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2018-04-10 更新

今昔雅楽集 当代一流の雅楽団体「伶楽舎」が奏でる雅楽の“今”と“昔”

七夕の宵に雅楽の“今”と“昔”が出逢う――

水戸芸術館で20年ぶりとなる本格的な雅楽の演奏会を、今年の7月7日(土)に開催します。
7月7日は七夕。離ればなれの織姫と彦星が年に一度だけ再会する日とされていますが、水戸芸術館の舞台でめぐり逢うのは、千数百年にわたる雅楽の歴史。その“今”と“昔”です!

雅楽といえば、ゆ~っくりとした音楽というイメージをお持ちではありませんか?

たしかに現在聴かれる雅楽はゆっくりとして、荘重な音楽ですが、平安時代には、雅楽は現在よりも相当速いテンポで演奏されていたことは確実とされています。

雅楽は奈良平安の時代からずっと変わらずに受け継がれてきたとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

雅楽はとても長い歴史をもつ音楽ですが、長い歴史の間に失われてしまった楽曲や伝承が途絶えてしまった奏法もあります。たとえば雅楽の箏は右手だけで弾かれますが、応仁の乱以前には左手の奏法もあったことが分かっています。

雅楽も、時代による変化をまったく受けなかったわけではありません。その一方で、現代では、そうした失われた奏法や楽曲を復元しようとする動きもあり、新しい雅楽の作品を生み出そうとする作曲家や演奏団体も活動しています。
「世界無形文化遺産」にも登録されている雅楽は、決して過去の遺物ではありません。今も生きている芸術、“成長している伝統”といっても過言ではないでしょう!
そんな雅楽の世界に、あらためて触れてみませんか?

この演奏会では、雅楽の世界を、

[1]現在まで伝えられてきた古典曲
[2]楽譜だけが残り、演奏伝承が途絶えてしまった楽曲(再現演奏)
[3]現代の作曲家による雅楽の新作

という3つの側面からご紹介いたします。この3つの側面が揃ったプログラムは、なかなか珍しいのではないかと思っています。
演奏会を通して、雅楽の伝統のなかに息づく多様な音楽性――千年以上にわたる伝承とその先に生まれた新たな試み――を一夜にお聴きいただこうと企画しました。
宮内庁出身の楽師・芝祐靖氏が音楽監督を務める当代屈指の雅楽団体「伶楽舎」による演奏でお楽しみください。

平安貴族の歌舞の宴

演奏会の前半は、[1]雅楽の古典を中心としたステージ。ここで上演されるのは、芝祐靖氏の復曲・構成による〈露台乱舞(ろだいらんぶ)〉。雅楽の古典を中心にした組曲で、平安貴族の歌舞の宴を再構成した舞台作品です。
この組曲は演奏会ごとに曲を入れ替えて構成されるのですが、今回の演奏曲は以下のとおり。

雑芸 白薄様(しろうすよう)
管絃 平調音取(ひょうじょうのねとり)、越天楽(えてんらく)
朗詠 二星(じせい)
阿音三返(あおんさんべん)
雑芸 早鬢多々良(はやびんたたら)
管絃 王昭君(おうしょうくん)
乱舞と今様 萬歳楽(まんざいらく) 池の涼しき
雑芸 伊佐立奈牟(いざたちなむ)

注目は、まず〈平調 越天楽〉。雅楽でおそらく一番有名な楽曲です。なにかのBGMで雅楽が流れるときは、ほぼ必ずこの曲! 学校の音楽の教科書にも載っています。
それから七夕に因んだ朗詠〈二星〉は、季節にぴったりの選曲です。
〈早鬢多々良〉〈萬歳楽〉は舞もあり、視覚的にも楽しめる作品となっています。

遥かシルクロードの響き?

演奏会の後半は、[2]廃絶曲〈曹娘褌脱(そうろうこだつ)〉の再現演奏(抜粋)に始まります。
平安朝随一の横笛の名手・源博雅……といってもピンとこない方は、少し前に小説や漫画、映画で大ヒットした『陰陽師』(原作:夢枕獏)をご記憶でしたら、主人公の安倍清明とコンビで出てきた人、といったらお分かりになる方もいらっしゃるでしょうか? あのキャラクターは実在の人物で、日本の音楽史上とても重要な役割を果たした人物です。
その源博雅が編纂した『新撰楽譜』に残されているものの、古くに伝承が途絶えてしまったといわれる楽曲が〈曹娘褌脱〉です。
1981年に国立劇場で再興初演がなされ、「これまで誰れも予想もしなかった曲が忽然と現れ世間を驚かせ」ました(木戸敏郎氏 CD『星の輪 ―宮田まゆみ笙の世界―』ライナーノートより)。

聴いてみるとたしかに驚きの音楽! 雅楽の演奏スタイルで復元されているものの、雅楽の節回し(旋法)ではありません。
私は初めて聴いたとき、中央アジアの方の民族音楽を想像しました(あまり聴いたことがないけれど……)。
実際、雅楽の曲や楽器のなかには、かつての「西域」、つまり中央アジアや西アジアからシルクロードを辿って伝わってきたものもありました。雅楽の「原種」は、もしかするとこんな音楽だったのでは?と考えさせられる一曲。
今回の演奏では、東大寺正倉院に残されている、現在の雅楽では使われない古代楽器(排簫、阮咸、箜篌、方響など)の復元品が使用されます。
なかなか目にすることのできない楽器たちです。これもまた見逃せません。

20世紀に生まれた新しい雅楽

最後は、[3]現代に生きる雅楽人の作品、現代に作られた雅楽作品ということで、笙奏者・宮田まゆみ氏による正倉院復元楽器・竽(う)のための作品〈滄海(うみ)〉、そして武満徹による新作雅楽の名作〈秋庭歌(しゅうていが)〉で演奏会を締めくくります。
〈秋庭歌〉が初演された時(国立劇場、1973年10月)のプログラムノートで、武満氏は次のように記しています。

「私たちの遠い祖先が先進文明にはじめて触れた愕きを、私自身のものとして失わないようにすること。新雅楽を創るというような気負いを捨てて、ただ、音の中に身を置きそれを聴きだすことにつとめる。」

ぜひ皆さまも、雅楽の音の中に身を置いて、「愕き」にあふれた――ワンダフルな――夜をお過ごしいただければ幸いです。7月7日の夕方17:00開演。その15分前の16:45から、伶楽舎メンバーによる楽器紹介を中心としたプレトークも予定しております。チケット好評発売中です。

篠田大基(水戸芸術館音楽紙『vivo』2018年7-8月号より)