チケット

【重要なお知らせ】

  • コラム
  • 音楽
  • 公演

2022-10-28 更新

【茨城新聞・ATM便り】10月27日付の記事を掲載しました~店村眞積 ヴィオラ・リサイタル~

茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。10月27日掲載の記事を転載します。今回は11月12日に開催する店村眞積 ヴィオラ・リサイタルに関する記事です。


音色で芸術の秋堪能


店村眞積さん  © MeisterMusic, 米田泰久

日本を代表するヴィオラ奏者であり、水戸室内管弦楽団のメンバーでもある店村眞積さんが11月12日にリサイタルを開きます。人の声のような落ち着きとあたたかさに、独特の渋みを加えたヴィオラの響きは、樹木が色づき、そこはかとない愁いを帯びる秋の季節にぴったりです。

室内楽やオーケストラにおいて、中音域を担当するヴィオラは、あまり表立っては聴こえてきません。しかし、店村さんは「高音域のヴァイオリンと低音域のチェロの両方をコントロールしているのは、実はヴィオラであり、その独特の音色が魅力」と語ります。

音域的にはヴァイオリンから五度低いヴィオラ。音響学的にはヴァイオリンの1.5倍程度の大きさの楽器が適当であるとの意見もありますが、そうすると手で抱えきれないほどの大きさになってしまいます。ヴィオラのサイズはまちまちですが、よく見るのは胴の長さが40cmあまりで、ヴァイオリンより5cm長い程度。つまり、演奏の困難さを解決するため、試行錯誤の末にたどり着いたサイズとも言えるのです。

一方で、明るく輝かしいヴァイオリンとは異なる、やや暗い、いぶし銀の音色は、このサイズ故にもたらされたとも考えられます。店村さんのような一流演奏家は、ヴィオラ独特の音色を十分に発揮しながら、ヴァイオリンやチェロとアンサンブルを行い、音楽づくりにおけるまさに中軸を担うのです。

「弦楽器は音色だ」と語る店村さんは、楽器にも強いこだわりを持っています。使用楽器は、1723年製のアレッサンドロ・ガリアーノ(ストラディヴァリの工房で学んだイタリア・ナポリの名匠)。身体に豊かに響いてくる楽器で、30年ほど弾き込んでいるそうです。また、演奏家自らが手がけることは滅多にない弓の毛替えも、自身が行うというこだわりよう。上質な馬の尻尾の毛を一本一本選び抜いて張り終えた時、「これは絶対にいい音が出る」と確信するそうです。

リサイタルでは、ヴィオラの響きを愛したことでも知られるドイツ・ロマン派の作曲家ブラームスの作品が演奏されます。店村さんのヴィオラでブラームスとは、まさに芸術の秋を堪能できるプログラムと申せましょう。
 
水戸芸術館音楽部門主任学芸員・関根哲也