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2021-08-25 更新
楽器に対する愛も世界遺産[ワールドヘリテージ]級?
ワーヘリ 外囿祥一郎さん(ユーフォニアム)、次田心平さん(テューバ)インタビュー 第2弾
昨年6月の公演に向けておこなったインタビュー時の写真。左から、次田心平さん(テューバ)、外囿祥一郎さん(ユーフォニアム)
日本を代表するユーフォニアム奏者・外囿祥一郎さんと読売日本交響楽団のテューバ奏者・次田心平さんによる金管低音楽器デュオ「ワーヘリ」。昨年6月に公演を予定しておりましたが、新型コロナウイルスの影響で残念ながら延期となってしまいました。
この9月、いよいよ「ワーヘリ」の延期公演を開催します(詳細はこちら。残席が少なくなってまいりました)。昨年6月の公演に向けて、新型コロナウイルスの全国的な感染拡大が起こる前におこなったインタビューの模様を2回に分けてお届けしております。
今回は掲載第2弾! それぞれの楽器の特徴や歴史、そしてちょっとマニアックな楽器改造についてなど、楽器に対する愛情が垣間見えるお話しを伺うことができました。
※インタビュー第1弾はこちら
―改めて、ユーフォニアムやテューバはどのような楽器なのか、読者の皆様にお伝えください。
次田(以下 次):オーケストラの中でのテューバは、コントラバスと共に音の土台を作り、トロンボーンとハーモニーを奏でるのが主な仕事です。でも「休符を数えるのが仕事」のようなときもあります。例えば有名なドヴォルザークの交響曲第9番〈新世界より〉。全体で45分ぐらいある曲ですが、テューバの出番は第2楽章の9小節間だけ。時間にして1分もないぐらいなんです(笑)。でも「ワーヘリ」ではメロディも吹きます!
テューバは比較的新しい楽器なので既存の「型」があまりなく、作曲家も手探りで曲を書いている部分もあります。そういう意味で可能性に満ちた楽器なんです。楽器の形も特に決まっていなくて、大きいものも小さいものもあり、音を変える仕組みもピストンのものもあり、ロータリーのものもありますが、メーカーが「テューバ」という名前で売ればテューバなんです。
外囿(以下 外):そういえばそうだねぇ。
次:いろいろな形の楽器を自由に選べるのもテューバの魅力の1つです。
外:ユーフォニアムはテューバと対照的に形が決まっています。
次:ずんぐりしたユーフォニアムを開発するメーカーはないけど、テューバだとありますよね。さっきも言ったようにテューバ奏者は休符を数えたり、待ったりする時間が多いからその間にそういういらんこと考えるんじゃないかと思うんですよ(笑)
外:ハッハッハ!
次:休符の間に「こんな楽器があればいいのにな」とかいろいろ考える人が多くて、それで様々な形の楽器を作っちゃうんじゃないかって思いますよ。結構思い切ったものでは、ベルの中に重りが入ってるのもあって、音がずっしりするんです。
外:オーケストラの曲でユーフォニアムが入っている曲は数曲しかないんですよ。ホルストの〈惑星〉、R.シュトラウスの〈英雄の生涯〉、ムソルグスキー作曲ラヴェル編曲の〈展覧会の絵〉など。〈展覧会の絵〉は本来フレンチ・テューバというC管の楽器のパートなんですが、今ではユーフォニアムで吹くことが多いですね。
ユーフォニアムの元を辿ると、イギリスの金管バンドで使われた楽器が原点。イギリスでは産業革命後、金管バンドは炭鉱で働く人たちの娯楽として広まりしました。木管楽器だとリードを作ったり、お手入れが細かい作業だったり大変なので、金管楽器が最適だったというわけです。あまり楽譜を読めない人たちがやっていたので、テューバまですべてのパートがト音記号で書かれていたんです。イギリス式金管バンドでは今でもその名残はありますよね。
今、ユーフォニアムメーカー大手として知られるベッソンと並んで、19世紀半ばに金管楽器の開発・製造をしていたブージー商会というところが今のユーフォニアムの原型と言える楽器を作ったといわれています。ユーフォニアムと似たものだと、ベルギーのアドルフ・サックスが開発したサクソルン・バッソという楽器があったんですが、その流れを汲みながら、ユーフォニアムはイギリスで独自に発展したんじゃないかと私は思っています。
サクソルンを含む、アドルフ・サックスが開発した楽器
日本で初めてユーフォニアムを吹いたのは薩摩藩士の尾崎平次郎という人。幕末の時代、薩摩藩はイギリスと同盟を結び、藩主・島津斉彬はペリー来航の際に演奏するため、私費で軍楽隊を作ったとのことです。尾崎さんも含め、西洋の楽器を初めて触った人たちばかりだったその軍楽隊は、たった3か月の練習で演奏したというのだから驚きです。
1896年アテネオリンピックの写真にどこかの国の軍楽隊が写っているんですが、それを見るとユーフォニアムのようにベルが上を向いているサクソルン属の楽器を持っているんです。興味深いなぁって思いましたね。もともとはフランスで開発され、アメリカの南北戦争の軍楽隊で使用された楽器たちなんです。パリ音楽院で最初にサクソルン属の楽器の教授になったのが、金管楽器の教則本でお馴染みのジャン=バティスト・アーバンだったんですよ。ユーフォニアムに近いサクソルン・バッソの最初の教授もアーバンだったというわけです。
1896年、アテネオリンピックの写真。右側の軍楽隊がサクソルン属の楽器を携えている。
―教則本のアーバンは、金管楽器を演奏する人にとってはピアノでいうJ.S.バッハの〈インベンション〉ぐらい、基本中の基本とされていますよね。さて、今回の「ワーヘリ」のプログラムの聴きどころを教えてください。
外:まず、ユーフォニアムとテューバという楽器がクローズアップされてステージに上がること自体がかなり珍しいですよね。皆さん「この楽器にこんなことが出来るのか!」と驚くと思います。コンサートを聴き終わった後、皆さまが笑顔で「楽しかった!」と言って帰ること間違いなしのプログラムです。次田くんは1年間オーケストラで吹く音符の数をこの1時間で吹いちゃうね。
次:普段何やってんだ、って話ですよね(笑)
外:あと、先に言っておきますと、我々のトークはユルいんです。
次:この「ちょっとお昼にクラシック」という名前、いいですね。我々にピッタリです。
外:茨城は吹奏楽も盛んですからね、是非学生の皆さんにも来ていただきたいですね。水戸は常磐線があってアクセスがいいですしね。
次:(チラシを見ながら)このコンサートはサザコーヒーが協力してるんですね!おいしいですよね、サザコーヒー。
―水戸にいらしたときは是非ご賞味ください!ちなみに、次田さんはテューバを何本お持ちなんですか。
次:10本はありますね。でもそれだけあっても普段使う楽器は数本に絞られます。
外:あのF管は元気?
次:うん、今面白い改造をしてるんです。楽器を焼くんです。僕、最近バーナーを買って自分で焼いているんです。200度ぐらいで炙ると金属のストレスがなくなるのか、古い楽器は新しい音に、新しい楽器はツボを押さえた締まった音になるんです。
外:おっ、いいねぇ。どこを焼くの?
次:もう全部です。僕の楽器を最初に焼いてもらった方は「金管調律師」という肩書のもとご自分で始められた方なのですが、茨城にも出張されています。
―バーナーはどれぐらいの大きさなんですか?
次:ユーフォニアムぐらいまでなら楽器屋によくある細口のバーナーでいけるんですが、テューバはベルまで焼こうとすると時間がかかっちゃうんで大きいバーナーがいいですよね。
外:ゴォーーーーーってやつ?火炎放射器みたいな?(笑)
次:そうですね(笑)。ロータリーまで全部ばらして焼いていますよ。もう最近のマイブームですね。
外:いいなぁ、僕の楽器も焼いてもらいたいなぁ。
次:あ、そうだ、自分のC管のユーフォニアムも焼きましたよ。
外:・・・C管のユーフォニアム?(※通常ユーフォニアムはB♭管)
次:楽器屋に管を切ってもらってC管にしたんですよ。それで太管に替えて、低い音も出やすくしてもらって・・
外:へぇー!それがまさにフレンチ・テューバだよね。
次:そうそう、そんなイメージで改造しました。
―外囿さんはユーフォニアムを何本お持ちですか?
外:僕は3本です。でも使う楽器はいつも同じですね。
次:外囿さんは他のユーフォニアムの人とピストンを動かす速さが違うから、楽器も大変ですよね。
外:ハッハッハ!それで調整や修理に出してるときには他の楽器を使うんです。
―今回共演される松本望さんは、「ワーヘリ」のお二人と最も多く共演されているピアニストですね。
外:ピアノも素晴らしいし、頭の回転が速い。音楽を捉える能力に長けてます。
次:今回は彼女が作曲・編曲した作品も演奏しますのでお楽しみに。
外:チラシの写真、松本さんが前に出ていますけど、こうして遠近法を使わないと顔の大きさのバランスが取れないんですよ(笑)。
演奏はもちろんのこと、ステージ上でのトークも楽しみな「ワーヘリ」のコンサートは2021年9月12日(日)13:30から! 残席が少なくなってまいりましたので、ご来場をお考えの方はお早めにチケットをお求めください。
文・聞き手:鴻巣俊博