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2016-05-19 更新
【ATM便り】水戸室内管弦楽団 第96回定期演奏会

茨城新聞で毎月1回掲載していただいている「ATM便り」。5月19日付の記事はいよいよ間近に迫ってきた水戸室内管弦楽団第96回定期演奏会に因んだ話題を書かせていただきました。
ATM便り 2016年5月19日号
ヴィオラ、指揮の両方堪能
あれもできて、これもできて、しかもいくつもの分野で絶賛を浴びている人。
6月に水戸室内管弦楽団と共演するユーリ・バシュメットさんは、まさにそんな多芸多才の人です。
まず卓越したヴィオラ奏者として、どちらかと言えば地味な印象を持たれがちだったヴィオラに秘められた魅力を世界中に知らしめたのが、ほかならぬバシュメットさんでした。
さらにご自身で室内管弦楽団「モスクワ・ソロイスツ」を結成して指揮をとるなど、指揮者としての活動も有名です。
また、ジャズ・ピアノも得意で、演奏会でその腕前を披露することもあるのだとか。
そんなバシュメットさんが最初に勉強した楽器は、ヴィオラではなく、ヴァイオリンでした。
バシュメット少年がヴィオラに転向したのは、4年生で音楽学校に途中転入したときのこと。ヴァイオリンのクラスに空きがなかったのがきっかけでした。
そのとき、ヴァイオリンだけでなくギターにも熱中していたバシュメットさんは、先輩からヴィオラは練習時間が少なくて済むと聞き(本当はそんなことはありません!)、それならもっとギターが弾ける!と考えたのだそうです。
1953年生まれのバシュメットさんが10代の頃はビートルズの絶頂期。バシュメットさんは後年、「いまヴィオラを演奏しているのは、ビートルズが解散したせい」と語るほどの熱狂的なファンだったのです(『音楽の友』2013年8月号より)。
指揮を始めたきっかけは1985年。フランスの音楽祭で予定されていた指揮者が降板になり、急遽バシュメットさんに白羽の矢が立てられたのでした。指揮の経験がなかったバシュメットさんは一旦断ったものの、説得に負けてついに指揮台に立ちます。
ところが、やってみるとこれが面白く、それ以来「病みつき」なのだそうです。
そして今では、ご自身でオーケストラを持ち、世界の名だたるオーケストラにも客演するほどの活躍ぶりなのですから、「すごい」の一言です。
今回の演奏会は、バシュメットさんのヴィオラ独奏と指揮の両方がご堪能いただけるプログラムになっています。様々な楽器と指揮、幅広いジャンルに関心を寄せるバシュメットさんが、腕利きの演奏家を集めた水戸室内管弦楽団とともに、どんな演奏を聴かせてくださるのか、ぜひご期待ください。
(水戸芸術館音楽部門学芸員・篠田大基)
バシュメットさんがヴァイオリンからヴィオラに転向して、さらにギターも練習していたという話で思い出したのが、バシュメットさんもしばしばなぞらえられるパガニーニのことです。
パガニーニは超絶技巧のヴァイオリン奏者というイメージが強いのですが、ヴァイオリンだけでなく、ヴィオラやギターも得意としていました。
今回の演奏会でバシュメットさんが水戸室内管弦楽団と協演するパガニーニのヴィオラ協奏曲は、もともとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ギターという珍しい編成の室内楽曲でした。
パガニーニが得意としていて、奇しくもバシュメットさんも習ってもいる楽器が3つ揃って含まれているところに因縁めいた面白さを感じますね。