ルイジ・ノーノの肖像The Portrait of Luigi Nono
2024年8月31日(土) 17:20開場・プレ上演17:30開始(17:50頃終了予定)・18:00開演
前衛作曲家の闘争と夢の痕跡
今年生誕100年を迎えたイタリア人作曲家のルイジ・ノーノ(1924-1990)。彼は、ピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼンとならんで、第二次世界大戦後に新しい音楽創造を目指す前衛作曲家のリーダー的な存在であった。1950年代初頭、ノーノをはじめとする前衛作曲家たちは、20世紀初頭にシェーンベルクやその弟子たち、とりわけウェーベルンが発展させたセリエル音楽を出発点に置き、新しい音楽の創出を目指した。しかし、ノーノは他の作曲家たちと決定的に異なった道を歩き始める。彼は、社会的な問題意識に基づいて創作を行おうとした。彼は芸術上の改革を、自分たちの生きている時代の社会の改革と結びつけて捉えようとしたのである。ノーノの社会的闘争は、ファシズムをはじめ、あらゆる搾取的な権力に向けられ、その一方で、多様な価値観が共存する世界を理想とするようになった。彼の生まれ故郷であるヴェネツィアは、何世紀にもわたって多様な文化が交差してきた街であり、多元的な世界を夢見るノーノの原風景はそこにあるのだろう。
本演奏会に先立って上演する〈コントラプント・ディアレッティコ・アラ・メンテ(知的認識への弁証法論理による対位法)〉は、ヴェネツィアの市場の声や鐘などの街の音、黒人解放運動指導者マルコムX暗殺やベトナム戦争に反対するテクスト、ソプラノ歌手、俳優、合唱団の声などが使用された電子音楽の傑作だ。〈.....苦悩に満ちながらも晴朗な波...〉は、先日他界したピアニスト・ポリーニとその妻マリリーサに捧げられている。ノーノの両親や師マデルナ等の死、そしてマリリーサの流産に接したノーノの悲痛な心境を故郷ヴェエツィアの鐘の音の在り様に投影した作品である。〈夢みながら“歩かねばならない”〉は、本公演に出演するアーヴィン・アルディッティと当時アルディッティ弦楽四重奏団のメンバーであったデイヴィッド・アルバーマンのヴァイオリンに魅せられたノーノが、この2人との共同作業によって創り出した、ノーノの最後の作品だ。〈ピエールに。青い沈黙、不穏〉は、ピエール・ブーレーズの60歳の誕生日に捧げられた作品で、「ppppp」から「p」までの弱音で奏されるコントラバス・フルートとコントラバス・クラリネットが、ライヴ・エレクトロニクスと融合して「音の内なる命の探求」が行われている。〈断章―静寂、ディオティマへ〉のタイトルにある「ディオティマ」は、ドイツの詩人ヘルダーリンの小説『ヒューペリオン』で、主人公が熱烈に愛した女性の名前。ノーノはこの作品で、このヘルダーリンの47の短いテクストの断片を楽譜に記載した。断片=断章=瞬間のうちにノーノは「無限」を見い出そうとしている。
ノーノが美的・社会的革新のために繰り広げた闘争と夢の痕跡を、どうぞ水戸芸術館で辿っていただきたい。ノーノが歩んだ道なき道のさらにその先を、「夢みながら歩かねばならない」のは私たちであるのだから。
出演
アルディッティ弦楽四重奏団
北村朋幹(ピアノ)
木ノ脇道元(コントラバス・フルート)
西澤春代(コントラバス・クラリネット)
有馬純寿(エレクトロニクス)
片山杜秀(ナビゲーター)
プレ上演(17:30開始)
コントラプント・ディアレッティコ・アラ・メンテ(知的認識への弁証法論理による対位法)(1967-68) 2チャンネル磁気テープのための
本演奏会(18:00開演)
.....苦悩に満ちながらも晴朗な波...(1976) ピアノと磁気テープのための
夢みながら“歩かねばならない”(1989) 2つのヴァイオリンのための
ピエールに。青い沈黙、不穏(1985) コントラバス・フルート、コントラバス・クラリネット、ライヴ・エレクトロニクスのための
断章-静寂、ディオティマへ(1979-80) 弦楽四重奏のための