コロナ禍でも挑戦を諦めなかった高校生たち
コロナが蔓延した2020年、大人たちは大混乱していました。それは学びの場にも波及し、政府は緊急事態宣言を発出する前に、全国の学校を一斉休校させてしまい部活動も止めてしまいました。またこの事態に自分の職業が役立つかどうかも悩む職業人もいましたが、部活に賭けた高校生たちは、コロナ禍でも自分たちならではの活動を模索し挑戦し続けていました。オザワ部長さんが書かれた「吹奏楽部バンザイ‼ コロナに負けない」には、そんな全国五校の吹奏楽部の葛藤と挑戦が描かれています。
初めてその本を読み終えた時、ひたむきな高校生の姿に涙が溢れ、頑張り続けるその姿に発奮させられた私がいました。それどころか、それぞれの高校生たちの頑張り方は、これからも続く厳しい時代を生きるための大きなヒントにも思え、心強いとすら思いました。
しかも、その五校の一つが水戸市にある水戸女子高等学校であることは、より嬉しく、誇らしく思えることでした。奇しくも東日本大震災で使用が出来なくなった水戸市民会館が装いも新たに、2023年に開館します。そのオープニングを寿ぐ企画としてこれ以上相応しいものはないという確信とともに本企画はスタートすることになりました。そして、原作者オザワ部長様、ポプラ社様のご快諾を得て、ここに大きく前進することになりました。
あの時、悔しい涙を流したすべての人のために
あの時、たくさんの理不尽な出来事でたくさんの涙を流した全国の高校生たちでしたが、水戸女子高等学校の吹奏楽部の部員たちは、だからと言って簡単に流される存在ではありませんでした。本作は、そんな彼女たちの一年を追いかけ、その挑戦を追体験するものです。
近年であの時ほど、涙が流された時代は無かったかもしれません。しかし、その涙の中から生まれた光もあります。しかもその輝きには、これからの時代を生き抜くための道標やお手本が内在しているようにも思えます。まだまだあの涙が癒された時代とは言えませんが、そうやって得られた光を多くの人と共有できれば、少しでもその涙に報えるのかもしれません。オザワ部長さんは同書のあとがきに、この物語が「パンドラの箱に残った希望」として読み手に届くことを願っていると記していますが、先の読めない現代に生きる私たちの頼りになる「ナビゲーター」としても読むことが出来ると思います。これを念頭に、舞台作品としても、楽しめるような構成で皆様にお届けしたいと思っております。
少々蛇足となりますが、吹奏楽部を扱ったコミックやアニメ、ドキュメンタリーは数多くあります。しかし、舞台作品となると数年前に博多座で、舞台『熱血!ブラバン少女。』が上演されていますが、先行作品がほとんどありません。ましてやコロナの影響を被った若者を描く作品はまだ数少なく、舞台作品としては大きな挑戦ですが、あの時の彼女たちの苦労を思えば、なんてことないと自分を鼓舞しながらの執筆です。
果たして、どんな舞台(ウィズ吹奏楽)になるか、これもお楽しみにしていただければ、幸いです。
井上桂
大学生時代より野田秀樹氏の夢の遊眠社、井上ひさし氏のこまつ座などから演劇に関わり、1996年の新国立劇場の開場とともに演劇制作部プロデューサーとして、渡辺浩子、栗山民也両芸術監督の下、企画制作を行う。2005年新国立劇場に国立としては初の俳優養成の研修所が開設されるとその運営を栗山氏と’10年まで担う。’17年4月、水戸芸術館演劇部門芸術監督に就任。‘22年3月末退任。在任中は国内で初めてとなる宮崎駿オリジナル作品の舞台化(『最貧前線 宮崎駿の雑想ノートより』)などで、水戸芸術館を改めて全国に紹介するなど精力的な活動を行った。