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2023-03-05 更新

【茨城新聞・ATM便り】3月2日付の記事を掲載しました~ちょっとお昼にクラシック LEO(箏)~

茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。3月2日掲載の記事を転載します。今回は3月14日に開催する「ちょっとお昼にクラシック LEO(箏)」に関する記事です。


二十五絃、豊かな響き

古代中国に瑟(しつ)という、25本の絃を木製箱形の胴に張った楽器がありました。秦の時代のこと、ある姉妹(兄弟、父子とも)が瑟をめぐって争い、楽器を二つに分けて十二絃の楽器と十三絃の楽器を作った、という言い伝えがあります。十二絃の楽器は朝鮮半島に伝わって伽耶琴(カヤグム)になり、十三絃の楽器は日本に伝わって箏になった、と言われていますが、これはあくまで伝説です。箏や伽耶琴の起源については異説もあります。

こんな伝説を思い出したのは、3月14日に水戸芸術館で開催する「ちょっとお昼にクラシック」に出演する箏曲家のLEO(今野玲央)さんが、コンサートでは伝統的な十三絃の箏だけでなく、現代に考案された二十五絃の箏もお使いになると伺ったためでした。瑟と同じ絃の数の箏です。

二十五絃箏を弾くLEOさん ©Takafumi Ueno
二十五絃箏を弾くLEOさん ©Takafumi Ueno

しかし現代の二十五絃箏は、古代楽器の復元を意図して作られたのではなく、西洋音楽の影響を受けて生まれた楽器でした。西洋のクラシック音楽が日本に普及した大正時代、箏の合奏でもヴァイオリンに対するチェロにあたる役割の低音楽器がほしいと考え、低音絃を増やした十七絃箏を考案したのが、箏曲家の宮城道雄でした。

戦後には、箏曲家の二代野坂操壽が二十絃箏を考案。その後も改良が続き、映画「ゴジラ」の音楽で知られる作曲家、伊福部昭のギター作品を弾くために絃をもう1本、同じく伊福部の〈日本組曲〉を弾くためにもう2本、と絃の数が増え、1991年に二十五絃箏となりました。

3月14日のコンサートでは、二十五絃箏誕生の要因となった〈日本組曲〉も演奏されます。中低音域が増強された二十五絃箏はふくよかな響きで、伝統的な箏とはまた違った魅力があります。古代の瑟も、あるいはこんな豊かな響きだったのかもしれません。そしてこれらの箏を演奏するLEOさんもまた、伝統を継承しつつ従来の邦楽の枠を超えた活動を展開している音楽家です。伝統的な十三絃箏と西洋音楽の影響を受けた二十五絃箏。その音色の妙。そして箏とクラシックという組み合わせの妙を、ぜひお楽しみください。


水戸芸術館音楽部門 学芸員 篠田大基