チケット

【重要なお知らせ】

  • 音楽
  • 専属楽団

2021-09-07 更新

水戸室内管弦楽団 第108回定期演奏会人生の大事な節目を彩った二つの交響曲~指揮者・広上淳一さんインタビュー

国内外で活躍を重ねてきた指揮者・広上淳一さんが、水戸室内管弦楽団(MCO)のステージに6年ぶりに登場します!広上さんは、2000年の開館10周年記念、2008年の第3回ヨーロッパ公演直前の定期、2015年の開館25周年記念と、MCOの大切な節目の演奏会でお招きしてきたマエストロです。今回は、5度目の緊急事態宣言下となった8月末に、第108回定期演奏会に向けてリモートでおこなったインタビューをお届けします。今回のプログラムにまつわる貴重なエピソードや、コロナ禍で改めて抱いた想いについて、お話を伺いました。


©Masaaki Tomitori
 
小澤征爾先生、吉田秀和先生のレガシー

――MCOとは4度目の共演を迎えますが、この楽団の特徴をどのように捉えていらっしゃいますか。
 
水戸室内は国際色が豊かであるのはもちろん、小澤征爾先生や吉田秀和先生のレガシーというか、意志と遺産によって築き上げられた楽団だと思うんです。そういう楽団が、歴史的にも、思想的にも、学術的にもひとつの世界がある水戸という土地を選んで作られた。そこで、土地に根付いた活動をゆっくりと地道に積み重ねてきたことが、これだけの楽団になったひとつの要因だと思います。そういう意味では水戸の方々に感謝ですよね。この土地の方々が盛り上げてくださることで、水戸室内は国際的な活動ができるようになったでしょうし。ラデク・バボラーク先生とか海外の素晴らしい名手が水戸に来てくれるのも、そういう支えがあるからですよね。
 
――これまでの共演で特に印象深かったコンサートは…?
 
小澤先生が急遽体調を悪くされて代役をやらせていただいたときのベートーヴェンの交響曲第4番(2008年・第72回定期)は忘れられないですね。児玉桃さんとのモーツァルト(2015年・第94回定期)もそうだし、色々ありますね。水戸室内にデビューしたのは2000年……ということは39か40歳の頃。懐かしいですね!21年前から共演させてもらえているなんて幸せだなと感じますし、節目節目に呼んでいただけて光栄です。それに、それぞれ歴史を持ったプレーヤーの方たちがいらっしゃいますしね。音楽のコミュニケーションをする、そういう演奏会に今回もしたいと思います。


2000年 第42回定期演奏会 (撮影:大窪道治)


2008年 第72回定期演奏会(撮影:大窪道治)



2015年 第94回定期演奏会(撮影:大窪道治)

 
バーンスタインとの忘れられない思い出

――シューベルトの交響曲第5番とメンデルスゾーンの交響曲第3番〈スコットランド〉は、どんな思いで選んでくださったのでしょうか。
 
この2つは僕にとって人生の思い出の曲です。メンデルスゾーンのこの曲は、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団でのデビュー曲。ヨーロッパで生活していた頃で、湾岸戦争が起きる前の1988年に、ズービン・メータ先生に呼んでもらってデビューしたときのメインがこの曲でした。1曲目はたしか外山雄三先生の交響詩〈まつら〉。あとリストのピアノ・コンチェルトの1番を、バリー・ダグラスのピアノで。そういう意味で、〈スコットランド〉は勝負をかけたときの曲だったんです。この曲は、僕の中で大事にしている曲なものですから、水戸室内とは4度目の共演ですし、室内オケでもできないことはないので、やらせてもらおうかなと。

シューベルトの5番は、1987年、僕がアムステルダムで貧乏生活をしていた頃、マエストロ・バーンスタイン先生がロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とヨーロッパツアーしたときに、マエストロと楽団が僕をアシスタントに指名してくれたんです。マエストロが持ってきた曲が、マーラーの4番とシューベルトの5 番。僕はアシスタントしながら一生懸命教えてもらいました。先生が亡くなる約3年前のことです。ちょうど僕がヨーロッパに住み始めたばかりの頃で、確か6月だったかな。朝9時半からリハが始まるんですが、天窓から朝の陽ざしが差し込んでくるんです…。そのときに音が出たのが、シューベルトの5番の2楽章。なんと美しいんだろう!と思いましたね。英語は喋れないし友達も知り合いもいない中、一人で仕事しに来ているけど、「俺もしかしたら、いま一番幸せな人間なんじゃないかな」と思ったんです。マエストロが ”Junichi, how’s balance?” みたいなことを言うんだけど、英語なので何を言われてるのかよく分からなかった。でも、私とマエストロとオーケストラだけの世界がそこにはあった。そのときに流れてきたEs-dur(変ホ長調)の2楽章が、なんと美しかったことか。僕もあと何年生きられるか分からないし、縁がある水戸室内の演奏会だし、せっかくだからこのオーケストラにも感謝を込めて、自分の人生の大事な節目でやってきた曲を2つ持っていこうと思ったんです。
 

コロナ禍で改めて抱いた感謝の気持ち

――日本では感染症収束の兆しがなかなか見えない日が続いていますが、コロナ禍の1年半を過ごされて、今どのような心境でいらっしゃいますか。
 
コロナではっきりわかったのは、お客様の存在がいかに有難いかということ。レストランと同じです。昨年は約半年間、どこの楽団にも仕事がなくなり、私たちは休業状態に追い込まれました。赤字がどんどん増えて、これから私たちは生きていけるのか、存続できるのかというところまでいった。けれど今は、客席半分くらいであったとしても、演奏会をやれることがまず幸せだなと思います。お客様の拍手から、待ち構えていてくれた気持ちが伝わってくるんですね、どの楽団に行っても。僕のオーケストラ〔註・京都市交響楽団〕でもそうです。この気持ちをぜったいに忘れてはいけないなと思っています。楽団員が登場すると同時に拍手がある。演奏する側、料理を作る側は、こうやって待ち焦がれているお客様がいるからこそ成り立ってきた。今は、そのごく当たり前のことに心から感謝しながら仕事しています。

コロナについては本当に早く終息してほしいです。飲食業を営んでいる友人も、店を閉じ始めたりして苦しい状況です。でも、まずは演奏会を続けていくこと。それから、こうした非常時において、目配りの行き届いた政策が実行できる政治家を、我々がしっかり選挙で選ばないといけないですね。オーケストラのことで言えば、日本の楽団はこの30~40年の間に、欧米の一流の楽団並みに上手くなったわけですから、今の僕にできるのは感謝して演奏することだけ。いい演奏をすることがお客様へのお返しだから、僕も一生懸命務めようと思います。
 
2021年8月26日
聞き手:高巣真樹
(協力:株式会社AMATI)

水戸室内管弦楽団 第108回定期演奏会
2021.10.30土、31日 15:00開演(14:15開場)
水戸芸術館コンサートホールATM
指揮:広上淳一
曲目:シューベルト 交響曲 第5番 変ロ長調 D485
         メンデルスゾーン 交響曲 第3番 イ短調 作品56「スコットランド」