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2021-12-07 更新

水戸芸術館現代美術センターによる「小中学生のための学校訪問アートプログラム」レポート②蓮沼昌宏「つくろう! クルクルアニメーション」編【アートで応援プロジェクト】

新型コロナウイルス感染症が子どもたちの学校生活にも大きな影響を及ぼしている状況を受け、水戸芸術館現代美術センターは、地域の子どもたちが芸術に触れる機会をつくる方法について、2021年に一部シフトチェンジを図りました。それが「小中学生のための学校訪問アートプログラム」です。
 これまでは子どもたちに芸術館に来てもらい展覧会やワークショップを楽しんでもらうことに重点をおいてきました。しかし、コロナ禍は集団での移動を難しくし、また臨時休校でカリキュラムが乱れ、展覧会の団体鑑賞そのものが計画しづらい、計画しても実行できないケースが想像され、来るのが無理ならこちらから出向こうと、ちょっとした発想の転換でした。
 プログラムのメニューは、1)主にアーティストが講師として出向くワークショップ、2)対話型鑑賞、3)学芸員によるレクチャーの3つに大きく分けられます。なかでも学校からのリクエストがダントツで多かったのが、アーティストによるワークショップです。そして、私立や国立の学校からは恒例の全校芸術鑑賞会がコロナ禍で実施できないかわりとして、あるいは総合的な学習の枠組みとして、学芸員によるオンラインレクチャーのご要望も複数件いただき、実施しました。
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蓮沼昌宏さんは、物語やイメージの自律性、夢の不思議さに関心を寄せ、19世紀後半に考案されたフリップ・ブック(パラパラマンガ)の原理で絵が動く装置「キノーラ」を用いたアニメーションをはじめ、写真、壁画、絵画を制作してきました。近年は、さまざまな土地に滞在しながら、その場所の持つ歴史や記憶、そこに住まう人々との対話から導き出される物語(ファンタジー)を紡ぐ試みを積極的に行ってきました。蓮沼WSは、蓮沼さんを講師に、アニメーションの原理について学び体験する場として、アニメーションの制作を通じその構造を理解するともに、児童や生徒自らが描いた絵がアニメーションとして動きだすまでの過程のなかで、動画の基本を学び取ることを目的として企画しました。
当ワークショップでは、牛乳パックとトイレットペーパーの芯を用いた手回し式のキノーラ(アニメーション再生装置)を制作し、A4用紙を16等分した紙(52.5x74.25mm)をアニメーションの一コマとして、16枚以上のコマを描いたものをつなぎ合わせ、制作したキノーラに取り付け、手回しでアニメーションを再生します。参加者には下記の3つの制作テーマが蓮沼さんより提示されました。

①おいかける
②あったものがなくなる
③ないものがでてくる

参加者はこのうち1つを選択し、アニメーションを制作します。なお、2つないし3つすべてを選択し制作することも可能です。
最初に、講師の蓮沼さんからご自身の作品紹介とともにアーティストという職業について、そして作品を制作するということについてお話しがありました。それからキノーラ装置の制作方法についての説明へと続き、蓮沼さんから3つのテーマが伝えられ、参加者たちは制作に入ります。

講師の蓮沼氏から3つの制作のテーマを伝えられる



①キノーラの制作
まずはリールホルダーとなる牛乳パックの加工から制作が始まります。牛乳パックの空き容器に定規を使ってフェルトペンで線を書き入れ、はさみで切れ込みを入れて作ります。

次にフィルムリールを制作します。トイレットペーパーの芯を5センチ残して切り取り、直径38mmに切り抜いた段ボールの円2枚で蓋をしたうえで、マスキングテープで接着し、段ボールの円の中心を貫くように割りばしを差し込み、貫通させます。この時、段ボールの円の中心に、カッターで十字の切り込みを入れておくとスムーズに割りばしを差し込めます。最後に、滑り止めのために輪ゴムを3~4本、円筒に等間隔に巻きつけます。

牛乳パックにフェルトペンで印をつけ、ハサミで切り取り、リールホルダーを制作する様子


トイレットペーパーの芯を加工し、フィルムリールを制作する様子



②コマを描く
紙片②(52.5x74.25mm)に1コマずつ絵を描いていきます。下書き用紙にアイデアやイメージをまとめる参加者もいれば、最初からコマの用紙(紙片②)に描いていく参加者もいました。最初のコマを描いたら、次にトレース台を使って最初に描いたコマの絵と「似ているけれど少しだけ違う」絵を描きます。そのようにして少しずつ変化を描き加え、16コマの絵を完成させます。

先に描いた下絵をもとに、トレース台を使って次のコマを描く



最初からコマに絵を描き、トレース台を使ってコマを重ねて連続するコマを描く



③アニメーションにする
全てのコマを描き終えたら、縦長の紙(紙片②)に各コマを一つずつ順番にスティックのりで接着していき、すべてのコマを接着し終えたところで、最初と最後のコマを輪になるようにつなぎ合わせます。最後にフィルムリールに通し、フィルムホルダーに取りつけると完成です。フィルムリールの割りばしをゆっくりくるくると回すとパラパラとコマが進み、描いた絵が動きはじめます。

コマを縦長の紙(紙片②)に接着し、最初と最後のコマを輪になるようにつなぎ、フィルムが完成


完成したフィルムにリールを差し込み、リールホルダーに取り付ける


作品完成
割りばしを外側に向けて回すと描いたコマが動き出します




④撮影
フィルムの輪は、最初はうまく回転しないかもしれませんが、しばらく割りばしを回しているうちにフィルムの輪がうまく回転するようになります。作品タイトルと制作者の名前を書いた紙と一緒に、蓮沼さんに撮影してもらいました。
 

撮影
作品のタイトルを紙に書きます。まずは作品タイトルを撮影してから蓮沼さんからインタビューを受けながら作品を撮影します。




[上映会]
当ワークショップでは、新型コロナ感染症の状況を鑑みて、参加者同士の接触や会話をなるべく避けたため、講評会は行わず、代わりとして上映会を当館現代美術ギャラリーワークショップ室にて、2022年1月8日(土)-16日(日)の会期で実施しました。
講師の蓮沼さんには参加者へビデオメッセージを寄せてもらい、蓮沼さんが編集した参加者作品映像とともに上映しました。

水戸芸術館現代美術ギャラリーワークショップ室での上映風景



[youtubeリンク]
蓮沼昌宏ワークショップ「つくろう!クルクルアニメーション」and DOMANI@水戸オンライン上映会:水戸市立双葉台中学校1年2組(2021年12月3日実施)
https://www.youtube.com/watch?v=pMhpFM_cyDk&t=3s

蓮沼昌宏ワークショップ「つくろう!クルクルアニメーション」and DOMANI@水戸オンライン上映会:水戸芸術館現代美術センター・ワークショップ室(2021年12月4日実施)
https://www.youtube.com/watch?v=8BMfLFsrF_A

蓮沼昌宏ワークショップ「つくろう!クルクルアニメーション」and DOMANI@水戸オンライン上映会:水戸市立双葉台中学校1年1組(2021年12月6日実施)
https://www.youtube.com/watch?v=uolGLyJYsH0

蓮沼昌宏ワークショップ「つくろう!クルクルアニメーション」and DOMANI@水戸オンライン上映会:水戸市立双葉台中学校1年3組(2021年12月7日実施)
https://www.youtube.com/watch?v=J6S8CpcoO-w&t=57s


当ワークショップは、近年、美術館でも目にすることが多くなった映像やアニメーションの原理の理解を深めてもらうために企画しました。少しずつ変化している静止した絵を連続して見ると、あたかも動いているように見える「仮現運動」という現象に基づいてアニメーションは制作されていますが、これは映画やTV、youtube動画なども同じ原理を利用して制作されています。このようなことを知らずにアニメーションや動画に触れている人たちも多いかもしれません。1枚目のコマ用紙に絵を描いても、連続するコマ用紙にどのように絵を描けばいいのか戸惑う参加者もいましたが、トレース台の上で最初のコマに新しいコマを重ね合わせ、透かして見える絵を少し変えてなぞらせる作業を2~3枚続け、それを並べてパラパラと見せると、少し絵が動いているように見えます。そうしてアニメーションの原理が理解できると、戸惑っていた生徒たちも積極的に次のコマを描くようになっていきました。
また、なかなか絵を描きはじめることができない生徒には、学校で配布されたタブレットPCで描きたいものの画像をイメージ検索し、それをコマ用紙に直接トレースする方法を教えたり、一本の棒や一つの丸といった抽象的な図形でもアニメーションになることを伝えたりしたところ、手を動かしはじめ、作品を完成させることができる生徒も多くいました。すべてのコマを描き終わり、フィルムを完成させて動かしてみたところ、自身の描いた絵が動くことがうれしかったようで、ずっとフィルムを回し続ける姿も見られました。
 

文:井関悠(水戸芸術館現代美術センター)



実施校:水戸市立双葉台中学校 1年1組、2組、3組

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