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2022-02-15 更新

水戸芸術館現代美術センターによる「小中学生のための学校訪問アートプログラム」レポート①浅田政志「とびっきりの記念写真」編【アートで応援プロジェクト】

新型コロナウイルス感染症が子どもたちの学校生活にも大きな影響を及ぼしている状況を受け、水戸芸術館現代美術センターは、地域の子どもたちが芸術に触れる機会をつくる方法について、2021年に一部シフトチェンジを図りました。それが「小中学生のための学校訪問アートプログラム」です。
 これまでは子どもたちに芸術館に来てもらい展覧会やワークショップを楽しんでもらうことに重点をおいてきました。しかし、コロナ禍は集団での移動を難しくし、また臨時休校でカリキュラムが乱れ、展覧会の団体鑑賞そのものが計画しづらい、計画しても実行できないケースが想像され、来るのが無理ならこちらから出向こうと、ちょっとした発想の転換でした。
 プログラムのメニューは、1)主にアーティストが講師として出向くワークショップ、2)対話型鑑賞、3)学芸員によるレクチャーの3つに大きく分けられます。なかでも学校からのリクエストがダントツで多かったのが、アーティストによるワークショップです。そして、私立や国立の学校からは恒例の全校芸術鑑賞会がコロナ禍で実施できないかわりとして、あるいは総合的な学習の枠組みとして、学芸員によるオンラインレクチャーのご要望も複数件いただき、実施しました。ここでは、写真家の浅田政志さんが講師を務めた「とびっきりの記念写真」についてレポートします。 

吉田小学校にてトークを行う浅田政志さん

 浅田政志「とびっきりの記念写真」の対象は、この春に学校を卒業していく小学6年生と中学3年生です。新型コロナウイルス感染症の流行のため、修学旅行や文化祭、合唱コンクールなど楽しみにしていた行事の中止が相次ぎ、やっと開催できた運動会も大幅な縮小版になるなど、残り少ない月日で巣立っていく子どもたちの学校生活にも、コロナは容赦ない大打撃を与えました。そんな小学6年生と中学3年生を対象にしたこのプログラムは、学校での最高の思い出を写真に収めようという企画です。お申込みいただいた学校の先生には、「どこでどんなふうに撮ってもらいたいか事前にみんなで話し合っておいてくださいね」とあらかじめお願いしておきます。自分たちをどんなふうに撮ってもらって記念写真にしたいか、クラスのみんなで話し合ってもらうところから、このワークショップはスタートします。
 当日は、まず浅田さんにご自身の代表作シリーズ『浅田家』をスライドで見せていただきながら、自身を含め自らの家族が被写体となって写真作品を撮ることになったエピソードや撮影の裏話など、活動について30分間お話ししていただきます。体育館や教室にて対面で行った学校もありますが、校内の別室からオンラインでモニター越しにお話を聴いた学校もありました。このトークのときに、浅田さんは子どもたちに親しげに声を掛け、わかりやすい言葉づかいを選んで話をされるので、対面ならなおのことですが、モニター越しであっても子どもたちの注意を惹きつけてやみません。

吉田小学校にて


 トークが終わったら、クラスごとの撮影に移ります。子どもたちが選んだ場所に移動して、自分たちの考えたポーズでクラス写真を撮ります。タイミングをあわせて一斉にジャンプしたり、ふだんは上がることのできない屋上で黄色い帽子を投げ(る真似をし)たり、学校を象徴する木の前で腕を組んでクールに立ちポーズを決めたり、はたまた、マッチョ気取りな男子に女子がクールなまなざしを投げる……といった具合です。中学生にもなると工夫にいっそう磨きがかかり、遠近法をうまく取り入れて先生を恐竜に見立てびっくりおののく図なども。浅田さんの声掛けで、撮影は楽しく和やかに、かつスピーディに行われます。

遊具の前でハート形をつくる吉田小学校6年3組


見川小学校6年2組


 今年度実施した市内6校のうち最終回となったのは、水戸市立河和田小学校6年生とのワークショップです。河和田小6年1組は、小学1年から6年までの思い出を小道具で演じる担当を決め、小学校での6年間の思い出を自分たちで演じて写真に収めました。河和田小6年2組は、今年実施するはずだったのにコロナ禍で中止や縮小を余儀なくなれた4つの行事を小道具で表し、浅田さんの構えるカメラの前で“実現”させて写真に収めました。その場に立ち会われた校長先生が「こんなにいろいろできなかったけど、これだけはできた」とつぶやかれていたのが忘れられません。浅田さんも帰路の車中で「あんなに準備をしてくれていて、もっとゆっくり撮影したかった」と話していました。

河和田小学校6年1組


河和田小学校6年2組


 撮影のあとは、撮った写真をみんなで振り返ります。自分や友達がどんなふうに写っているか、浅田さんが切り取った写真を見ながら、わいわいがやがやの確認です。最終的には浅田さんが選んだ1枚を写真データとして各校にお送りします。

撮った写真をみんなで振り返る下大野小学校6年1組


モニターには校庭でジャンプをきめた姿がみえる飯富小学校6年1組


 コロナ禍で制約の多かった学校生活最後の1-2年ですが、浅田政志さんと「とびっきりの記念写真」を撮ったことが「記念」として子どもたちの記憶の一ページに刻み込まれ、数年あるいは数十年後に振り返ったとき、楽しかった学校の最終学年の思い出の一つとして思い起こされるのであれば幸いです。そんな思いをつよくかみしめた学校訪問アートプログラムでした。
 

文:竹久侑(水戸芸術館現代美術センター)



実施校(実施順):水戸市立吉田小学校、水戸市立下大野小学校、水戸市立双葉台中学校、水戸市立飯富小学校、水戸市立見川小学校、水戸市立河和田小学校

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