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2023-12-08 更新
【茨城新聞・ATM便り】12月7日付の記事を掲載しました~水戸の街に響け!300人の《第九》2023~
茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。12月7日掲載の記事を転載します。今回は12月17日に開催する「水戸の街に響け!300人の《第九》2023」に関する記事です。
師走の風物詩が復活
「水戸の街に響け!300人の《第九》」は1999年に開始されて以来、師走の水戸の風物詩として多くの市民の皆様に親しまれてきました。
市民が中心となって編成される約300人の大合唱団が、オーケストラ・パートを受け持つエレクトーン2台、ピアノ2台、ティンパニとともに、野外(水戸芸術館広場)でベートーヴェンの「交響曲第9番」の第4楽章を演奏するという試みは、全国的にもめずらしく、毎年各方面から注目を集めています。まさに、水戸芸術館オリジナルの《第九》です。
新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年以降は中止となっていましたが、今年、4年ぶりに復活することになりました。
すでに5回の練習を終え、本番に向けた準備が着々と進んでいるところですが、合唱の響きからは何よりもまず歌えることの喜びがひしひしと伝わってきます。ドイツの詩人シラーのテキストには「あなた(歓喜)の奇しき力は、時の流れが厳しく切り離したものを、再び結び合わせ、あなたの柔らかい翼の留まるところ、すべての人びとは兄弟となる」とあります。
コロナ禍において、とりわけ合唱の活動は大きな制限を受けました。その苦しみを乗り越え、隣人と声を合わせるというヒューマンな行為の復活を告げる《第九》の合唱は、大変感動的なものになるでしょう。
喜びとともに、《第九》の大きなテーマとなっているのが、平和への願いです。「抱き合え、幾百万の人びとよ!この接吻を全世界に!兄弟よ!星空の上に愛する父なる神が住んでいるに違いない」という歌詞があります。
依然として続くロシアによるウクライナ侵攻、緊迫の度を強めるイスラエルとハマスの衝突、世界各地を襲う異常気象など、今年も人々の平和な暮らしをおびやかす事件や災害が多く発生しました。
音楽にそれらを止める物理的な力はありませんが、人間の相互理解を訴えたり、苦しみに喘ぐ人たちを勇気づけたりすることはできます。300人の大合唱の壮大な響きの中に、祈りや平和への願いのようなメッセージも感じ取っていただけたら嬉しく思います。
水戸芸術館音楽部門主任学芸員・関根哲也