霧の抵抗 中谷芙二子
2018年10月27日(土)〜2019年1月20日(日) 9:30~18:00(入場時間は17:30まで)
いま、切実に問われているのは、人間と自然との間の信頼関係ではないかと思う。私たち都会人は、ペットボトルの水しか信用しなくなってしまった。水道の水は臭くて飲めない。川や海は汚染されているからプールで泳ぐ。そこまで自然を信用できなくなったら、もうバーチャルな世界で泳ぐしかない。宇宙へ行った人たちはみな等し並みに、地球を愛しく思う気持ちの高揚を語る。しかし、宇宙服に身を固めて異常空間へと飛翔しなくても、日常の自然の中で、しかもナマ身でその気持ちを体験できたなら、その方がはるかにスマートでエコロジカルに違いない。
「応答する風景 霧の彫刻」中谷芙二子(霧の彫刻家)
中谷のこの言葉には、人工物に囲われた都市空間、メディアを通して得られる疑似体験など、近代以降の技術発達がつくり出してきた社会に対する鋭い批評が込められている。中谷は、雪の研究と自然を題材とした随筆で知られる中谷宇吉郎の娘として生まれ、70年の大阪万博ペプシ館では芸術家と科学者の協働をすすめた「E.A.T.(芸術と技術の実験)」に加わり代表作となる霧の彫刻を制作した。アート&テクノロジー、芸術と科学の融合など、今、流行語のように広がるこれらの世界を、中谷は半世紀に亘って当事者として見つめてきた。こうした活動には、中谷自身の言葉に現れるような柔らかで明快な抵抗が込められている。それを本展では、「霧の抵抗」と呼ぶこととした。霧の彫刻とビデオを通して、時代の潮流に対して霧のごとく抵抗してきた中谷の活動のドキュメントを、当時の時代精神とともに紹介する。
*引用文は「建築雑誌」Vol. 111, 1996年5月号に初出。
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●屋内霧インスタレーション
10時~17時30分の間に毎時00分と30分から約6分間ご鑑賞いただけます。開場は、3分前より開始します。
*ギャラリーが混雑している日は、定員を各回30名とさせていただきます。当日、各回の整理券を作品前にて配布します。
作品タイトル:《フーガ》崩壊シリーズより 2018 霧インスタレーション #47629
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●広場 霧の彫刻
9時30分~19時の間に毎時00分と30分から約10分間ご鑑賞いただけます。17時からは逢坂卓郎設計のライトアップが点灯します。
作品タイトル:《シンコペーション》崩壊シリーズより 2018 霧の彫刻 #47629
コラボレーション:磯崎新(建築)、逢坂卓郎(照明)
*作品タイトルの変更があったため、異なるタイトルが媒体を通じて出ている場合もございますが、こちらが正式タイトルとなります。
*天候によって中止することがあります。
*下記の日時は広場でのイベントの都合上、霧作品はご覧いただけません。
ご了承ください。
11月 4日(日) 9:30~15:00頃
11月24日(土)11:00~14:00頃
12月 7日(金) 終日
12月 8日(土) 終日
12月 9日(日) 16時まで
2019年1月13日(日)10:00~12:30頃
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Photo:©Laura Miglone
中谷芙二子
Fujiko Nakaya
なかやふじこ
プロフィール
1933年生まれ。“霧のアーティスト”として世界に知られる。米ノースウェスタン大学美術科を卒業後、初期の絵画制作を経て、芸術と技術の協働を推進する実験グループ「E. A. T.」に参加。「E. A. T.」の活動の一環として1970年の大阪万博ペプシ館で、初めての人工霧による「霧の彫刻」を発表。純粋な水霧を用いた環境彫刻、インスタレーション、パフォーマンスなど、世界各地で制作した80を超える霧作品群は、人と自然を取り結ぶメディアである。環境への関心は、雪の結晶を世界で初めて人工的に作った実験物理学者の父、中谷宇吉郎(1900-1962)の影響が大きい。また1970年代から社会を鋭く見つめるビデオ作品の制作や、海外作家との交流を推進するとともに、日本の若手ビデオ作家の発掘と支援に尽力した。2017年にはロンドンのテート・モダン新館など7つの霧の新作を手がけ、2018年、第30回高松宮殿下記念世界文化賞彫刻部門の受賞が決定、夏にはボストンのエメラルドネックレス公園で5つの霧作品を発表。
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参考図版
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