『ファンファーレ!!』〜響き続けた吹奏楽部の物語〜

メッセージ

『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』舞台化によせて

原作 オザワ部長

 文化部の中ではもっとも熱い部活とも言われる吹奏楽部。目標に向かって練習を重ね、ときには部員同士が激しくぶつかり合いながらも音と心を重ねていく……。そんな「密な青春」の日々が突如として「新型コロナウイルス」という闇に覆われることになりました。未知の感染症への不安で社会が静まり返る中、吹奏楽部の高校生たちは自ら立ち上がり、希望を信じて進んでいきました。そして、たどり着いた先には思わず「吹奏楽部バンザイ!!」と声を上げたくなるようなエンディングが待ち受けていたのです。

 私が北海道・山形・茨城・東京・京都の高校吹奏楽部を訪れて取材し、綴った物語の中から水戸女子高校吹奏楽部のエピソードがまさに水戸において舞台化されることを心から嬉しく思います。

 トランペット奏者である部長・ミワをはじめとする5人のリーダーたちを中心とした葛藤や友情のドラマは、文章から舞台へと「編曲」されて、必ずや皆さんの胸を打つ「メロディ」や「ハーモニー」を奏でることでしょう。

 原作者である私も、観客のひとりとしてこの『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』の上演を心待ちにしています。

吹奏楽作家 オザワ部長おざわぶちょう

全国の吹奏楽部・楽団を取材し、書籍や記事を執筆する吹奏楽作家。神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。大学在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』(ポプラ社)のほか、『吹部ノート』(KKベストセラーズ)、『美爆音!ぼくらの青春シンフォニー 習志野高校吹奏楽部の仲間たち』(岩崎書店)、『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』(Gakken)など著書多数。テレビ・ラジオ出演、朝日新聞連載、司会など幅広く活躍中。吹奏楽部時代はサックス担当。

「吹奏楽部バンザイ‼ コロナに負けない」 舞台化に向けて

企画・脚本 井上桂

コロナ禍でも挑戦を諦めなかった高校生たち

 コロナが蔓延した2020年、大人たちは大混乱していました。それは学びの場にも波及し、政府は緊急事態宣言を発出する前に、全国の学校を一斉休校させてしまい部活動も止めてしまいました。またこの事態に自分の職業が役立つかどうかも悩む職業人もいましたが、部活に賭けた高校生たちは、コロナ禍でも自分たちならではの活動を模索し挑戦し続けていました。オザワ部長さんが書かれた「吹奏楽部バンザイ‼ コロナに負けない」には、そんな全国五校の吹奏楽部の葛藤と挑戦が描かれています。

 初めてその本を読み終えた時、ひたむきな高校生の姿に涙が溢れ、頑張り続けるその姿に発奮させられた私がいました。それどころか、それぞれの高校生たちの頑張り方は、これからも続く厳しい時代を生きるための大きなヒントにも思え、心強いとすら思いました。

 しかも、その五校の一つが水戸市にある水戸女子高等学校であることは、より嬉しく、誇らしく思えることでした。奇しくも東日本大震災で使用が出来なくなった水戸市民会館が装いも新たに、2023年に開館します。そのオープニングを寿ぐ企画としてこれ以上相応しいものはないという確信とともに本企画はスタートすることになりました。そして、原作者オザワ部長様、ポプラ社様のご快諾を得て、ここに大きく前進することになりました。

あの時、悔しい涙を流したすべての人のために

 あの時、たくさんの理不尽な出来事でたくさんの涙を流した全国の高校生たちでしたが、水戸女子高等学校の吹奏楽部の部員たちは、だからと言って簡単に流される存在ではありませんでした。本作は、そんな彼女たちの一年を追いかけ、その挑戦を追体験するものです。

 近年であの時ほど、涙が流された時代は無かったかもしれません。しかし、その涙の中から生まれた光もあります。しかもその輝きには、これからの時代を生き抜くための道標やお手本が内在しているようにも思えます。まだまだあの涙が癒された時代とは言えませんが、そうやって得られた光を多くの人と共有できれば、少しでもその涙に報えるのかもしれません。オザワ部長さんは同書のあとがきに、この物語が「パンドラの箱に残った希望」として読み手に届くことを願っていると記していますが、先の読めない現代に生きる私たちの頼りになる「ナビゲーター」としても読むことが出来ると思います。これを念頭に、舞台作品としても、楽しめるような構成で皆様にお届けしたいと思っております。

 少々蛇足となりますが、吹奏楽部を扱ったコミックやアニメ、ドキュメンタリーは数多くあります。しかし、舞台作品となると数年前に博多座で、舞台『熱血!ブラバン少女。』が上演されていますが、先行作品がほとんどありません。ましてやコロナの影響を被った若者を描く作品はまだ数少なく、舞台作品としては大きな挑戦ですが、あの時の彼女たちの苦労を思えば、なんてことないと自分を鼓舞しながらの執筆です。

 果たして、どんな舞台(ウィズ吹奏楽)になるか、これもお楽しみにしていただければ、幸いです。

井上桂いのうえ かつら

大学生時代より野田秀樹氏の夢の遊眠社、井上ひさし氏のこまつ座などから演劇に関わり、1996年の新国立劇場の開場とともに演劇制作部プロデューサーとして、渡辺浩子、栗山民也両芸術監督の下、企画制作を行う。2005年新国立劇場に国立としては初の俳優養成の研修所が開設されるとその運営を栗山氏と’10年まで担う。’17年4月、水戸芸術館演劇部門芸術監督に就任。‘22年3月末退任。在任中は国内で初めてとなる宮崎駿オリジナル作品の舞台化(『最貧前線 宮崎駿の雑想ノートより』)などで、水戸芸術館を改めて全国に紹介するなど精力的な活動を行った。

演出家からのメッセージ

演出 深作健太

〈演劇〉は、風のような芸術です。
吹き抜ける時は力強く、終わったあとは
観ていただいた方の記憶にしか残りません。
そして、人はつくづく忘れてゆく生き物だと思います。

人生に一度しかない、大切な高校生活の三年間を、
コロナによって止められてしまった
水戸女子高等学校・吹奏楽部の物語。
まだ、たった二年あまりなのですね。
人の心の、忘却の速さに驚いてしまいます。

原作のオザワ部長の吹奏楽愛と、
脚本の井上桂さんの綿密な取材と構成力で、
素敵な台本ができあがりました。

コンクールを拝聴した、彼女たちの演奏と
ひたむきな横顔を思い出すたび、
混乱と分断の中、亡くなったり苦しんだりした
大切な人達の笑顔を思い出すたび、

いまこの時期だからこそ、
新しく出発する水戸市民会館の
開館記念という祝祭の場に、
あくまで前だけを見つめ続けた
彼女たちの闘いの物語を、
手づくりの市民劇として、
しっかりと刻みつけたいと思います。

深作健太ふかさく けんた

2000年、父・深作欣二と共に脚本・プロデュースとして『バトル・ロワイアル』を制作。03年撮影中に逝去した父の跡を継いだ、『バトル・ロワイアル 【鎮魂歌】』で映画監督デビュー。。演劇、ラジオドラマ、テレビドラマ、朗読劇、オペラなど幅広いジャンルで演出を行う。近年は、自ら「深作組」を率い演劇作品のプロデュースも行う。21年には、TBSラジオドラマ『風立ちぬ』(原作 宮崎駿)で演出を担当。水戸では、コロナ禍での上演となった音楽劇『夜のピクニック』(20年)に続く演出となる。