【重要】水戸芸術館は、一部の施設を除き営業を再開しております
 新型コロナウイルス感染症予防のお願い
「オンラインショップ」オープンのお知らせ

  • 音楽
  • 公演

2020-08-04 更新

【記事掲載】ORGAN ODYSSEY 出演のオルガニスト、石丸由佳さんインタビュー

2010年に国際的な権威のあるシャルトル国際オルガンコンクールで優勝以来、全国各地で活躍しているオルガンの名手、石丸由佳さん。今回、8月のコンサートに向けて、パイプオルガンとの出会い、「武者修行のようだった」と語るヨーロッパでのコンサートツアーの思い出、プロジェクションマッピングとのコラボなど、多彩な取り組みについてお伺いしました。


©Naoko Nagasawa

 

――先日は、サントリーホールで開催された日本フィルのコンサート冒頭で、素敵なバッハの演奏を披露されていましたね!私もオンライン配信にて楽しませていただきました。
コロナ禍で多くの人の生活が一変したこの数か月、石丸さんはどんなふうに過ごされていましたか。
 私はこの春、地元のりゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)で専属オルガニストに就任したのですが、その就任記念コンサートが6月20日にあり、その準備に集中していました。りゅーとぴあは、ここ数か月間に予定していた公演が中止や延期になり、ホールが空いてしまったので、たっぷりとホールで練習やレジストレーションをさせてもらいました。教えている東京の大学もオンラインでの授業になったので、新潟にいながら授業ができたんです。そんなわけで長い間新潟にいましたね。
 
■パイプオルガンとの出会い
――新潟ご出身の石丸さん、音楽との最初の出会いについて教えていただけますか。
ピアノは4歳から始めました。幼稚園の先生に憧れて、近所の教室で習っていたんですが、中学校に入ってからは吹奏楽が大好きになって。部活でフルートとサックス、トロンボーンをやりました。トロンボーンをやったのは高校生になってからかな。いろんな管楽器をさわったり合奏するのが好きで、中学に入ってからピアノはやめて、部活に青春を捧げる日々でした(笑)。
そんな中、中2の授業でJ.S.バッハの〈小フーガ ト短調〉のビデオをみて感想文を書く機会があったんです。その時初めてオルガンをみて、「ひとり吹奏楽」みたいだと思ったんです。旋律がたくさん聞こえてきて、一人で合奏しているようで衝撃でした。全貌はよく分からないけど、すごそうな楽器だなというのが最初の印象。一生に一度でいいから、いつか本物のオルガンをさわってみたいと思ったんです。
その翌年、新潟市の教育委員会主催のイベントに吹奏楽部が出演したんですけど、その中に「オルガン演奏発表」のようなイベントもあって。オーディションがあり、選ばれた5人が半年間オルガンを練習して発表をしました。それが最初にオルガンを弾いた思い出です。
 
――その後、りゅーとぴあのオルガン講座に参加されたのですよね。
そうですね。中3で初めてオルガンを弾いたあと、高1から個人レッスンを受け始めたんです。それから高3のときに、りゅーとぴあで「オルガン講座」が立ち上げられ、その一期生になりました。その時点では既に、東京芸術大学を受験することを決心していて、受験まで1年しかないときに、新潟での学びの締めくくりとして大きなオルガンを弾くことになったんです。オルガン科の受験準備は、高1から始めていました。高校は普通高で、入学当初は音楽の道に進むつもりはなかったんですが、入学してから急に方向転換しました。
 
――そうすると、中学の時のオルガンの先生が、石丸さんを音楽の道に導いてくださったのですね。
その先生が「東京芸術大学に行ってみない?」と勧めてくださったんです。先生がいなければ音楽の道には進んでいないですね。中3でオルガンを弾けただけで満足していたと思います。当時の私は吹奏楽ばかりやっていてピアノは上手じゃなかったと思いますが、先生には「初めてオルガンを弾くわりには、よく足が動くね」と言われたことを覚えています。そこに希望を見出して、私に「やってみない?」と言ってくださったのかもしれません。その先生は新潟の中学校で音楽を教えていて、この前の私の就任コンサートにも来てくださいました。

――オルガン講座一期生になった時の思い出をお聞かせいただけますか。
 当時は本物の、しかも大きなオルガンが弾ける機会なんてほとんどなかったので、ありがたかったです。月1~2回弾かせてもらえたのですが、楽器が大きすぎて、何を弾いているか分からなくなる恐怖を感じました。電子オルガンでは弾けたのに、大オルガンで弾くと訳がわからなくなる。洗礼を受けました…(笑)。


りゅーとぴあのオルガンを弾く石丸さん

■国際コンクールでの優勝と、武者修行の日々
――東京芸術大学に進学後、デンマーク王立音楽院、ドイツ国立シュトゥットガルト音楽大学に留学、また世界的に権威のあるシャルトル国際オルガンコンクールで優勝されました。そういったご活躍の中で、人生の一番の転機になったことは…?
やはりコンクールが私の人生を変えたと思いますね。1次と2次試験はパリで弾いて、本選だけユネスコの世界遺産にもなっているシャルトル大聖堂で行われました。私はシャルトル大聖堂で演奏する機会をいただけたので、それだけで大満足でした。だから優勝したらコンサートツアーの機会があるということは知らなかったのですが、優勝した途端、いろんなところから演奏依頼をいただき、10か国100か所くらい演奏しに行きました。
ツアーは想定外のことばかり。知らない土地に、自分で航空券とホテルを予約して、指定された日時にそこにいるようにするというツアーをコーディネートする人みたいな仕事をしながら、「100か所あれば100種類の楽器を弾く」という武者修行のような生活が4年ほど続きました。望んでも叶わないような経験をさせていただき、大きな財産になりましたが、やっているときは本当に大変で無我夢中でした。


――今だから話せる失敗談などもありますか?
たくさんあります(笑)。電車が止まって飛行機に乗り遅れて、本番の2時間前に会場に入ったとか(※)、楽譜やオルガンシューズを入れた荷物を電車で紛失したり。目的地に着いたはいいけど、楽譜も靴もない。そのときは幸運にも教会の専属オルガニストが、同じ曲の楽譜を持っていたので何とか乗りきれたのですが。オルガンシューズは代わりがなかったので、靴下とか細い靴で弾いたかな…(苦笑)。
※註:オルガン奏者は、リハーサルよりも前に曲目にあわせた音色の組み合わせを作っておく必要があるので、通常は遅くとも本番前日には会場入りすることが多い。

そういう経験をへて、精神力はかなり強くなったと思います。「何でもあり」になった感じですね。日本で何か起きても私が経験したことよりは易しい。「リハーサル時間がちょっと短くて…」と言われても、「いいですよ。そんなことくらい大丈夫」みたいに思える精神力が培われました(笑)。あと、教会でコンサートをするときは、教会員のおじいちゃんおばあちゃんの家にホームステイすることも結構あって。本番前で緊張している中、知らない人の家に泊まらなければいけなくて、当時はあまり楽しいとは思っていませんでした(笑)。でも皆さんとても優しくて、地域の名産の食事を出してくださったり、日本人が泊まりに来ているのが珍しいからか、ご親戚の皆さんまで集まってきて、皆さん楽しそうに騒いでいたり。演奏会以外にもいろんな思い出がありますね。
 あと楽器が整ってないこともよくありました。田舎町の古いオルガンは、いい音はするけど「今日この音が止まらないんだ」とか「この音が出ないんだよ」という状況は日常茶飯事。出ない音をどう回避するか、出続ける音をどう止めながら弾くかと考えたり。日本ではありえないようなこともたくさんありました。
 
■世界の名器を奏でて
――今までに出会ったオルガンで特に思い出に残っている楽器はありますか?
やはりパリのノートルダム大聖堂で弾けたことが光栄でしたね。オルガニストのメッカみたいなところで演奏させていただけて嬉しかったです。でも「会場が広くて、弾いたら気持ちいいでしょう」と皆さん思われるんですが、弾く方は全然気持ちよくないんです。パイプが自分の真後ろにずらりと並んでいて、そこからすごい音量が鳴って、広い空間に音が降り注ぐので、弾く方としては音がうるさいし、全体的なバランスも分からない。下をのぞくと人間が豆粒に見えるような高さにオルガンがあって、下で聴くとちょうどバランスよく聞こえる構造なんです。ですので、弾きながら感動はできませんでしたね(笑)。でも弾いた事実は印象深いので、そのギャップが思い出深いです。


パリ・ノートルダム大聖堂 イメージ写真
Photo by Jianxiang Wu on Unsplash
 

あと、オルレアンというフランス中部の町の大聖堂に、カヴァイエ=コルという19世紀のオルガンの名製作者が作った名器があって、それを弾かせてもらったことがあるんです。そこで19世紀の曲を弾いたら、「あ、これがこの作曲家のやりたかったことなのか」と、全てクリアになった気がしたんです。大学の練習室にある小さいオルガンなどではなく、その時代に作られた本物の楽器を弾くことで、作曲家が表現したかったことが一瞬で分かるような体験をしました。そういう音色を覚えておいて、自分の記憶の引き出しにしまっておく。それでその曲を別の土地で弾くときに、引き出しをあけて自分の音色を作る。本物に近づけるように心がけています。
 
――石丸さんの音色選びのセンスは、そういった世界の名器を奏でた経験によって磨かれた賜物なのですね。
あとは吹奏楽の経験も、自分の源になっていると思います。私はオルガンのことを「鍵盤付き管楽器」と捉えている部分があります。鍵盤を弾くという感覚というより、管楽器の合奏でどんな音を引き出すか。そう考えて音色を作っています。ストップ(=オルガンの音栓)の名前もあまり気にしないようにしています。普通だったらストップを選ぶときに「8フィートを入れて、プリンシパルを入れて、フルートは入れないで…」という決まりが少しある。でも時にはそういう常識にとらわれず、音だけ聞いて決めるんです。特に映画音楽などを弾くときはそうですね。


黒丸のボタンが「ストップ(音栓)」©Jun Tazawa 


――昨年キングレコードから2枚目のCD「オルガン・オデッセイ」をリリースされ、今回はそこから多彩な曲が演奏されます。このアルバムはどのように選曲されたのですか。
「オルガンの持っている可能性をできるだけ示したい」という気持ちがまずありました。
スターウォーズなどは「そんな曲、オルガンで弾けるの?」という感じの音楽ですが、オルガンのことを鍵盤楽器と思わないで、「管楽器だったらこんなこともできるよね」というイメージで聴いていただければと思います。CDを作ったときはスターウォーズを最初に決めたので、全体のテーマが「宇宙」に。それで、宇宙探査機ボイジャーに積載されたレコードに入っているというバッハの「平均律クラヴィーア曲集」を入れたり、ホルスト「木星」を入れたり。オーケストラの多彩な音色が求められる曲を、オルガンでも「ひとりオーケストラ」のようにして弾けるところを楽しんでいただけたらと思います。
 

Organ Odyssey ジャケット写真


――特に思い入れのある曲はありますか?
やはり「スターウォーズ」とホルストの「木星」ですね。今回のコンサートでもプロジェクションマッピングがつく曲です。日本人がオルガンに対して抱く「荘厳ですよね~」とか「教会の楽器ですよね~」というイメージをどう覆せるかがカギだと思っています。「重々しい」というイメージをお持ちの方からすると、「木星」の軽快な部分なんて、オルガンでどう弾くのかと思われるでしょうけど、そのあたりに注目していただけたら嬉しいです。
 
■「教会の楽器」という概念を超えて
――プロジェクションマッピングとの共演について、どんなことをお考えでしょうか。
昔パリのディズニーランドに行った時、「眠れる森の美女」のオーロラ姫のお城で、音楽とプロジェクションマッピングのステージを見て、これは面白いなと思ったんです。もちろん、水が華やかに噴き出る演出などもあってきれいだったこともあるんですけど、いつかオルガンでもプロジェクションマッピングとコラボレーションしたいと思ったんです。
日本にいると、教会ではない場所にオルガンがあることをマイナスに捉えがちですが、「教会ではないからこそできることって何だろう」と発想の転換をしたんです。照明機材があったり演出がつけやすいコンサートホール、あるいは水戸芸術館であれば、人が行き交うエントランスホールという場の特性を逆手にとり、できることをどんどんやったらいいと思うんです。オルガンの正面についているパイプって、スクリーンみたいな使い方もできますしね。あとピアノやヴァイオリンはお客様との距離感が近いけど、オルガンは奏者が豆粒みたいに見える遠い距離感だから、プロジェクションマッピングのような演出が入ったら、見た目も楽しくていいかなと思います。

 日本にオルガンがあるって、よく考えると不思議な状況ですよね。ヨーロッパの教会の礼拝で育ってきた楽器だから。でも歴史的にみるとオルガンは、教会で使われる前はエンターテインメントの場で使われていたんですよね。宮廷や円形劇場で、競技のときやみんなで踊ったりする時に鳴らしたり。それを考えると、今やっていることはそんなに邪道ではないし、エンタメ向きの楽器のように思うんです。音も大きいし見た目も面白そうで派手だし。ヨーロッパでは14世紀頃に教会に取り入れられたのですが、その前は王様が贈り物にしていた時代もあって。見た目も美しいし所有したい楽器だったんですよね。だからそういう原点に戻っていくという考え方です。こじつけですけど…(笑)。


■水戸芸術館の思い出

水戸芸術館のパイプオルガン ©Jun Tazawa


――石丸さんは学生時代から、水戸芸術館の「パイプオルガンプロムナードコンサート」にご出演くださっています。何か思い出に残っていることはありますか?
いっぱいありますよ(笑)。夜中まで練習する経験を最初にさせてもらったのは水戸だと思います。留学先でも夜中の練習は当たり前のようにやっていましたが、それができたのは水戸のおかげです。最初に留学したコペンハーゲンでも「朝早くか夜遅くなら使ってもいいよ」と言われて教会の鍵をもらい、夜中の2時とか3時にノリノリで練習していました(笑)。元々水戸でも深夜2時頃まで練習していたんですが、ああいう残響のある空間で、時間制限もゆるやかな中で練習できたのはありがたかったですね。芸大でも私は夜型で、大学の全部の電源が切られるまで練習していました。23時くらいかな。それくらいになると主電源が切られてオルガンも電気が切れるので、仕方がないから帰るという…(笑)。
 
――とことん練習して本番に臨む石丸さんならではのエピソードをありがとうございます!最後にコンサートに向けて、ぜひお客様へのメッセージをお願いします。
このコンサートで、皆さんのパイプオルガンにまつわる固定概念を少しでも変えられたら、と思っています。「ひとりオーケストラ」「ひとり吹奏楽」の世界を聴いていただきたいですね。今のご時世、大人数で演奏することがなかなか難しい中、オルガンは一人でもオーケストラのような音が出せる。そういう魅力を感じていただけると思います。それにオルガンは、他の楽器にはないくらい音域が広いんです。最低音は、身体が震えるような「音なき音」という感じがしますし、聞こえないくらいに高い音とか、身体が包まれて初めて感じる超音波みたいな音もあります。身体にしみこむ音の栄養というのかな。今皆さんいろいろと大変な中で過ごされていると思うのですが、心に栄養をとるために来ていただければ嬉しいです。
 
2020年7月18日(土)
聞き手:高巣真樹(水戸芸術館音楽部門)
 


公演情報
Organ Odyssey~パイプオルガンとプロジェクションマッピングの華麗な共演~

8月21日(金)、22日(土) 両日19:00開演
水戸芸術館エントランスホール

【演奏】石丸由佳(パイプオルガン)
【プロジェクションマッピング】イシイキヨコ(空間演出デザイナー)
【全席指定】1階4,000円 2階2,500円 小中学生1,000円 
*予定枚数に達したため、販売を終了いたしました。
 キャンセル券が生じた場合、その都度 WEB・電話・窓口にて販売いたします。

*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、距離を空けた座席配置となります。


【曲目】
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調 BWV846   
J.S.バッハ:われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ BWV639  
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565     
J.S.バッハ:小フーガ ト短調 BWV578
O.リンドベリ:ダーラナ地方の夏の牧舎の古い讃美歌   
★J.ウィリアムズ(山口綾規 編曲):「スターウォーズ」より メインテーマ 
---休憩---
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第1番 ハ長調 BWV870  
宮川泰/彬良:白色彗星/さらば宇宙戦艦ヤマト   
J.アラン:幻想曲 第1番   
★ホルスト(P.サイクス 編曲): 組曲〈惑星〉より木星   
(★印:プロジェクションマッピングとの共演曲/それ以外:映像演出付き)

詳しい公演情報はこちらをご覧ください。