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2013-01-13 更新

【新楽団員を訪ねて】宮田大さん(チェロ)

昨年、水戸室内管弦楽団(MCO)に加わってくださった新しい楽団員をご紹介している「新楽団員を訪ねて」。第4回は、現在ソリストとして国内外で大変活躍されているチェリスト、宮田大さん(1986年生まれ)のインタビューをお届けします!

ハイドンのチェロ協奏曲でソリストを務めた2012年1月・第83回定期演奏会の時の、マエストロ小澤征爾からの教え、MCOならではの音楽作りの魅力、今後の活動の抱負など、すてきなお話を伺いました。どうぞお読みください!


―昨年4月から、宮田さんを新しく楽団員としてお迎えでき、とても嬉しく思っております。MCOの印象はいかがですか?

これまではソロ活動ばかりでしたので、そういう自分がいきなりオーケストラに入って大丈夫かなと思いましたし、世界的に有名な方々の中で演奏するのはとても緊張します。でもだんだん雰囲気が分かってきて、いつもお会いできない方ともコミュニケーションを取れるので、緊張というよりは音楽仲間という感じになりますね。それにチェロセクションはとても穏やかで、仲間みたいな雰囲気が感じられます。

―そのようなメンバーとのオーケストラ活動は、宮田さんにとってどのようなご経験となっていますか?

小さな編成の室内楽はよくやっていますが、ここではもっとたくさんの音を聞かなければいけませんし、また低音楽器として、どう音を運べば相手が弾きやすいかと考えたり、いろいろなことを一気に勉強できる場所です。オーケストラをバックにソロで演奏する時も、アンサンブルが重要だと思うので、その延長線上にあるという意味でとても勉強になっています。

―昨年1月の第83回定期演奏会ではハイドンのチェロ協奏曲でソロを演奏してくださいました。その時小澤征爾さんが様々なアドバイスをしてくださったそうですね。

はい。小澤さんは「もっと自由に」とおっしゃっていました。自分も普段から、音楽を作るのではなく、自由に感じるよう心がけていたのですが、「音楽を感じよう」とすることが、逆に音楽を「作る」方向になっていたこともありました。でも小澤さんがおっしゃっていたのは「今まで練習したことが弾ければ満足というのではなく、それがあるからこそもっと自由なことができるし、ボキャブラリーも増える」ということ。3歳でチェロを始めてから26歳までの間に積み重ねてきたことをまずは信じて、あとは殻を破るだけ。もっともっと自由にやっていいのだと感じました。

やはり日本人はどうしてもシャイだったりするので、学ぼうという気持ちももちろん必要ですが、まずは自分が今持っている能力を最大限に生かす。その上で足りないことをつけ足したりして、信じることが伸びるポイントかなと思いました。

水戸でのリハーサルが始まった時は、「崖から落ちるくらいの演奏をしよう」と思っていたのですが、やろうとすることだけで満足していたというか、それが逆に挑戦になっていないという感じでした。でも小澤さんのアドバイスを受けたことによって、そんなこと考えずにうわっと思いきりやってみると、崖から落ちて、ここまではやってはいけないんだとか、これくらい幅がある、などわかったのです。

―宮田さんにとって、この楽団の魅力はどのようなところにあるとお思いでしょうか?

水戸には、仕事をしに来ているという気持ちよりも、音楽作りを楽しみに来ているつもりですが、特に毎日長いこと練習し、それを煮詰め、熟成させて演奏会にのぞめるのが水戸の良さだと思います。日によって音楽の感じ方が違うので、みんなが自由に演奏し、思いきり弾き合って、何度も新しく音楽を思い直せるのは、リハーサルがたくさんできるからこそ。合わない部分を発見した時も、「やはり合わない」と殻にこもるのではなく、「やりたいことがたくさんあるから、みんなで一緒にまとめよう」と話し合う時間もあります。一方、他のオーケストラなどでは、まず後ろの方に座っている人はあまり飛び出ないように弾いているという感じが多いです。それに練習では1曲に1~2時間しか割けないこともあり、そうすると当たり外れのないよう、合わないところはマイナスして仕上げるのです。MCOは、そうしたところも全部プラスにかえて完成させていく楽団だと思います。

指揮者も楽しいと思いますよ! 演奏会に向けて自分の想いをじっくり伝えて作りあげられるので。普通は、例えばそのオケが何回もやっている曲だと、そのオケ流の演奏が固まりすぎていて、指揮者が新しいことをやろうとしてもなかなか受け入れられなかったり、伝える時間もないかもしれない。ここはもう、今回(第85回定期演奏会)であれば「彼(ハインツ・ホリガー)とMCOメンバーのハイドンやバルトーク」になる。オリジナリティがあってとてもいいと思います。

―宮田さんは3歳からチェロを始められ、2009年にはロストロポーヴィチ国際チェロコンクールでも日本人初の優勝という快挙を成し遂げられましたが、子どもの頃はどのような生活を送っていらっしゃったのですか?

実はずっとスポーツも好きだったので、中学校ではバレーボールをやっていました。自分は、例えばハインツ・ホリガーさんみたいに音楽にどっぷりつかっている方と比べると、あまり音楽にどっぷりつかっていない方かと思う面もあります。だからたまにホリガーさんみたいな方に会うと、どっと疲れますが(笑)、自分にないものを持っているからとても勉強になっていますし、たくさんのことを吸収できます。

―学生時代はどんな音楽がお好きでしたか?

クラシックだとロシアものが好きだったり、タンゴやジャズも好きです。あとは中学生の頃だとカラオケに行き始めたりする時期なので、Jポップなどいろんなジャンルを聴いたりしました。普通と変わらないのではないかと思います。例えば大工さんも特殊な技術を持っていますよね。自分もたぶんそれと同じイメージです。音楽にどっぷりつかっている時とそうでない時をふり分けているので。おさまりすぎず、でも遠目から、こういうことを勉強しなければと、音楽のことを見つめたりしています。オンとオフの切り替えも大切ですよね。

―普段はソリストとして国内外でご活躍されていますが、休みの日はどのようにお過ごしですか?

旅行が好きで、演奏会前は必ず旅行でリフレッシュしています。演奏会前に、あまり弾かないようにするためにも。気になって弾きすぎることもあるのですが、考えすぎると良くないこともたくさんあると思うので。あとはスキューバダイビングのライセンスを持っているので、サイパンや伊豆、沖縄などへダイビングに行ったりもします。

―現在はドイツのフランクフルト近郊にあるクロンベルク・アカデミーで勉強されていますよね。

はい。今は、日本で演奏会がある時は帰って来て、向こうでレッスンがある時は向こうに行くという生活をしています。学校といっても授業というものはなく、レッスンだけがあるので、先生が学校に来る日にあわせて行っていて、来年まで在籍する予定です。自分はチェロのフランス・ヘルメルソン先生に師事しています。他にも、ヴァイオリンはアナ・チュマチェンコやクリスティアン・テツラフ、ギドン・クレーメル、ヴィオラは今井信子先生、ピアノはアンドラーシュ・シフなど、いろいろな先生が来ています。また別の楽器の先生に教わるクラスもあります。

―そうそうたる先生方ですが、これまで特に印象的だった先生についてお話いただけますか?

ピアノのアンドラーシュ・シフ先生と、シューマンの〈幻想小曲集〉を一緒に弾いたことがあるのですが、まず彼のオーラがすごくて、こんな感じなのかと思いました。それに、ピアノがうまい人って左手の演奏がとてもうまいのだと思いました。チェロも低音、バスラインで音楽を作っていたりするので、こう弾くと相手が弾きやすいかな、オケではこう弾けばヴァイオリンの人が弾きやすいかな、と色々発見できました。ピアノの人って、メロディを出そうとするあまり左手が遅れて弾く人が多い気がするのですが、シフ先生は低音で音楽を作っていたので、弾きやすいと思いました。

―ヨーロッパ生活の中で他にも得られたことなどありましたらお聞かせいただけますか?

今師事しているヘルメルソン先生には、「常に違った音色やフィーリングで弾きなさい」とよく言われます。レッスンでも、ある楽章を続けて4回くらい弾かされ、それで「今、違ったフィーリングで弾こうとしたでしょう。それが音楽を勉強する上で一番必要だよ」と。ある箇所が弾けるようになるのはゴールではなく、その上でいろいろなフィーリングを感じた通りに表す練習を心がけなければいけない、と気付きました。向こうに滞在していると、よりフレキシブルに物事が感じられる気がします。日本では、ゼロか百かみたいに考えていたことが、50%くらいで考えていると、逆にいつかは100%超えているということがたくさんあります。

あと実は、あまり外国が好きではありません。旅行であればいいのですが、言葉があやふやだったり、ストレスもあったりするので早く帰ってくることもあります。そんな自分にとっては、ホームステイ先の人と夜一緒に食事するだけでも刺激があります。色々話していると、日本語にない発音だなと思ったりします。ハインツ・ホリガーさんもそうですが、彼が曲を歌う時、ドゥーンとかヤン、パン、タンとか、音をあらわす言葉が豊かです。自分もレッスンで「あるフレーズを歌ってみた時に、表せる言葉の数が、自分が持っている音色の数だよ」と言われたことがあります。そう言われて、「自分はこう歌いたいのに、なぜそうやって弾いていないのだろう」と思い直すことが多いですね。例えば日本だと、タンとかラーとかだけだったりしますが、ヤン・パン・パン、ティーランなど色々な表現があるのです。海外に住んでいろんな言葉を聞いていると、そういうボキャブラリーが増えるように思います。

―これからはチェリストとして、宮田さんはどのような活動をしていきたいとお考えですか?

たぶん30歳を超える頃になると、後輩にいろいろなことを譲って、教えてあげたりする年頃だと思います。自分はどちらかと言えばフィーリングで弾くタイプなので、自分の感じたことをどう言葉に表すかを意識してやっていきたいです。周りに素晴らしい先生方がいると、「こういう教え方をすればもっと全部が良くなるんだ」とか、本当に勉強になります。例えば「ミステリオーソな感じで」と言われても、人によって感じ方は違うし、「ここは小さく」と注意すると、小さく弾くことばかり意識させてしまい、本当に求められている音とは違ってしまうこともある。「内に秘めて」など、固定しないような言い方を選べば、他のことにも連鎖してうまくいくのだな、とか様々なことを感じます。

MCOのチェロセクションの先生方には、水戸の演奏会の時も色々と教えてもらっていますし、原田禎夫先生には、若い人のための「サイトウ・キネン室内楽勉強会」ではカルテットを教えて頂いたりしました。自分と違う演奏スタイルなので、水戸に行くたびに良い経験をさせてもらっています。一音出すだけでも「こう弾きたいんだね」と相手に伝わるような音を出されます。やはりチェロの先生っていいなと思いますね。

ヘルメルソン先生には、「演奏で失敗した時も、今の自分の音楽の一つとして演奏しなさい」と言われ、気が楽になりました。失敗しても音楽は続きますし、お客様もそこを楽しみにしているわけではありませんから。お二人を見ていると「なぜ出来ないの?」とは言葉にも雰囲気にも出さない気がします。それが分からないから生徒は教えてもらうのだし、それを分かるように相手に伝えるということが本当にうまい方たちだと思います。教えるのは、自分にも良い勉強になると思いますが、まだ自分が吸収する勉強も必要なので、両方やっていきたいです。

―教えるお仕事へのご興味は、素晴らしい先生方との出会いによるところが大きいのですね。最後に、MCOでは今後、どのような想いで活動していきたいとお考えでしょうか?

時間が許す限りは参加して、まだまだいろんなことを勉強したいです。自分が年を重ねてくると、どうしてもまわりの人が言わなくなってしまう気がするんです。だから「まだ若いね」と言われる年齢でたくさん参加すれば、色々なことを吸収できると思います。

2012年10月18日
聞き手:高巣真樹(水戸芸術館音楽部門)