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2022-11-01 更新

セザール・フランク前後のオルガン音楽の魅惑――ミシェル・ブヴァール(オルガン)インタビュー【ミシェル・ブヴァール オルガン・リサイタル】

フランス・オルガン界の巨匠であり、ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂の首席オルガニストとしても長年活躍されているミシェル・ブヴァールさんにインタビューいたしました。ブヴァールさんを水戸芸術館にお迎えするのは、2014年のリサイタル以来、8年ぶり。いま改めて考える音楽の意義、生誕200年を迎えるセザール・フランクについてなど、貴重なお話を伺いました。



Interview with Michel Bouvard
 
――このたび久しぶりにブヴァールさんと康子夫人をお迎えできますことを嬉しく思います。私たちはこの数年、世界的規模のパンデミックを経験し、数々のコンサートを中止せざるをえない状況におかれました。そうした時期を経て、人間にとっての音楽の意味をどうお考えでいらっしゃいますか。 
 
音楽家にとっては切っても切り離せないテーマですね、ご質問ありがとうございます。人間にとって音楽や芸術は、特に困難な生活を余儀なくされている時ほど、本当にかけがえのない存在だと思います!音楽は苦悩から自らを引き剝がすことを助け、内面の苦しみをしばし忘れさせてくれます。そして感情を揺さぶり、自らの本質に立ち返らせてくれるのです…。また音楽にふれて、感極まり涙することもありますよね。ときには涙を流すことも、気分が良いものだと思いませんか!音楽は、痛みを相対化し、再び前向きになるのを助けてくれるものだと思います。
 
――生誕200年を迎えるセザール・フランクは、オルガン音楽史においてどんな位置づけにあるのでしょうか。またオルガン音楽に革新をもたらした、フランクと同時代のフランスのオルガン製作者、カヴァイエ=コルとの関係についてもあらためて教えてください。
 
セザール=オーギュスト・フランクは、1822年にベルギーのリエージュで生まれました。オランダやドイツとの国境に近く、主にフランス語が話されている地域です。若きセザール=オーギュストは、さまざまな音楽の影響を受けています。例えば彼の音楽修行には、明らかにベートーヴェンやシューマン、シューベルト、メンデルスゾーンの美的感覚が反映されています。もちろんJ.S.バッハもそうですし、移住先のパリではリストやショパンからも影響を受けています。そして1859年、サン=クロチルド教会の正オルガニストに就任しました。そこには当時のオルガン音楽界におけるもう一人の天才、オルガン製作者であるアリスティド・カヴァイエ=コル(1811~1899)が作った、傑作と呼ぶべきオルガンがありました。この楽器に触発され、またリストからの助言も得て、フランクは1864年に〈6つの小品〉を書きました。この非常に優れた作品集によって、フランスのオルガン音楽の水準は高まり、大きな恩恵をもたらしました。今回は、その中で最も有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉を演奏します。
1878年には、カヴァイエ=コルはパリ万博の会場だったトロカデロ宮殿のために、大規模なオルガンを製作しました。今度はその楽器との出会いを機に、フランクは〈3つの小品〉を作曲しました。
そして晩年のフランクは、再びこのパイプを鳴らす楽器のために創作意欲を燃やし、オルガンのための〈3つのコラール〉という宝物を音楽の世界にもたらしてくれたのです。各曲はいずれも大規模なフレスコ画のようです。いくつかのメインテーマが並置され、重ね合わされ、ベートーヴェンの作品とも肩を並べる高度な芸術性を有しています。しかし曲の中にはモリエールの演劇のように、多数の「脇役」的なフレーズも登場します。それらはささやかな存在ですが、作品の統一感を保つために度々登場します。今回私が演奏するのは〈コラール 第3番〉。一聴して輝かしく、詩的で、ドラマティックな音楽です。1890年9月に作曲されたフランク最後の作品で、彼はその数週間後に天に召されました。
 
――今回は、ドイツとフランスの音楽を織りまぜたプログラムをご提案くださいましたね。そして祖父ジャン・ブヴァールさんの作品も演奏していただきます。
 
今年はフランクの生誕200年ですが、プログラムをフランクの曲だけにしたくはありませんでした。それよりもフランク以前/以後に書かれたフランスやドイツの音楽も取り上げた方が、より興味深いリサイタルになると思いました。フランクは、作曲家としてはドイツから、オルガニストとしてはフランスから影響を受けています。また後世に活躍した作曲家も、フランクから大きな影響を受けています。
私はヴェルサイユ宮殿の王宮礼拝堂オルガニストを務めているので、ルイ・マルシャンの〈グラン・ディアローグ〉で演奏会を開始できることを嬉しく思います。偉大なルイ14世時代のフレンチ・スタイルを想起させる曲です。そして妻の康子と編曲した3手の連弾で、フランソワ・クープランによる2つの〈ミュゼット〉をお届けします。原曲では2つのチェンバロのために書かれています。


ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂で演奏するブヴァール氏

J.S.バッハの作品は「必須」ですが、今回選んだのは、私の恩師、アンドレ・イゾワールの素晴らしい編曲による〈4台のチェンバロとオーケストラのための協奏曲〉、そして〈G線上のアリア〉です。そしてモーツァルトの〈管楽器のためのディヴェルティメント〉(オルガン編曲版)を演奏します。これはモーツァルト自身による4手のピアノ編曲版に基づいたものです。
後半は再びフランス音楽に戻ります。フランクのあとは、リヨンで作曲家・オルガニストとして活躍した私の祖父、ジャン・ブヴァール(1905~1996)による2つのノエルを演奏します。フランスのオルガニストが古来からそうであったように、彼も、フランスの地方で親しまれている様々なクリスマスのメロディを作曲に使うのが好きでした。そして、メシアンが1934年に作曲した傑作〈主の降誕〉の最後の曲〈神はわれらのうちに〉を演奏します。
 
――最後に、お客様にメッセージをお願いいたします。
2014年に初めて水戸芸術館でおこなった音楽会は、今でも大切な思い出となっており、今回再び水戸に伺えることを嬉しく思っています。その後8年がたち、世界は随分と変わりましたね。そして私の妻・康子との連弾もとても楽しみです。


宇山=ブヴァール康子

初来日から40年以上たちますが、家族に会いに、よく来日しています。今回はセザール・フランクを中心に、魅力的でオリジナリティのあるプログラムをデザインしました。ぜひ音楽を愛する多くの方々にお越しいただき、一緒に「音楽を共有する」ひとときを過ごしていただきたいです。私は心から日本が大好きなので、皆さんのために演奏できるのが本当に光栄で、嬉しく思っています!
 
2022年9月6日
聞き手:高巣真樹
協力:日本アーティスト


◆ミシェル・ブヴァール Michel Bouvard/ PROFILE
1958年リヨン生まれ。ヴィエルヌに師事したオルガニストで作曲家のジャン・ブヴァールを祖父にもち、幼少の頃より音楽に才能を示す。パリのオルセー音楽院にてオルガンを、パリ国立高等音楽院にて作曲を学ぶ。1983年、トゥールーズ国際オルガンコンクールで優勝。フランス・オルガン界の巨匠の一人として、現在に至るまでに25か国以上で1,000回を超えるコンサートを行っている。最近ではクープランのオルガン作品の録音が再リリースされ、音楽雑誌『ディアパゾン』が「なくてはならない録音コレクションの一つ」と称した。1995年パリ国立高等音楽院のオルガン教授に就任、2021年のシーズンまで後進の指導にあたる。1996年トゥールーズのサン・セルナン・バジリカ大聖堂の歴史的なカヴァイエ=コル・オルガンの正オルガニストに任命され、2010年からはヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂の4名の首席オルガニストの一人として名誉ある職務を任されている。

 



ミシェル・ブヴァール オルガン・リサイタル
11/13[日]19:00
会場:水戸芸術館エントランスホール

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