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2025-10-12 更新

【茨城新聞・ATM便り】10月12日付の記事を掲載しました~緻密に磨かれた独奏~

茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。10月12日掲載の記事を転載します。
今回は、11月1日(土)、2日(日)に開催する「水戸室内管弦楽団 第116回定期演奏会」に関する記事です。

演奏会は、11月1日(土)、2日(日)、両日とも15時開演。
ピアノ独奏にルドルフ・ブッフビンダーさんをお迎えいたします。
チケットは、全席指定 S席11,000円、A席8,500円、B席6,500円。
演奏会の残席は僅かとなりました。
皆さまのご来場をお待ちしております。


 

緻密に磨かれた独奏

 「確証バイアス」をご存知でしょうか。認知心理学や社会心理学の用語です。これによると人間の“認知”というのは、自分のもつ信念や予想を判断する際に、それらにそぐわない情報を無視・軽視する一方で、都合のよい情報を注視・重視するよう、偏りがちなのだそうです。血液型と性格に因果関係を見いだしたり、特定のブランドを過大評価したり、あるいは雨男・晴女といった話題など……日常生活のさまざまなシーンで見られます。
多くの場合、確証バイアスは「注意すべきもの」として論じられますが、悪いことばかりではありません。正しいか否かは別にして、「こうすればうまくいくはずだ」と自分の信念を貫こうとする感情が芽生え、自己肯定感が高まって仕事に自信を持って取り組めたり、成功への道筋を描いて行動に移しやすくなったりするそうです。
 音楽の世界、とりわけ作曲家に対するイメージにも、確証バイアスが潜んでいるかもしれません。たとえば「モーツァルトが作った曲」と聞いて、どんな音楽を想像しますか。明るくて楽しい、キラキラと輝くよう、自由奔放で気分屋――人それぞれのイメージがあると思いますが、よく耳にするのはこうしたイメージです。同様に、「ベートーヴェンが作った曲」はどうでしょうか。たくましい生命力、筋肉質で強靭、勝利へ向けた激情――ひょっとしたらこれらのイメージは、(自分が)明るい気分になりたいときはモーツァルトの曲、(自分が)元気づけてほしいときはベートーヴェンの曲を聴きたい、という無意識下の欲求や予想の裏返しだったりして……。一方で、イメージを突き崩すような意外な一面が垣間見える作品にも目を向けてみると、新しい発見があるかもしれません。



 
 ぜひ、11月1日・2日に行われる水戸室内管弦楽団第116回演奏会で、そんな大作曲家たちの“意外な一面”に触れてみませんか。短調の暗い響きのなかで悲しみに暮れて疾走するかのようなモーツァルトの〈ピアノ協奏曲第20番〉と、どこまでも穏やかに凪ぐ草原に佇むかのようなベートーヴェンの〈ピアノ協奏曲第4番〉の両名曲を、巨匠ルドルフ・ブッフビンダー氏の緻密に磨き抜かれたピアノ独奏とともに、一挙にお届けします。今まで想像し得なかったような斬新な響きに出会えるかもしれませんし、あるいはイメージどおりの調べの中にも、別な角度からの気付きを得られるかもしれません。どうぞお聴き逃しなく。

 
水戸芸術館音楽部門学芸員・角増 柊