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【重要なお知らせ】

2017-05-18 更新

ACM劇場の新企画「アートタワー寄席」の見どころ(前編)

演芸を楽しむ方法の一つに“寄席”に行ってお気に入りの芸人を見つけるというスタイルがあります。
寄席は、たくさんの芸人さんを一気に楽しめる、いわば「芸人のショーウィンドウ」。

今、落語界は“歴史上最大級の賑わい”(※注1)といわれ、才気あふれる若手がどんどん育っています。
といっても「(東京の)寄席に出かけることがなかなか難しい」「誰を目当てにしたらよいのかわからない」という方が多いのも事実。そんな皆さんのためのお得な企画が誕生します。

それは、水戸芸術館ACM劇場に将来楽しみな話題の芸人さんたちに集まっていただき、劇場ではなかなかできない寄席を本格的にやってしまおうという企画です。

題して「アートタワー寄席」!

◆「アートタワー寄席」公演概要◆

日時:2017年9月9日(土)15時00分開演(14時30分開場)
会場:水戸芸術館ACM劇場
出演:柳家さん助、柳貴家小雪、春風亭ぴっかり☆、桂宮治、神田真紅
公演情報はコチラ

 

スタッフブログでは、前後編の2回に分けて「アートタワー寄席」の見どころをご紹介してまいります。

前編となる今回は、「アートタワー寄席」に登場する若手芸人さんたちの魅力を、落語芸能の世界を長年見続けてきた“通”にして“大重鎮”の太田博さん(ジャーナリスト)、長井好弘さん(読売新聞東京本社企画委員)に語っていただきました。

注1:落語界は歴史上最大級の賑わい
現役の落語家は800人を超え、江戸時代以降最多。有名落語家の独演会は全国各地で満席となり、雑誌で「平成落語黄金時代」という特集が組まれるなど、関心が高まっている。近年は独演会や寄席だけでなく、カフェやCDショップでも落語会が開かれており、楽しみ方も多様化している。また、落語界独特の師弟関係を描いた漫画「昭和元禄落語心中」が人気を博すなど、名人たちの背中を追って修行に励む若手にも注目が集まっている。

 

 

①「アートタワー寄席」について

 

太田:いい顔が揃ったね~

長井:この人選は面白いですね。一人ひとりが個性的。そのふり幅もバラエティに富んでいるから、どの人がどの順番で演じても楽しめるようになっている。新しい企画にふさわしい、間違いのない顔ぶれじゃないかなと思います。

太田:そうだね、落語や寄席に初めて来た人も納得する顔ぶれとも言える。つまり、どこでやっても通用する。東京でも関西でも、みんな楽しめるね。地方都市で寄席はなかなかできないけど、水戸でこれだけ揃えてやるって、ある意味すごいことですよ。

長井:そうですね。どうしても劇場やホールでの公演となると有名落語家の独演会になりがちなんだけど、寄席は独特の活気と勢いのある世界。そして芸や噺(はなし)を育て楽しむ大事な場所。こうした寄席のスタイルは続けてほしいですね。

太田:とにかく最初が肝心。最初の会からいっぱいになるように、一人ひとりの演者の素敵なところを話していきましょう。私たち二人とも長くこの世界を見続けてきたから、演者みんな入門の時から知っているんです。

長井:独演会となると、ある種完成した作品や芸人を見るということになるけど、この顔ぶれなら見続けてもらった場合、毎回その成長や変化が楽しめますね。

太田:もちろんほかにも楽しみな若手がいるから、今後もこの寄席が続くなら、その都度新たな顔ぶれに参加してもらえれば、いつも新鮮で楽しいものになるだろうね。

長井:今は、落語会がかつてないほどの大賑わいで、多くの若者たちが入門している時代。若手同士激しく切磋琢磨しているから、そのバトルとして見ても面白いでしょうね。

太田:今回のメンバーは間違いなく、次の世代を担っていくでしょう。いずれ独演会もこなせるレベルに成長していくだろうし、その時には一緒に見てきたお客さんにも感慨深いものになるだろうなあ。

長井:それこそ寄席の醍醐味の一つですね。

 

まず、寄席ならではの楽しみ方を教えていただきました。
続いて、出演者にコメントをいただきましたのでご紹介します。

 

 

②今回の出演者について

 

まずは、茨城出身の出演者から。

 

柳家さん助(やなぎや・さんすけ)≪落語・真打≫ 常陸太田市出身


-東京の寄席でも主任を務める、若手真打の注目株

太田:師匠の“柳家さん喬”譲りの正統派、と先ずは言っておかなきゃ。なのに、なのに、なのに、不思議なおかしみのある風貌と芸風は、多くの“通”がひいきにし始めているね。

長井:前座や二ツ目の時の様々な失敗談は、いまだに落語界の語り草になっている。落語界の話題を作って変な貢献(?)してきた(※注2)けれど、今や真打になってもなかなか勤められない寄席の主任(トリ)を、この二年で二度も務めたのは、その体験を無にせず落語に昇華させた証拠。すごい!

太田:当時、師匠や兄弟子たちは冷や汗いっぱい流したらしいけどね。今となっては芸人らしいキャリアってことで、許してくれるのかな(笑)

長井:師匠の譲りの真っ当な芸風と、芸人に必要な“フラ”をふんだんに持ったさん助。どこまで伸びていくのか、その伸びしろが楽しみですね。東京の寄席の席主も注目する期待の若手真打の一人。

太田:寄席の席主がひいきって凄いね。ほんと、将来楽しみだね!

 

注2:
【落語家の修業について】
落語家の修業は弟子入りから始まる。江戸落語の場合、入門が許された弟子は「前座」として約3年間、師匠に付きっきりで落語だけでなく寄席で作法などを学ぶ。その後「二ツ目」と呼ばれる期間(10年~15年)を経て一人前とされる「真打」に昇進する。生涯現役の落語界は半数以上が「真打」という逆ピラミッド型の人員構成。晴れて「真打」となった後も、芸の道は果てしなく続くのである。
【さん助さんの前座時代の失敗談】
お葬式で焼香に来た人に最初に靴ベラを渡したりとか、焼香の際に燃えている香炉の炭をつまんで熱がったり、劇場での一門会の片づけ時にシズと言われる袋状の重し(劇場備品)を誰かの忘れ物と勘違いし持って帰ったり…。兄弟子の喬太郎師匠が枕で重宝して(?)よく紹介していた。

 

 

◇柳貴家小雪(やなぎや・こゆき)≪大神楽≫ 水戸市出身


-水戸徳川家と縁の深い水戸大神楽の継承者

太田:“水戸大神楽(だいかぐら)”の神髄を継承する若手の筆頭だね。寄席で披露する大神楽は、こじんまりとして屋内仕様。ところが水戸の大神楽は、芸が大きくダイナミック。

長井:本来は屋外でやる芸として始まった大神楽ですからね。大道芸的な派手さもあって、だからこその見応えがかなりあるものですね。

太田:しかも子供のころから仕込まれたその芸は、芸の凄さや上手さに加えて、その立ち姿まで毅然としている。昨今のこうした芸は高校や大学を出てから入門するので、そこまではなかなか至らない。それこそ、水戸の皆さんが全国に誇っていい郷土の至芸の継承者と言っていい。

 

◇神田真紅(かんだ・しんく)≪講談≫ 水戸市出身


-多彩なレパートリーを持つ水戸出身の女流講談師

太田:大学の史学科を出た歴女ならではの多彩な切り口で意外性のある話を語る、期待の女流講談師になってきたね。編集者を辞めて入門しているのだけれど、その頃の経験が芸に上手く活かされているよね。継承された真っ当な物語から、自ら編み出した大リーグボールのような魔球的物語までレパートリーも豊富だし、その語り口はシリアスから滑稽なものまで、これまた幅広いんだ。

長井:いつの間にか女流が増えてしまった講談界だけど、オリジナリティは“ぴか一”ですね。彼女独自の講談が産み出される瞬間も楽しめると思います。

 

続いて、落語通注目の若手をご紹介。

◇春風亭ぴっかり☆(しゅんぷうてい・ぴっかり)≪落語・二ツ目≫

太田:ぴっかり☆! 華と愛嬌のある素敵な女流だね。芸名の通り、出てくると舞台をパッと明るくしてくれる。

長井:名前の“☆”は、忘れちゃいけない!実はまだ“これぞ女流落語家”という人がまだ産まれていないんです、この落語界は。もしかしたら、その最初の人になりうる可能性がある落語家ですね。実際、可愛いだけじゃなく、ぴりりと引き締まった魅力にあふれた落語家になってきていると思います。

太田:その外見とは別に、しっかりした噺家になっていくだろうね。師匠は春風亭小朝。芸もみっちり仕込まれているから。

 

◇桂宮治(かつら・みやじ)≪落語・二ツ目≫

長井:久しぶりに出てきた寄席育ちの落語家。『アートタワー寄席』にピッタリ。関係者みんな「将来の爆笑王」と期待している逸材ですし。笑点の顔ぶれになるかもなんて噂が立ったぐらい、芸人に必要な“フラ”(愛嬌とかオーラとか、芸人らしい華やかな雰囲気)をたっぷり持っていて、不思議な存在感がありますね。

太田:ぴっかり☆と並ぶと、美女と野獣だ(笑)。二ツ目ながら、その活躍は目覚ましいね。社会人を経て、ずいぶん年を取ってから入門したんだけど、あっという間に先輩たちを追い越してしまった。

長井:その天性の勢いのある芸を買われて、大先輩やら名人やらがぞろっと揃う落語会に放り込まれ、体格差の激しい過酷な現場で四苦八苦のバトルロワイヤル的修行の毎日だそうです(笑)。その分、激しく成長している期待の大型新人ですね。

太田:水戸芸術館のスタッフが「焚火にかんしゃく玉放り込んだみたいに」きわどくて楽しいって言っていたけど、まさにそういう勢いがある。

 

③まとめ

この企画を進めるにあたって、お二人の推薦する若手を見に、制作スタッフはせっせと寄席に通う日々を過ごしました。
実際、なるほど~と膝をうつ人材ばかり。そんな出会いの楽しさを体験した日々でもありました。
その体験をこの水戸芸術館でぜひ再現したい、という企画となっていると思います。

ぜひ劇場で、お楽しみください!

 

◎プロフィール

長井好弘(ながい・よしひろ)≪読売新聞東京本社企画委員≫
1955年、東京・深川新大橋生まれ。落語、講談、浪曲などの大衆演芸を中心に伝統芸能、大衆文芸、旅、グルメなどを加えた大人のためのエンターテインメントについて、取材、研究、執筆している。モットーは「面白くてためにならない」。鰻重(丼)と揚げ物全般が好物で、トマトとブロッコリーと高いもの(標高、値段とも)が苦手。読売新聞東京本社企画委員。日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(伝統芸能・大衆演芸担当)。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査委員。「よみうり時事川柳」五代目選者。『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』(東京かわら版新書)、『落語と川柳』(白水社)など、演芸関連の著書多数。
太田博(おおた・ひろし)≪ジャーナリスト、エッセイスト 元朝日新聞記者≫
1940年、静岡県浜松市生まれ。朝日新聞社在職中より、伝統芸能(歌舞伎・文楽・落語等)、民俗芸能(祭事、行事等)を中心に取材、研究、執筆している。その対象は、その風土や生活やたべもの(郷土料理、天然素材による家庭料理)にも広がり、多くの著作がある。現在は高円宮記念地域伝統芸能大賞審査委員、浅草芸能大賞専門審査委員、文化庁芸術祭審査員、生き物文化誌学会会員、朝日カルチャー講師、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(伝統芸能・大衆演芸担当)。主な著作に『落語と歌舞伎・粋な仲』『別冊太陽・落語への招待』(以上平凡社)、イッセー尾形と『思い出してしまうこと』(講談社)、桂文治と『噺家のかたち』(うなぎ書房)ほか。落語会「朝日名人会」(朝日新聞社主催)を創設。