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2018-07-25 更新

水戸子どもミュージカルスクールレポート⑦

今年度で6期目を迎えた『水戸子どもミュージカルスクール』
井上芸術監督のスクールレポート7回目は、7月21日、22日、23日のレッスンの様子です。

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水戸市と近辺の小中学校は夏休みに入り、スクールも一学期最後のレッスンが三日連続で行われました。
この三日間は、盛りだくさんでした。
一日目はグループレッスンの仕上げとその発表、
二日目はいよいよ配役オーディション、
三日目にはレッスンをしたのちに配役の発表です。

◎一日目

グループレッスンの発表をする日です。
アイデアを出し合っているときの、一人一人の楽しそうで明るい表情が印象的でした。
アイデアを整理したり、段取りを確認したり、必要なものを用意したりと、チームの共同作業としても順調です。

<個性とグループ>

個性は基本一人一人にとっくに宿っているものです。一般に集団性に重きを置かれることが多い学校生活では、横並び意識が強くなって、その尖った部分が見えにくくなります。
演劇の現場では、もちろんチーム行動としての最低限のマナーやルールがありますが、そのとんがりをむしろ歓迎します。そして作品に何かしら役立つものであるなら、どんな立場のどんな意見もどんどん取り入れられます。初心者の意見だろうが、ベテランの意見だろうが関係ありません。作品が良くなるのなら、何でもありという太っ腹なところがあります。
グループレッスンのアイデア出しや練習でも、感じたり思ったりしたことが、そんな風に飛び交っているようです。
さて、それをうまくまとめて見せられるか、それは大きなハードルですが、もうひと踏ん張りです。

<いよいよグループ発表>

そして、いよいよグループレッスンの発表です。
今年の上演作品『ここは命の星』の歌を含む一シーンを自分たちなりに作ってみるというのが課題でした。
どのチームの発表も、チームのカラーが良く見え、またそれぞれの創意工夫が見えました。やるたびに、もっとこうしたら良いのでは、という改善点も見つかったようで、どんどん作業が積み重なっていったことも良くわかりました。

<初めての感動が毎回体験できる「芝居」の世界>

高城ヘッドコーチからのコメントは、先生のブログで確認していただきたいのですが、私が一つだけ言わせていただいたのが次のことです。
前へ進めようとするあまり、「初めて知った感動」を描いているシーンなのに、いつの間にか「慣れて当たり前のこと」になったことに気が付かなかったかな、ということです。
そうなんです、何度もやっているうちに、初めての感動が薄れてしまって、日常のよくある風景になってしまったのです。
『ロミオとジュリエット』で二人が初めて出会って一瞬にして恋に落ちるシーンなのに、練習をしていたらいつの間にか「恋に落ちることを知っている二人」が会ってしまったような・・。芝居の稽古だから起きてしまう典型的な現象ですが、「毎日、同じ人にドキッと一目惚れすることが出来る」職業が俳優さんですから、こうしたことも含めていろいろ学んでいってほしいなあと思います。

 

◎二日目

そして配役オーディションです。

学年ごとに一人一人、コーチ陣の前で一曲歌います。
わずか一分にも満たない時間ですが、この一瞬に向けてこの数週間、準備をしてくれました。
コーチの皆さんも、この時間だけでなく、そうした日ごろの積み重ねも感じ取ろうとものすごい集中力です。

<MSCの配役決めで大事にしていること>

一般に配役(キャスティング)は、その役が求めている人物像、また必要な技術があるかという視点で決められます。
作品の成果を主目標にした場合は、それが主眼となります。ここでの配役の考え方は、配役が決まってから公演まで半年近く時間があるので、メンバーその人がその役をやり遂げられるか、つまり役に相応しくなるような努力をし続けられるのか、という視点もあります。
ですから、普段はあまり積極的ではない行動をとりがちな人に、配役上では敢えて行動的な人物を会えてやってもらうということもあります。

「演じる」ということを、単に「誰かになりきる」と誤解されがちですが、自分と違う人物や人生を演じるので、徹底的にその人そのものを考えることから始まります。自分が普段なら決してしない選択をする人になるようなものですから、自分なりにその人を深く理解して、その人に近づいていくのです。ですから、「セリフをそれらしく言えばよい」程度では済まなくなっていくのです。

こうした作業を積み重ねて公演に臨むわけですが、役を通じて、いろんな人の人生や考え方にも触れていって欲しいと思っています。そしてその作品つくりにおいては、先にも書いた通り、作品を良くする意見ならどんどん取り入れられます。そんな稽古場で、どんな役だと実力をもっと発揮できるか、普段と違う魅力が見えるか、どんな挑戦をさせるとより輝くのか・・。
そんな環境を考え作るためのオーディションでもあるのです。

オーディションそのものは、悲喜こもごもでした。
というより、当事者にとっては、「思いがけないほどダメな自分との出会い」に近かったと思います。
あんなに準備したのに・・、普段ならしない失敗をしてしまった・・、頭が真っ白で覚えていない・・などなど。
きっと、こんなはずでは、という思いでいっぱいだったと思います。

みんなが大きな試練に大きな勇気を持って立ち向かい、頑張ったのは事実です。
自分が願う成果を出せなかったにせよ、そこに立ったということは大事なことです。
その悔しさがあればこその、次のステップがあります。
最後に私からこう言わせてもらいました。

「だからこそ、この瞬間ですら、君たちは大きくなっているし、賢くなっている。それぞれがどうすればよかったかという教訓と実感をすでに得ているのだから」。

 

◎そして三日目。

配役発表の前に、通常の最後のレッスンが行われました。

私自身もとても楽しませたもらったものが、増山歌唱コーチの「自分が金管楽器になったつもりで」という一言から始まったレッスンです。そしてその曲を歌詞ではなく、トランペットの音色で歌ってくれました。「この曲、こういうイメージでしょ」と。とたんに、メンバーの声のガラッと変わりました。遠くへ、はっきり飛んでいく! 曲がもっているダイナミックさもぐんと増しました。

「でも気を付けて、ラッパだから息をいっぱい出しちゃって、後半で息が足りなくなるから、ここはこうセーブして、最後にこう盛り上げて~」。

なるほどです。目から鱗が落ちる思いでした。「俺もやりたいっ」と思って、陰でこっそり一緒に歌ってみました。残念ながら、メンバーたちのようにはいきません、基礎もなにもありませんからね。二か月とはいえ、ずっとやってきたメンバーの積み重ねをこんな形で実感したのでした(笑)。

<いよいよ配役発表>

そして配役発表。
作品にもメンバーにも、良い配役になっていると思います。
思いがけない役をもらってびっくりしたり、悲しかったり、色々な反応がありますが、公演までその役と生きていってほしいと思います。

今日は、スクールの卒業生たちも見学に来てくれました。
その中の一人がこう言ってくれました。「どの役も大事です。どの一人が欠けても作品が成立しない。だから、どの役も頑張ってください」と。
また「夏休み、楽しいけど、セリフ覚えたり、歌を頑張るのも忘れないで。とても大事な時間だよ」とも。
私たちが言うより、沁みこんでいったようです。先輩たち、ありがとう!

夏休み中、セリフや歌も頑張ってくれると思いますが、私からも一つお願い。
レッスン最初にやっているストレッチ、是非毎日やってください。準備運動というだけではなく、だんだん体が変わっていきます。
舞台俳優さんは、スポーツ選手と変わりません。日ごろから自分の体をいたわりつつ、どんな状態かも感じられるようになって下さい。

では9月またスクールで会いましょう。

【記:井上桂(ACM劇場芸術監督)】

 

高城ヘッドコーチのコメント

スクールが始まって2ヶ月が過ぎました。

この2ヶ月間で基礎練習やグループ練習をしながら、配役のオーディションも配役発表まであり、受講生のみなさんにとっても慌ただしかったかもしれないなぁ?と、今、振り返っています。

大人になっても、私はいつもこんな調子で反省ばっかりです。でもこの反省が自分を磨いてくれていると思っています。失敗とか、嫌だなぁと思うことは、自分次第でとても素敵なものに変わります。

ミュージカルスクールの日々は楽しいばかりではないです。きっと9月からは「大変だ!」とか「先生怖い!」とか「もうイヤ!」と感じることも増えるでしょう。

でも、それを素敵なものに変える魔法は受講生ひとりひとりがもう持っているんです。

私はそのみんなの持つ魔法のチカラを信じて、9月からみんなと一緒に作品を創り上げたいと思います。楽しい夏休みを過ごしてください

また9月に会いましょう!!

高城信江

 

↓↓高城信江ヘッドコーチのブログにもスクールの様子が紹介されています!
https://ameblo.jp/niji-okurimono/entry-12381102324.html