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2019-02-17 更新

【公演に向けて】「ちょっとお昼にクラシック 小栗まち絵と仲間たち」ご出演・小栗まち絵さんのインタビュー

昼下がり、気軽に音楽をお楽しみいただける人気シリーズ「ちょっとお昼にクラシック」。2月21日(木)には水戸室内管弦楽団のメンバーでヴァイオリニストの小栗まち絵さんを中心とした室内楽の演奏をお届けします。

2月19日から21日の午前中、水戸市内の中学1年生の皆様をホールに招いて同内容で「中学生のための音楽鑑賞会」も開催いたします。今回の鑑賞会、そして「ちょっとお昼にクラシック」に向けて、小栗さんに共演者や演奏曲、そして室内楽の魅力についてお話を伺いました。


―今回の共演者の方についてお聞かせください。

ヴィオラの馬渕昌子さん、チェロの丸山泰雄さんは私も所属している大阪のいずみシンフォニエッタのメンバーであり、気心知れた仲間です。オーケストラだけでなく、2月上旬にいずみシンフォニエッタのメンバーのアンサンブルでも共演します。

ピアノの白石光隆さんとは初めての共演ですが、馬渕さんと丸山さんがしばしば共演されていてご推薦いただきました。白石さんは藝大でも教鞭をとっており、藝大に教えに行ったときに学生さんが「白石先生の授業は面白いです!」と言っていましたし、他の演奏家からの信頼も厚い方です。そんな白石さんと水戸で室内楽を演奏できるのは今からとても楽しみです。

―この演奏会の前2日間は同プログラムで5公演、水戸市内の中学1年生を対象に行う「中学生のための音楽鑑賞会」があります。若い方々に向けて演奏をする時、どのような想いを抱くのでしょうか。

日本の中学生向けの鑑賞会として室内楽を演奏するのは初めてです。やはり音響のいいホールでしっかり聴いてもらうというのは貴重なことですよね。水戸の子どもたちは小学5年生の時には市民体育館で水戸室内管弦楽団の「子どものための音楽会」を聴きますし、中学1年生になると今回のように水戸芸術館のホールに招かれて、より近くで生の演奏を聴く機会が設けられています。人によっては楽器の生の音を全く聴かずに大人になるという人もいると思うので、このようになるべく多くの子どもたちに生の音楽を聴いてもらう機会を作るというのはとても大切なことだと思います。聴いてくれた中学生の中で、一人でも弦の音っていいなって思ってくれたり、これがきっかけで水戸室内の演奏会にも足を運んでくれたり、楽器を弾いてみようかな、と思う人が出てきてくれるといいなという想いがあります。

私の家族の話になりますが、私の父は大分のお寺の家で生まれて、公立の中学校に進みました。その中学校の先生にヴァイオリンが弾ける方がいらっしゃったらしいのです。中学生だった父はそこで初めてヴァイオリンの音を生で聴いて「いいな!」と思ったんですって。それが父とヴァイオリンとの出会いで、後にヴァイオリンを買って独学で弾いていて、私が生まれた時には「娘にヴァイオリンを習わせよう」ということになったらしいのです。間接的ではありますが、中学生の時に父がヴァイオリンの音を聴いたから、いま私がヴァイオリンを弾いている。感受性が豊かな時期に、生の音楽を聴く刺激というのは生涯にわたって影響を与えるのかもしれません。

―プログラムの選曲にあたって、どのようなことを意識されましたか?

大人の方に楽しんでいただけるのはもちろん、中学生の皆さんにも飽きずに聴いていただけるようにバラエティ豊かな曲を選曲しました。そして芸術館という親密な空間でやるからこそ、弦の響きを楽しんでもらえるプログラムにしました。まず最初に弦楽器3台でバッハ作曲、シトコヴェツキー編曲の〈ゴルトベルク変奏曲〉から抜粋をお届けします。一口に弦楽器の音と言っても、弓で弦を弾く音、軽く弦をはじく音、強くはじいて出す打撃音に近い音など様々な質の音があります。今回もいろいろな音のヴァリエーションを味わっていただければ嬉しいです。

続いてはそれぞれの楽器のソロ。緩急の対比を味わえる曲たちが並んでいます。チェロの丸山さんには定番曲サン=サーンスの〈白鳥〉と、チェコの作曲家ポッパーの〈妖精の踊り〉を演奏していただきます。ピアノの白石さんは1曲に華やかさや優雅さが詰め込まれたショパンの〈華麗なる円舞曲〉。ヴィオラの馬渕さんは、私がリクエストしたヒンデミットの〈無伴奏ヴィオラ・ソナタ 第1番〉第4楽章を弾いてくれます。休む暇もなく駆け抜けるような曲で、初めて聴いたときは衝撃的でした。ヒンデミット自身もヴィオラ奏者であったからこその表現ではないかと思います。エレガントな馬渕さんが激しい曲を弾くというギャップがまた良いのではないでしょうか(笑)。その前に演奏するチャイコフスキーの〈メロディ〉はおしゃれでロマン的詩情が溢れる曲なので、その2曲の対比も面白いかと思います。

―今回、小栗さんはご自身のソロ曲として貴志康一作曲の〈竹取物語〉を選曲くださいました。

貴志康一さんは大阪出身のヴァイオリニスト・作曲家で、齋藤秀雄先生と同時期にベルリンで学んでいらっしゃった方なんです。私は1994年に貴志さんのヴァイオリン曲を6曲収録したCDをリリースしていて、この〈竹取物語〉も収録されています。かぐや姫の物語を描写し日本情緒溢れるこの曲は、1949年に湯川秀樹さんがノーベル賞を受賞された際の晩餐会で管弦楽版が演奏されました。その映像は今も残っているんですよ。

美しく育ったかぐや姫に公家や皇子たちが求婚しにきて、捧げものが偽物だとわかる場面燃えないはずの火鼠の皮衣が燃えているのか、がちゃがちゃと大騒ぎをして急に静まったりと、情景が目に浮かぶような曲なのです。大人の方はもちろん、中学生の皆さんにも楽しんでもらえるかな、と思って選曲しました。〈竹取物語〉には東洋的な音階が使用されていますが、東洋繋がりでクライスラーの〈中国の太鼓〉も演奏します。クライスラーが日本と中国を旅行したときの印象を曲にしたといわれています。

最後には全員でブラームスの〈ピアノ四重奏曲 第1番〉から “ジプシー風に”と書かれた終楽章を演奏します。皆さんご存じでしょうブラームスの〈ハンガリー舞曲〉ともオーバーラップする印象がある青年期のエネルギー溢れる作品ですが、一方この曲を作曲した頃出会ったシューマン夫人・クララへの複雑な想いもこめられているようで、そのあたりを感じていただければと思っています。

―小栗さんは室内楽の演奏を多くされていますが、その基礎はどのように培ったのでしょうか。

私の音楽はカルテットが軸になってます。私が「相愛学園 子どもの音楽教室」から桐朋女子高等学校に進学すると決まった時、相愛と桐朋の両方で教えていらっしゃった齋藤秀雄先生が、桐朋で私を含めたカルテットのメンバーをすでに決めていたのです。辰巳明子さん、永富美和子さん、藤原真理さんという顔ぶれで、私が高校に合格すると彼女たちから「あなたは私たちとカルテットを組むことになってるのよ」と言われて驚いてしまいました(笑)。高校に進学すると、彼女たちは近くに住んでいましたし、本当に毎日ずーっとカルテットをやっていましたね。1年目はハイドンの〈弦楽四重奏曲 作品77の1〉だけ、2年目はベートーヴェンの〈弦楽四重奏曲 作品18の1〉だけを勉強しました。1年かけて1つの作品ですから、本当に隅々まで勉強しました。齋藤先生は「カルテットはアンサンブルの基礎だ」とおっしゃっていて、奏者同士のコミュニケーションの仕方を学ぶ土台なんですね。彼女たちとは6年間カルテットを組んでいい友達にもなったし、同じ感情の音を出そうとしたとき、技術的にはどのような方法で音を出せば美しいハーモニーを生み出せるのかなどを言葉で伝える重要性も学びました。

―小栗さんにとって、室内楽の魅力とは何でしょうか。

作曲家が書いた音楽に向かって、心を合わせて一つのものを作りあげていく。その過程が一番の魅力だと思います。そして演奏会本番では、リハーサルで作りあげた共通認識の範囲内で、一人ひとりが自由な音楽を奏でる。確かに大きなオーケストラでもその自由さはあります。指揮者が音楽の方向性をまとめますが、言われた通りにだけ弾くわけではなく、奏者一人ひとりが感じるものを表現していきます。室内楽ではその自由さが如実な形となり、より純粋に表現できる。室内楽をやっていると感じるのですが、言葉ではなかなか言えないことが、楽器を通すと表現できるような気がします。感情を露わに泣いたり怒ったりすることは普段そんなにできないですし、「大好きー!」という愛の言葉も恥ずかしくて言えないですしね(笑)。それを曲の中で音にすると全力で表現できることが面白いですね。

(文・聞き手:鴻巣俊博)


〈公演情報〉

ちょっとお昼にクラシック 小栗まち絵と仲間たち

2019年 2/21(木)13:30開演(13:00開場)
会場 水戸芸術館コンサートホールATM
全席指定 1,500円(1ドリンク付き)

【出演】
小栗まち絵(ヴァイオリン)
馬渕昌子(ヴィオラ)
丸山泰雄(チェロ)
白石光隆(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハ(シトコヴェツキー編曲):ゴルトベルク変奏曲 ト長調 BWV988 (弦楽三重奏版)より
サン=サーンス:組曲〈動物の謝肉祭〉より“白鳥”
ポッパー:妖精の踊り 作品39
ショパン:ワルツ 第2番 変イ長調 “華麗なる円舞曲” 作品34の1
チャイコフスキー:〈懐かしい土地の思い出〉より “メロディ”(ヴィオラ版)
ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタ 第1番 作品25の1 より 第4楽章
貴志康一:竹取物語
クライスラー:中国の太鼓
ブラームス:ピアノ四重奏 第1番 ト短調 作品25 より 第4楽章 “ジプシー風ロンド”

公演詳細はこちら

http://www.arttowermito.or.jp/hall/hall02.html?id=1499