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  • 音楽

2017-04-08 更新

ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ) いよいよ明日

明日、4月9日に開催いたします「ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ) ~母の祈りの子守歌~」、プログラムができあがりました!

曲目解説と歌詞対訳を掲載しています。今回歌われる外国語の歌曲のほとんどは、小林沙羅さんご自身が歌詞を訳されています。水戸芸術館でのこのコンサートのために新たに訳してくださった曲もあります!

「ちょっとお昼にクラシック」シリーズのプログラムはいつも色付きの紙を使っていまして、B4を三つ折りにしたサイズで作っていますが、今回は歌詞対訳を掲載するため、B5サイズの冊子です(B4 二つ折りですね)。色はチラシに合わせて桜色。今の季節にもぴったりです。
桜色を下地にして、表紙も中のページも、印刷でうすく濃淡をつけて質感を出しています。
「ちょっとお昼にクラシック」シリーズのチラシやプログラムで毎回、コンサートの内容や企画意図を踏まえて考え抜いたデザインを提案してくださるデザイナーのKさん、今回も凝った冊子を作ってくださいました。

桜といえば、水戸は桜まつりの最中。年度の変わり目の慌ただしい時期でもありますが、明日はゆっくり桜を眺めて、コンサートの間はリラックスした時間をお過ごしいただけたらと思います。
コンサートの当日券はご用意できます。1500円で1ドリンク付きのお得なチケットです!
終演後には出演者によるサイン会も予定していますので、そちらもお楽しみに!


コンサートに先がけて曲目解説をアップしてみます。「あの曲はどんな曲?」という作品があれば、ご参考までに。読みながらコンサートを楽しみにお待ちいただけましたら幸いです!

中村裕美:子守唄よ

作曲者の中村裕美は小林沙羅の学生時代からの友人で、ともに詩と音楽のコラボレーション集団「VOICE SPACE」(東京藝術大学現代詩研究会)のメンバーとして活動していました。〈子守唄よ〉は、組曲《中原中也の詩と音世界》の1曲として2007年(中原中也生誕100年)のVOICE SPACE公演において初演されました。詩は中原中也の1937年の作で、長男を2歳で亡くした虚無感が聴く者に届かずに消えてゆく子守歌に託して詠まれています。

ヴァヴィロフ:カッチーニのアヴェ・マリア

聖母を讃えて、ひたすらに「アヴェ・マリア」と唱え続ける詩。カウンター・テナー歌手スラヴァが歌って一躍有名になったこの曲は、16世紀イタリアの作曲家ジューリオ・カッチーニの作として紹介されてきましたが、現在ではロシアのギター奏者ウラディーミル・ヴァヴィロフ(1925~1973)が作曲したことが明らかになっています。たしかに音楽はカッチーニの様式ではなく、「アヴェ・マリア」としか唱えない詩も16世紀の祈祷の慣習に当てはまりません。しかし真の作曲者が誰であろうと、切々とした祈りを感じさせるその旋律は、多くの人の胸を打ちます。

ロイド・ウェバー:ピエ・イエズ

《キャッツ》、《オペラ座の怪人》などのヒット・ミュージカルの音楽で有名なイギリスの作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー(1948~ )による《レクイエム》(1984)のなかの1曲。作曲者の父の死と、作曲者と交流のあったジャーナリストの死を悼むと同時に、当時カンボジアで起きた児童虐待のニュースにショックを受けて作曲されました。〈ピエ・イエズ〉はもともとソプラノとボーイ・ソプラノの二重唱で書かれており、カンボジアの事件の犠牲者への哀悼の念が表されています。

レーガー:マリアの子守歌 作品76の52

ブラームスの流れを汲むドイツ後期ロマン派の作曲家マックス・レーガー(1873~1916)は、大規模な管弦楽作品やオルガンの音楽で有名ですが、声楽の分野にも熱心に取り組み、300曲以上の歌曲を残しています。全60曲という大部な作品集である《素朴な歌》は1903年から10年をかけて書き続けた代表作。その52曲目の〈マリアの子守歌〉は古い民謡にもとづき、合唱にも編曲されて親しまれています。

草川 信:揺籃のうた

〈夕焼け小焼け〉、〈汽車ぽっぽ〉、〈どこかで春が〉など多くの童謡を残した草川信(1893~1948)が作曲した子守歌(1921)。短い曲ではあるものの、草川は印象的に繰り返される「ねんねこ、ねんねこ……」の旋律を、納得がゆくまで何度も書き直したと伝えられています。大正時代には『赤い鳥』などの児童雑誌に取り上げられ、戦後はNHK「みんなのうた」で放送されて広く親しまれています。

シューベルト:子守歌 作品98の2、D498

フランツ・シューベルト(1797~1828)の1816年の作品。優しい旋律と2つの和音のシンプルな反復が眠りを誘うようです。詩はシューベルトの代表的歌曲のひとつ〈死と乙女〉の作詩者であるマティアス・クラウディウスの作とする説がありますが、正確には分かっていません。日本では、『星の王子さま』の翻訳で知られる内藤濯による「眠れ眠れ母の胸に」の訳詞でも歌われています。

シューベルト:アヴェ・マリア(エレンの歌 第3番) 作品52の6、D839

スコットランドの小説家ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人』に含まれる詩のドイツ語訳に作曲された、シューベルトの歌曲のなかでも特に有名な1曲(1825)。スコットランドの湖を舞台に、乙女エレンをめぐる恋と戦いを描いた『湖上の美人』は、当時人気の文学作品で、シューベルトはこの物語をもとに7曲からなる独唱と合唱の作品集を作っています。〈アヴェ・マリア〉と呼び習わされている〈エレンの歌 第3番〉はこの作品集の6曲目で、エレンが湖畔の岩に立つ聖母マリアの像に、父親の罪が許されるようにと祈る場面にあたります。

池辺晋一郎:歌

小林沙羅の委嘱による池辺晋一郎の新作で、今年3月23日に初演されました。詩は、詩人の谷川俊太郎と絵本作家の塚本やすしが共作した同名の絵本からとられ、母親の胎内にいる赤ちゃんの話から始まります。「谷川さんの〔詩の〕自然体に、ごく当たり前に寄り添う気持ちで、この1月~2月初めに作曲した。それは沙羅さんの自然体へ、さらに聴いてくださる方々の自然体へ、つながっていくだろう。」(池辺晋一郎による解説より)

サン=サーンス:白鳥

カミーユ・サン=サーンス(1835~1921)の組曲《動物の謝肉祭》(1886)に含まれるチェロ曲。サン=サーンスは謝肉祭を友人たちと楽しく過ごすために、ユーモアや風刺をたっぷり効かせて《動物の謝肉祭》を作曲しましたが、あまりに羽目を外しすぎたと考えたのか、作曲者の生前にはこの作品は秘密にされていました。組曲中で唯一、楽譜出版が許可されたのがこの〈白鳥〉で、優美な旋律は古今のチェリストに愛奏されています。

プレヴィン:ヴォカリーズ

ヴォカリーズとは歌詞やドレミではなく母音で歌う唱法を指し、そこから歌詞のない母音唱法の歌曲を意味するようになりました。今回歌われる〈ヴォカリーズ〉は、世界的指揮者で、ピアニスト、作曲家としても活躍しているアンドレ・プレヴィン(1929~ )の作品。1995年に作曲され、同年、シルヴィア・マクネアーのソプラノ、ヨーヨー・マのチェロ、作曲者自身のピアノにより初演、録音されました。人間の声に近い音調と言われるチェロとやわらかな母音唱法のソプラノとが美しく溶け合い、静かな余韻を残します。

ヴィアルド:星

ポリーヌ・ヴィアルド(1821~1910)は、ベルリオーズやショパン、サン=サーンス等の大作曲家に絶賛されたフランスのメゾソプラノ歌手。歌曲を中心に作曲家としても活動しました。ロシアの文豪イワン・ツルゲーネフはすでに夫も子もいたヴィアルドに惚れ込んで、執事のようにパリのヴィアルド家に住み込み、ヴィアルドはツルゲーネフを通じてロシア語やロシア文学に接しています。歌曲〈星〉もロシアの詩人アファナーシー・フェートの詩に作曲された歌とチェロとピアノのための作品。地上を照らす星の光が母親の優しいまなざしのようにも感じられる安らかな音楽です。

水戸芸術館音楽部門 篠田大基