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2024-02-06 更新
【茨城新聞・ATM便り】2月4日付の記事を掲載しました~合唱セミナー2024 講師:信長貴富(作曲家)~
茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。2月4日掲載の記事を転載します。今回は2月11日に開催する「合唱セミナー2024」に関する記事です。
再会願う言葉を歌に
1月1日の能登半島地震の被害の甚大さに驚くばかりです。能登北部で授業再開の見通しが立たない中学校の生徒たちの集団避難のニュースが最近報じられていました。その一方で故郷に残る選択をした生徒たちもいて、彼らの突然の別れに心が痛みます。そして、2011年の東日本大震災が思い出されます。
あのときにも、児童生徒が離ればなれなった被災地の学校が、少なからずありました。原発事故の影響が大きかった福島県浜通りの南相馬市立小高中学校も、その一つでした。2月11日に水戸芸術館で開催する「合唱セミナー2024」の講習曲の1曲〈群青〉は、この学校で生まれた歌です。
〈群青〉を作曲したのは、同校の音楽教諭だった小田美樹先生。歌詞は、当時中学1年生だった同校生徒たち(平成24年度卒業生)の日記や作文、日常会話から小田先生が構成したもので、生徒たちが卒業式で歌うための「卒業ソング」でした。
もともと106名だったこの学年の生徒のうち、2名が地震による津波で命を落とし、その後の原発事故による避難で97名が故郷を離れ、南相馬市内の別の中学校を間借りしてようやく学校を再開できた4月22日に残っていた生徒は、わずか7名だったそうです。
震災直後のつらい精神状態、勉強道具も揃っていない環境で、小田先生は白地図を用意し、学校にいない生徒たちの写真を彼らのいる場所に貼っていく授業を考案しました。写真は北海道から九州まで、日本中に散らばりました。
「遠いね」
「でも空はつながってる」
生徒たちのそんなつぶやきが、やがて〈群青〉の歌詞の素材になったのでした。曲名の〈群青〉は、校歌にも登場する小高中学校を象徴する色。歌は「また会おう 群青の町で…」という言葉で締めくくられます。この言葉が今、能登半島地震で再び、私たちの胸に迫ってくるように感じます。
2月11日の「合唱セミナー2024」では、この〈群青〉の合唱版編曲を担当した信長貴富氏の講習により、〈群青〉など3曲を参加者全員で歌います。
水戸芸術館音楽部門学芸員・篠田大基