノとチェロとピアノのための作品〈星〉には、ぜひご注目いただければと思います。地上を照らす星の光が、母親の優しいまなざしのようにも感じられ、安らかな気持ちになれる音楽です。

母親になって「体の状態も、精神的な面でも凄く今エネルギーに溢れているのを感じている」という小林さん(上記インタビューより)。4月9日、水戸芸術館に再び響くことになるその歌声は、2年半前とはまた違った魅力をもって、私たちを包み込むことでしょう!

『vivo』2017年4月号より。一部加筆)