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2019-09-29 更新

【公演に向けて】水戸室内管弦楽団が拓くロマン派のレパートリー
ラデク・バボラーク(指揮/ホルン)インタビュー

 “当代最高のホルン奏者”の名をほしいままにし、近年は指揮者としての活躍も目覚ましいラデク・バボラークさん。10月の水戸室内管弦楽団(MCO)第104回定期演奏会ではソロ・ホルン奏者、そして指揮者として水戸芸術館のステージに登場します。8月末、長野県松本市で開催されている「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」の期間中、MCO楽団員代表のホルン奏者・猶井正幸さんにドイツ語の通訳をして頂きながら、バボラークさんにお話しを伺いました。
 


―今回はロマン派の作品が核となるプログラムですが、実はリスト、ヴォルフ、ブルックナーはMCOが初めて取り上げる作曲家です。今までMCOがあまり演奏していないロマン派の作品を選曲された理由は?
 
 室内管弦楽のレパートリーは古典派、次いでバロック時代の作品が多く、ロマン派の作品は比較的少ない。MCOは色彩感豊かな音色を持っているので、技巧的なだけではない、豊かな音色を聴かせることができるロマン派の曲を取り上げたいと考えました。私はMCOのメンバーとして、他のメンバーたちと一緒に今までハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンをはじめとする古典派の作品を中心に演奏してきて、このオーケストラの土台が確固たるものになったと感じています。その土台の上で、ロマン派のレパートリーを取り上げることで、より豊かな音色を培うことができると考えています。

 前回私が指揮した第101回定期演奏会では、ルーセルやミヨーといった決して演奏機会が多いとはいえない、しかし色彩感あふれる近代フランスの作品を取り上げました。その時もメンバーは私の新しい提案を快く受け入れてくれました。今回も、MCOにとって新しい領域のレパートリーに向き合うわけですが、前回同様刺激に満ちたMCOの新しい一面をお聴かせできると確信しています。


 水戸室内管弦楽団第101回定期演奏会より

―今回のプログラムは、もともと室内管弦楽の編成で作曲されたものではない曲が大半を占めています。そのような編曲作品をMCOで取り上げる意図はどのようなものでしょう?
 
 作曲家が生きていた当時、作曲者自身が曲の演奏機会や演奏者の人数に合わせて編成を変えるということは珍しくありませんでした。最初は数人の小編成で試しに演奏してみて、それから大きな編成に書き換えて、最後にオーケストラの作品として完成する、ということもあったわけです。今回のプログラムには、作曲家がしていたことと逆の試み、つまり大編成から小編成のために編曲された作品も、MCOという優秀な室内管弦楽団とともにやってみよう、という意図があります。

 作品が人々に親しまれ、演奏される過程で、大小さまざまな編成のための楽譜が存在している曲もたくさんあります。例えばリストの〈ハンガリー狂詩曲〉の原曲はピアノ1台のための作品ですが、今ではオーケストラでもしばしば演奏されています。それとは逆に、リストはベートーヴェンの〈交響曲第9番〉の2台ピアノ版や、他の作曲家のオペラの抜粋をピアノ1台で演奏できる楽譜も数多く残しています。編成の大小がその作品の価値を決めるわけではなく、人の心を動かすような優れた作品はどんな編成で演奏してもその価値は変わらないということを、今回のコンサートで証明できると思います。


 
―ホルンのソリストとして、ロゼッティの〈ホルン協奏曲 ニ短調〉を演奏されますね。日本ではほぼ同時代のモーツァルトの協奏曲に比べて演奏される機会が少ない作品ですが、どのような作品なのでしょう。
 
 ロゼッティは私と同じくチェコ、当時でいうボヘミア出身の作曲家で、イタリア風の名前を名乗ってドイツ国内で宮廷音楽家として活躍しました。友人の中にホルンの名手が数名いたようで、ロゼッティは友情の証として彼らのために協奏曲を書きました。当時、ロゼッティの名は、管楽器の使い方が優れた作曲家としてヨーロッパ中に知られていて、かのモーツァルトもロゼッティの作品をお手本にしてホルン協奏曲を作曲したと言われているほどです。ホルンという楽器を主役にして協奏曲を作曲する、というアイディア自体が斬新だった時代のこと、「ホルン協奏曲」というジャンルはロゼッティが確立したといっても過言ではないでしょう。

 しかし、ロゼッティとモーツァルトのホルン協奏曲には大きな違いがあります。ロゼッティは音域も広く、滝のように上から下に落ちるアルペジオなどの技巧がふんだんに盛り込まれています。一方、モーツァルトは限られた音域でこの上なく美しいメロディを書いている。ロゼッティはホルンの機能性と技術を、モーツァルトはホルンを歌わせることを重視して協奏曲を書いているという点が最も大きな違いです。
 

水戸室内管弦楽団第78回定期演奏会より(モーツァルト:ホルン協奏曲 第3番)

―バボラークさんは2008年以来、過去に4回MCOを指揮しています。MCOを指揮するとき、どのような気持ちで臨まれていますか?
指揮とホルンを両立していくことをメンバーは温かく迎え入れてくれたし、小澤さんも見守ってくださっている。今回のような新たな挑戦ともいえるプログラムも受け入れて、一緒に音楽づくりをしてくれる仲間に感謝したいと思います。先日、今回の演奏会の内容を決めるミーティングで、猶井さんが「101回に続いて、バボラークさんに指揮してもらうのはどうだろう」と提案したところ、他のメンバーも一同に賛同してくれたのはとてもうれしかった。信頼する仲間に囲まれて音楽に集中して向き合えるこの場は、私にとって大切な場所です。

ドイツ語通訳:猶井正幸
協力:セイジ・オザワ 松本フェスティバル

文・聞き手:鴻巣俊博