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2023-06-06 更新

テリー・ライリーという生き方

Life happens.(人生にはいろいろなことが起こる)――2020年に突然始まったコロナ禍は、沢山の人たちの人生を翻弄しました。音楽家テリー・ライリー(1935年生)も、コロナで人生が大きく変わった一人です。2020年当時、彼は84歳でした。

テリー・ライリーは、ラ・モンテ・ヤング(1935年生)やスティーヴ・ライヒ(1936年生)らと並んで、アメリカのミニマル・ミュージックの創始者として知られています。初期の代表作〈In C〉は、水戸芸術館でも2021年の公演「1964 音風景」でアンサンブル・ノマドにより演奏されました。また彼のアルバム『A Rainbow in Curved Air』(1967)で聴かれるような、テープの録音/再生システムを活用し、反復音型や持続音を多用したサウンドは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどのサイケデリック・ロックにも大きな影響を与えました。1970年からはインド古典音楽の演奏家パンディット・プラン・ナート(1918~1996)のもとで20年以上にわたってラーガ(インドの古典音楽で用いられる旋律法)を学び、ライリーは師の流れをくむキラナ流派のラーガの継承者としての顔も持っています。

2020年、ライリーは、9月に参加予定であった「さどの島銀河芸術祭」に向けた視察で2月に佐渡島を訪れ、その後山梨県に3週間滞在する予定でした。ところが3月、新型コロナウイルス感染拡大にともなうニューヨークとカリフォルニアのロックダウンにより、彼は帰国不能の事態に陥ります。ライリーは日本に留まることを決心し、今も山梨県北杜市で暮らしています。

1977年の初来日以来、彼はこれまで何度も日本を訪れていましたが、とはいえ言語も生活様式も異なる土地での暮らしは必ずしも平坦ではなかったでしょう。しかしライリーの音楽活動は、驚くほど精力的でした。移住から約半年後の2020年9月(まだ多くのコンサートが中止に追い込まれていた時期!)には、佐渡島で88人限定ライブを挙行。彼は
「85歳にして人生の新たな章が始まるとは想像もしていませんでしたが、私の仕事や人生観全般において、最も活力に満ち、最も刺激的な時期の一つとなっています」
というコメントを寄せました。翌年には佐渡島にライリーがデザインした音響彫刻〈Wakarimasen〉が完成。その題名は彼が最初に覚えた日本語で、「学び続け、真実の探求を止めない」という思いを込めたものだそうです。2022年3月にはビルボードライブ東京に登場、5月からは鎌倉で月1回ペースのラーガ教室を開始、7月にはフジロック・フェスティバルに史上最高齢(87歳)での出演を果たしました。

そんなライリーの日々の暮らしが綴られた投稿がTwitterにありました。

(朝早く起きる/ラーガを歌う/弟子を教える/練習する/即興する/演奏、演奏、演奏/新しいアイディアを試す/音楽を創る/良き料理人となり/健康的に食べる/自分の人生を生きる/シンプルに/微笑みながら/毎日)


素晴らしい生き方ではないでしょうか。コロナ禍の中で偶然訪れていた日本に住むことを決め、ご自身の生き方を貫き、芸術活動をさらに発展させる。このようなアーティストが今、日本に住んでいること、間もなく88歳の誕生日を迎えようとしていること、そして彼の音楽を、沢山の人に知っていただけたらと思っています。
水戸芸術館でコンサートを開催する6月24日、ライリーは日本で4度目の誕生日を迎えます。


水戸芸術館音楽部門 篠田大基
水戸芸術館音楽紙『vivo』2023年6-7月号より