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2021-09-11 更新

【ちょっとお昼にクラシック ワーヘリ】曲目解説



9月12日(日)「ちょっとお昼にクラシック ワーヘリ」の曲目解説を掲載いたします。ご鑑賞の手引きになりましたら幸いです。

※本公演のチケットは販売停止しております。

モンティ(金井信 編曲):チャールダーシュ
“チャールダーシュ”とはハンガリーを起源とする2拍子の舞踊音楽で、その名前は「田舎の酒場」を意味する「チャールダ(csárda)」に由来します。哀愁を帯びた緩やかな部分と情熱ほとばしる急速な部分で構成されているのが特徴で、19世紀以降多くの作曲家が自身の作品に取り入れました。今回のプログラムにはチャールダーシュに関係する作品が3曲盛り込まれています。
イタリアの作曲家、ヴィットリオ・モンティ(1868-1922)の〈チャールダーシュ〉は当初はマンドリンのために書かれ、1904年に出版されたヴァイオリン編曲版で広く親しまれるようになりました。技巧を披露するピースとして人気が高く、後世の人々によってヴァイオリン以外にも様々な独奏楽器やアンサンブルのための編曲版が数多く作られています。金子信の編曲版はユーフォニアムとテューバが絡み合って色気さえ感じさせる前半部、タンギング(舌で音を区切る技術)の妙技に圧倒される後半部に加え、ジャズ風の洒脱なアレンジが光る中間部も聴きどころです。


ブラームス(松本望 編曲):ハンガリー舞曲 第5番
ドイツの作曲家ヨハネス・ブラームス(1833-97)は20歳の時、ハンガリー出身のヴァイオリン奏者レメーニの演奏旅行に伴奏ピアニストとして同行しました。レメーニが若きブラームスに弾いて聴かせたチャールダーシュの数々――それらが後にピアノ連弾用に出版された〈ハンガリー舞曲集〉に取り入れられているといわれています。21曲から成る〈ハンガリー舞曲集〉の中でも際立って有名な第5番は、ハンガリーの作曲家ベーラ・ケーレルのチャールダーシュの一部がほぼそのままの形で使用されています。本日のピアノ演奏も務める松本望による編曲は、メロディ・パートとベース・パートが3つの楽器の間で目まぐるしく入れ替わり、3人の阿吽の呼吸を十二分に感じられるアレンジとなっています。
 

加羽沢美濃:やさしい風
ピアニストとしても活躍する作曲家・加羽沢美濃が、ヨーロッパを旅した経験をもとに書いた作品が収録されているCD「やさしい風」(1999年リリース)。そのアルバム・タイトルにもなっているこの曲は、イタリアからオーストリアへアルプスを越える列車の窓の外に広がる風景にインスピレーションを得て書かれました。元々はピアノと室内オーケストラの曲ですが、加羽沢自身がワーヘリのために編曲を手掛け、原曲とは違った新たな魅力を持つ作品へと生まれ変わりました。題名のとおり、やさしい風に包み込まれるような大らかな曲調で、低音楽器特有の豊かな倍音を感じる1曲です。
 

中橋愛生:アロハ・オエ・ディエス・イレ
数々の吹奏楽作品を世に送り出し、NHK-FM「吹奏楽のひびき」のパーソナリティを10年以上務める中橋愛生(1972-)が、ワーヘリの委嘱で作曲した作品。「グレゴリオ聖歌の〈ディエス・イレ(怒りの日)〉をモティーフに」という依頼を受けて、中橋の頭の中では反射的に語呂が似ている〈アロハ・オエ〉が浮かんだとのこと。〈ディエス・イレ〉といえばベルリオーズの〈幻想交響曲〉の第5楽章、魔女の宴の場面で2本のテューバ(初演はオフィクレイド)が吹き鳴らす旋律としてよく知られているように、ロマン派の作曲家たちはこの旋律を死の象徴として使用しています。一方〈アロハ・オエ〉はハワイのリリウオカラニ女王が作ったと伝えられ、讃美歌にも収録されている穏やかな曲です。語呂が似ているという理由で組み合わされてしまった、全く違う2つの旋律。どんな作品に仕上がっているのか、お楽しみに。
 

松本望:空への階段
(作曲者による解説)
本作品はワーヘリの委嘱により作曲、2016年4月に初演されました。ユーフォニアムとテューバという低音楽器ならではの大らかな歌と、ワーヘリの2人ならではの超絶技巧による疾走感のどちらも織り込むような曲を目指しました。主要モティーフは「上行する音階」で、「音階=音の階段」「上行音階=空へ上るイメージ」ということで、このタイトルにしました。
3つの楽器の混沌とした響きによる微かな上行形から始まり、その後に現れる階段状の音型が、はじめのうちは息長く保たれていた1段ごとの音価をだんだん狭めるようにしながら、やがて急激に上っていきます。途中にはジャズへのオマージュとして各楽器のアドリブ部分も登場します。
 

ビゼー(西下航平 編曲):〈カルメン〉の主題による幻想的組曲 より 
             “プレリュード”、“ハバネラ”、“闘牛士の歌”、“夜想曲”

スペインのセヴィリアを舞台に、恋も人生も自由に生きるカルメンと竜騎兵の伍長ドン・ホセの悲哀を描いた〈カルメン〉は、現在世界中の歌劇場で最も上演回数の多いオペラの1つと言えるでしょう。フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838-75)がこのオペラにちりばめた珠玉の旋律はテレビやラジオなどでも頻繁に使用され、誰もが一度は耳にしたことがあるはず。今日お届けする作品はそれらの旋律をもとに、新進気鋭の作曲家・西下航平がワーヘリのために書き下ろした編曲版です。歯切れの良い“プレリュード”は映画音楽風に、アルゼンチン・タンゴに影響を与えたといわれるキューバの舞曲“ハバネラ”はタンゴ風に、勇壮な闘牛士エスカミーリオが歌う“闘牛士の歌”は前半と後半で違った表情を見せる曲となり、ドン・ホセの許嫁ミカエラが歌う曲をもとにした“夜想曲”はボサノヴァ風にアレンジされています。出版譜に西下自身が記しているように「新たな解釈によって『再翻訳』」され、まるで物語の舞台がスペインからアメリカ大陸に移ったような、精彩を放つアレンジに仕上がっています。
 

リスト(松本望 編曲):ハンガリー狂詩曲 第2番
 ハンガリー生まれのフランツ・リスト(1811-86)は生涯のほとんどを他の国で過ごしましたが、祖国への想いは強く、ハンガリーのロマ音楽を取り入れた作品を数十曲作曲しました。1847年作曲の〈ハンガリー狂詩曲 第2番〉はチャールダーシュの前身といわれる舞曲“ヴェルブンコシュ”に影響を受けたピアノ独奏曲。「ピアノの魔術師」の異名を持つリストの作品ならではの超絶技巧が要求されます。松本望はこの超絶技巧をワーヘリの2人にも要求する編曲を施し「この楽器でできるあらゆる事をこれでもかと目一杯盛り込んでいる」と述べています。卓越した技術を持つ3人による、息もつかせぬスリリングな“ラプソディー”をご堪能ください。
 

水戸芸術館音楽部門 鴻巣俊博