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2019-07-13 更新

水戸室内管弦楽団メンバーによる公開レッスン&ミニコンサート 曲目解説

◎講習曲

天野正道:シネマ・シメリック

 タイトルは「空想上の映画」を意味するフランス語。吹奏楽の世界だけでなく、映画音楽の分野でも活躍している天野氏らしい曲名です。「シメリック chimérique」とは「幻想の」「非現実の」という意味で、作曲者はこの作品について、「架空の映画の為のサウンドトラック」であり、約2時間のストーリーに対応する40曲前後の楽曲を抜粋して1曲にまとめた、と述べています。作曲者の解説からは、具体的なストーリーをもとに作曲されたことが推測されますが、そのストーリーは秘密にされています。楽譜にも、テンポと強弱を示す数字や記号以外、場面ごとのイメージを伝える言葉は一切書かれていません。演奏する人や聴く人がそれぞれにストーリーを考えてほしいという意味なのでしょう。

 「シメリック」にはまた、この言葉の語源である「キメラ chimera」(獅子と山羊と蛇を合体させた怪物)のように、「異質なものを一つに合わせた」という意味もあります。実際にこの作品は、いくつもの楽曲のパッチワークであり、伝統的な楽曲形式に沿って作られてはいません。しかし作品の軸になる旋律(主題)がいくつかあり、それらが映画の登場人物を示すテーマのように、曲のなかで表情を変えてたびたび現れます。たとえば3拍子の半音階的な旋律(練習番号B・C・K~M・U)や4拍子の急速な旋律(H・J・T)などは作品の中心主題として特に印象的です。

福島弘和:行進曲 〈春〉

 生命感に満ちた春の喜びを表した行進曲(マーチ)。チェコの作家カレル・チャペック(1890~1938。ロボットを初めて文学作品に登場させたことで有名)は、エッセイ『園芸家12カ月』の3月の章で、植物が種類ごとに順々に芽吹く様子を行進に例えました。

「わたしが作曲家だったら、「芽の行進曲」をつくったかもしれない。まず最初に、軽快なテンポでライラック大隊を行進させる。つづいてフサスグリ縦隊の行進調、そのあとに、ナシとサクラの荘重な歩調がつづき……〔後略〕」(小松太郎訳)

 行進曲〈春〉はこの文章に触発されて作曲されました。チャペックの文章を描写した音楽ではありませんが、明るいファンファーレに続く、軽やかな第1マーチ(練習番号A・B)、主旋律が低音部に移る第2マーチ(C~F)、落ち付いた曲調のトリオ(中間部=G・H)、という曲の進行は、伝統的なマーチの構成であり、面白いことにチャペックの文章とも符合します。曲は冒頭のファンファーレが回帰すると(I)、トリオの旋律に対旋律が重なり、チャペックの表現を借るなら「すくすく芽を出した若い芝草が、ありったけの弦(つる)をブンブンかき鳴ら」すように、大きく盛り上がります(K~M)。

◎講師によるミニコンサート

サン=サーンス:クラリネット・ソナタ 変ホ長調 作品167 より 第1、2楽章

 カミーユ・サン=サーンス(1835~1921)は19世紀フランスを代表する作曲家。彼の最晩年の作品である〈クラリネット・ソナタ〉(1921)は、古典的な規範を逸脱した自由な形式で書かれています。第1楽章はA-B-Aの3部形式。その主題は作品全体を締めくくる第4楽章(今回は演奏されません)の最後で再び現れることになります。第2楽章は音の跳躍が特徴的で、音域の広いクラリネットの特性がよく活かされています。

カーナウ:ネクサス

 吹奏楽の分野で有名なアメリカの作曲家ジェイムズ・カーナウ(1943~ )による2014年の作品。題名の「ネクサス nexus」は「絆」という意味。曲はアメリカの吹奏楽名門高校で長年バンドの指導と指揮に携わってきたアルフレッド・ワトキンズに捧げられており、彼の生徒や同僚たちの委嘱で作曲されました。独奏トランペットが吹く主題は、ワトキンズの生徒たちにとって思い出深い旋律からとられているそうです。

ジョプリン(和田直也編曲):マーチ・マジェスティック

 スコット・ジョプリン(1868~1917)は〈ジ・エンターテイナー〉などの数々のラグタイム(ジャズの源流の一つとなった2拍子のアメリカのダンス音楽)の名曲で知られる黒人作曲家。この作品は1902年の作で、当時人気だったジョン・フィリップ・スーザ(1854~1932。代表作に〈星条旗よ永遠なれ〉〈ワシントン・ポスト〉など)のマーチのスタイルで書かれています。原曲はピアノ曲ですが、ここではスーザ風の管打楽器アンサンブルの編曲版でお聴きいただきます。マーチとラグタイムにはテンポや伴奏音型、形式などに共通点があり、マーチはラグタイムの成立に大きな影響を与えたと考えられています。

ホルスト(スタントン編曲):吹奏楽のための第2組曲 ヘ長調 作品28の2

 組曲《惑星》で有名なイギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(1874~1934)は、イギリスの古い音楽や民謡に関心をもち、それらを積極的に自作品に取り入れました。吹奏楽のための《第2組曲》(1911/1922)にもその一例で、全4曲のなかには8曲の民謡が登場します。なかでも終曲での〈グリーンスリーヴス〉の引用は有名で、この旋律が「ダーガソン」と呼ばれる舞曲(8小節のフレーズの繰り返し)に重なる場面は、この曲の一番の聴きどころと言えるでしょう。

 ホルストの時代のイギリスの吹奏楽団(軍楽隊)は、現代の大規模な吹奏楽団とは違い、25人程度の小編成が標準でした。ホルストのこの作品も小編成バンドでの演奏を想定したシンプルなオーケストレーションになっています。今回は、これをさらに4声部と打楽器に凝縮した編曲版を使い、講師7人の合奏でお聴きいただきます。

第1曲 行進曲
第2曲 無言歌〈恋人を愛する〉
第3曲 鍛冶屋の歌
第4曲 ダーガソンによる幻想曲

水戸芸術館音楽部門 篠田大基