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    2017-06-26 更新

    新作短編小説『大群青の夢 その一 梅の香』(岡部えつ作)掲載!

    水戸芸術館史上最大の「カオス」な祭りになることが予想される、7/22のスガダイロー・プロジェクトvol.3「大群青」。多彩なジャンルからの表現者が一堂に会することで熱い注目を集めていますが、さらにこの度、「小説」の世界と手を組んでの新たな実験をはじめます。

    協力してくださったのは小説家の岡部えつさん。『枯骨の恋』(『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞)や『残花繚乱』『フリー!』『生き直し』など著書数多く、スガダイローや大群青の音楽をこよなく愛する岡部さんが、この公演に向けて特別に、「大群青」に着想を得た3つの短編小説『大群青の夢』を書きおろしてくださるのです!

    まずはその一「梅の香」をお届けします。スガダイローを魅了してやまない幕末の水戸藩浪士で、新撰組の初代筆頭局長を務めた謎多き人物・芹沢鴨と、その愛妾・お梅の物語です。
    第二・第三篇も今後月曜夜に掲載しますので、どうぞご期待ください。


    大群青の夢

    その一/梅の香

    作・岡部えつ

      名は群青と申します。しがない飯盛女です。宿場巡って幾年月、体ひとつの商いに、通じた男は星の数。されど心に残るのは、女ばかりでございます。
      可愛い女がおりました。哀しい女もおりました。妬み女の歯軋りに、狡い女が唾を吐き、病んだ女が笑う夜、寂しい女が死にました。
      死んだ女の哀しみは、わたしの口を借りに来る。生きている間はじっと堪え、胸に閉じ込めぐらぐらと、煮え滾らせた恨みごと、あの世へ持っては行かれない。成仏したさに白い手を、合わせてわたしに乗り移る。

     今宵来たるは夏の日に、無惨に死んだ女です。時は文久三年の、のちに呼ばれる幕末期。不穏、物騒、険悪が、三つ巴する乱世の世。
      お梅と呼ばれたその女、梅の花なぞ似合わない。血飛沫吐くよな文様で、乱れ咲きたるヤマユリの、紅筋見たよな女です。
      元は芸妓の売れっ子で、引く手数多の色女。今は呉服屋お大尽、旦那に落籍され安泰の、囲われの身の退屈に、こっそり抜け出た京の街、流し目送れば荒くれの、浪人崩れが惑い落つ。
      脂ぎらつく下卑た顔、光る禿頭太鼓腹、その懐に銭がなきゃ、微笑みかけるも口惜しい。そんな旦那に飽き飽きの、お梅の前に現れた、素寒貧の田舎者。持つのは刀と野心だけ、共にギラギラ光らせて、世を睥睨して唾を吐く。品はなくてもその頬に、浮かぶ皮肉は色っぽい。

      水戸の男と言いました。どんな村だか知りません。天下国家をどうするの、大言しては狼藉の、限りを尽くす一党で、長を勤めておりました。
      何かと威張る男です。何かと怒る男です。何かと殴る男です。その実よく泣く男です。酒に酔わねば強がれぬ、弱虫毛虫の男です。そこがたまらず可愛くて、お梅は男に惚れました。
      島原一のさえずりと、呼ばれたお梅の歌声は、苛立ち溜まった荒くれの、花街で腐った心根に、山紫水明染み込ませ、生まれ育った故郷を、胸に抱かせて眠らせた。
      思えばお梅はこれまでに、恋というもの知りませぬ。惚れた腫れたはその先に、銭が見えねば始まらぬ。そんな身空のささくれを、男は温めてくれました。
      妾の身なれば許されぬ、されど本気の恋でした。逢えぬ気持ちが逢いたさに、拍車をかけてけしかける。逢えば互いに吸いついて、水を差しても離れない。
      一生一度これだけの、切なさくれた男なら、殺されたって構わない。褥で手足を絡ませて、お梅は何度も言いました。そのたび男は遠い目で、お梅に見えぬ闇の先、何かを睨んでおりました。
      忍ぶ恋ほど匂い立つ。噂は旦那に届きます。男の仲間に届きます。二人の他に誰もかも、褒めちゃくれない逢い引きです。
      何をどうすりゃいいのやら、手立ては思いつきません。考えるだけ馬鹿を見る。お梅は頭を空にして、酔って暴れる恋人を、しっかと抱いて撫でさすり、慰め愛し眠ります。

      ぼんぼり灯る京の街。白粉くさい石畳。息を殺して忍び寄る、野犬のような男ども。
      がらりと開ければ鼻をつく、部屋に籠った女の香。妖魔とばかりに斬りかかり、八つに裂いて首落とす。はだけた衿から零れ出た、白い乳房も血に染まる。
      男が最後に聴いたのは、お梅が歌う恋の唄。せめて一緒に逝きたいと、野犬が貪る肉片に、伸ばした腕の先がない。そこで命は尽きました。
      そのときお梅の体から、八つ裂きの血の間から、真っ赤に灼けた魂が、燃え盛りつつ浮きました。
      『何が時勢の切迫だ。乱世などとはしゃらくさい。血の気の多い男らが、引っ掻き回した世の中だ!
      訳知り顔で腕を組み、天下国家と泡飛ばし、刀抜いても抜かいでも、女の不幸は変わらない。
      この地にどくどく染み込んだ、女の血潮が川となり、やがて大きな海になる。真っ赤な海に覆われた、その世をわたしは見てみたい!』

      この身の中で憤怒する、お梅の燃える魂を、今宵鎮めてくれるのは、江戸の外れで集めたる、音曲師たちと聞きました。哀れな女の魂を、怒れる女の魂を、迷える女の魂を、鎮める術を持っている、音曲師たちと聞きました。
      これでわたしは黙りましょう。両の瞼も瞑りましょう。

      あとは、よしなに。

    (了)

    ◆PROFILE
    岡部えつ(小説家)
    2008年第三回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞。
    2009年短編集「枯骨の恋」で小説家デビュー。
    2015年、長編小説「残花繚乱」がTBSテレビにて「美しき罠〜残花繚乱〜」として連続ドラマ化される。
    怪談、恋愛、いじめ問題など、テーマは様々だが、一貫して“女”を描く。
    スガダイロー氏とは、自らが主催した朗読ユニット『業』にて共演。


    スガダイロー・プロジェクトvol.3「大群青」
    2017年7月22日[土]18:30開演
    水戸芸術館ACM劇場
    出演:
    スガダイロー(ピアノ)、Dr.Firebone(サクソフォン)、池澤龍作(ドラム)、吉田隆一(サクソフォン)、櫻井亜木子(薩摩琵琶)、福原千鶴(鼓)、星衞(チェロ、笛、電子獅子舞)、辻祐(太鼓)、佐藤史織(三味線)、ジュンマキ堂(チンドン)、ノイズ中村(マネージャー)、志人(詩人・作家・作詩家)、石川広行(トランペット)、納豆の妖精・ねば~る君、河内大和(役者)、早瀬マミ(女優)、荒悠平(ダンサー)、高橋保行(トロンボーン)ほか ゆかいな仲間たち

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