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2024-10-12 更新
【茨城新聞・ATM便り】10月10日付の記事を掲載しました~水戸室内管弦楽団 第114回定期演奏会~
茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。10月10日掲載の記事を転載します。今回は10月26・27日に開催する水戸室内管弦楽団 第114回定期演奏会(指揮・チェロ独奏:マリオ・ブルネロ)に関する記事です。演奏会はまだ残席ございます。皆様のご来場をお待ちしております。
マリオ・ブルネロ ©Giulio Favotto
本来の音、歌わせる
富士山にチェロを持って登り、山頂で演奏したという驚きのチェロ奏者。それが、今回の水戸室内管弦楽団の定期演奏会で指揮とチェロ独奏を務めるマリオ・ブルネロさんです。彼はこれを「チェロ・トレッキング」と呼び、愛用するチェロを携えて世界の山や砂漠を訪れ、野外で演奏することを好んでいます。しかし普通、このような行為はとても考えられないことです。
弦楽器は木製なので、湿度や温度などの影響を受けやすく、しかもブルネロさんの愛器は、17世紀初頭に作られたヴィンテージ楽器。一般的に屋外での演奏には用いません。それに、チェロは楽器とケースを合わせると約3キロの重さになります。想像してみてください、楽器を背負って山を登り、演奏する大変さを……。しかし、その苦難を乗り越えた先に音楽の新境地を見出せる、と彼は考えているのです。
「音響のあるコンサートホールでは、音は一方向に行って戻ってくるが、山は残響もなく、ただどこかへ消失する」
とブルネロさんは語っています(『音楽の友』2009年1月号)。残響がない環境で楽器の純粋な音に耳を澄ませ、自分本来の音を見つけ、楽器を歌わせる努力をする。そのような鍛錬は彼にとって音楽が生まれてくる源に遡ることでもあると言えます。
「偉大な作曲家は音楽を素晴らしい音響のコンサートホールで聴くことを好むと想像するけれど、音楽が彼らのマインドにあったときは異なる響きだった。頭のなかで、音楽について考えるとき、そこにはアコースティック〔音響〕はない。ただサウンド〔音〕があるだけだよね」
作曲家の心の中にあった音に立ち返り、それを自分のチェロにどのように歌わせるのか。ブルネロさんの闊達で独特な音楽性は、珍しい趣味であり、練習法でもあるチェロ・トレッキングによってさらなる深みを増してきたのでしょう。
マリオ・ブルネロさんの想いのこもった音を、水戸室内管弦楽団第114回定期演奏会でぜひ聴いてみませんか。
水戸芸術館音楽部門学芸員・根本彩生