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2016-08-08 更新

ギタリストの新星 朴葵姫(パク・キュヒ)インタビュー【前編】:太陽と音楽の国・スペインでの留学生活、ギターとの運命的な出逢い

鋭敏な指先から紡がれる美しい音色と歌心豊かな表現に、誰もが惹きつけられずにはいられない――9月のコンサートホールATMに登場するのは、類稀な音楽性と、卓越したテクニック、歌心豊かで繊細な表現力を兼ね備えたギター界の新星、朴葵姫(パク・キュヒ)さんです。

1985年、韓国生まれの葵姫さんは、子供の頃は韓国で育ちながらも、ギターと出会ったきっかけや、荘村清志さん、福田進一さんのもとで本格的にギターを学んだのは日本でした。その後、ウィーン国立音楽大学を首席で卒業し、バリオス国際ギターコンクールやアルハンブラ国際ギターコンクールなど名だたる大舞台で優勝を重ね、演奏家として大躍進を続けています。さらに今年1月からは半年間、スペイン南部のアリカンテに滞在し、アリカンテ・クラシックギター・マスターコースを首席で卒業されました。帰国直後の朴葵姫さんが今回、スペインでの留学生活や、音楽家として大切にしていること、今回のリサイタルの聴きどころについて、日本語でお話くださいました。

――アリカンテという街は、ギタリストにとって特別な地と聞きましたが…

アリカンテ(撮影:朴葵姫)

朴:そうですね。いま世界で巨匠と呼ばれているギタリストのデイヴィッド・ラッセル(1953~)が師事し、アンドレス・セゴビア(1893~1987)の弟子でもあったホセ・トマス(1934~2001)が教えていた街です。だからギターの歴史がとても長く、ギターが盛んです。そこで4年前にアリカンテ・クラシックギター・マスターコースが開設され、2年分の修士課程を半年間に凝縮したカリキュラムで学びました。名だたるギタリストの先生方に2週間ずつ、セミナーや個人レッスン、マスタークラスを通して、時代別にあらゆるレパートリーを教えていただきました。それ以外にも、身体学や基礎指揮法、室内楽を学んだり、論文を書いたり…。期間中は月曜から土曜の朝から晩まで、ぎっしり授業がありました。授業期間の合間に1週間ずつ休みはありますが、その間に次の授業のレパートリーを準備して。留学生活はかなりハードでしたが、本当に幅広く学べて、とてもいい経験になりました。

――今回スペインに改めて留学しようと決めたきっかけは?

朴:留学のずっと前からスペインは大好きで、よく旅で行っていたのですが、いつか半年くらい住んでみたいと夢見ていました。そんな時、この学校が開設されたと聞き、ウィーン国立音楽大学での留学が終わった次の年には行こうと、2年くらい前から決めていました。特別なきっかけがあったというよりは、自然な流れだったかもしれません。スペインに住みたいという希望と、新しい学校が開設されたこと。すべてがつながったんです。そして演奏活動を続ける中で、リフレッシュする期間をとって改めて修行し、その成果を皆さんにお届けしたいと思いました。

――スペインで撮影した写真をインスタグラムにアップされていますね(コチラ)。明るくカラフルで、素敵です!

朴:景色が本当にきれいで、どう撮影しても絵葉書のようでした。いつも空がきれいで、本当に青い。曇っていても、それすら美しいんです。雲の形が毎日変化して。そういう風景を毎日撮って、スペインにいる半年間、自然の変化をあえて敏感に感じるようにしていました。

――音楽面あるいはそれ以外での、スペインの魅力とは?

アリカンテ(撮影:朴葵姫)

朴:スペインの音楽には、情熱やドラマチックなところがあり、そういう部分が大好きです。それから、独特のリズムとあわさって「これぞスペイン」という強い個性があるところも。それに音楽以外では、きれいな景色、おいしい食べ物…一番好きなのは人です。街の人がみんな優しく、明るくて、少し話すだけでこちらが元気になれるんです。たぶんあれは天気のおかげだろうと思います。いつも明るい太陽を浴びて、嫌なことは忘れる。スペインの人たち自身も、「ここは天気に恵まれているから、私たちはいつも明るくて元気でいられてハッピーだよ」と言っていました。

――半年間生活してみて、何か新しい発見はありましたか?

朴:住んでみて、もっと好きになりましたが・・・ただ時間がルーズ過ぎて、日本とは正反対でした。全てが遅れるので、思った通りに行かないんですよね(笑)。授業も、時間通りに始めない先生がいらしたり。あと郵便局や書類の申請とか、全てがのんびり。日本は「いつまでには届く」という約束がありますよね。それが一切なく、いつまでたっても荷物が来ないし、送れない(笑)。そういう部分では不便さがありました。日本のように約束を守ることの大切さを、スペインに行って改めて感じました。でも逆に、あまり急がないのはいいこととも捉えられますし、いい経験になりました。

スペインに関しては全て好きですけど、一つだけ嫌なことがあって…本当に犬のフンが多いんです(笑)。そしてそれを飼い主が一切片づけない。しかも雨が降らないので、それが乾いていて、何回も路上で踏みそうになりました…。だから下を向かないと歩けない時もあるんです。たまに水洗いはされますけど…。足元がはっきり見えない夜は歩きたくないと思うくらい、ちょっと怖かったです(笑)。でも、クラスにカタルニア出身の子がいたんですが、その子は、バルセロナやカタルニアはそんなことないと言っていました。「こんなのはバレンシアだけだ」って(笑)。スペインでは、アストゥリアス地方とかカタルニア地方とか、各州で、国が違うくらいに人の性格が違うらしく、「これはバレンシアの人の性格だから、スペイン人が皆そうだと思っちゃだめだよ」と何回も言われたりしましたね(笑)。

――州ごとに、対抗意識のようなものがあるんですね(笑)。

朴:そういう発見はありました。あとスペインの人は昼間、というより朝11時くらいからビールを飲んでいます。仕事の休み時間に1杯飲んでいる人が多かったです。シエスタという昼寝の時間があるので、その時には必ずですし、その時間が始まっていない11時頃でも飲んでいたり…。外に出ると、必ずそういう光景を見かけます。そういうところも好きですね。

――以前8年ほどウィーン国立音大に留学されていましたが、その時と比較して、今回はどんな収穫がありましたか?

アリカンテ(撮影:朴葵姫)

朴:ウィーンには20歳の時に行き、留学最後の頃はプロデビューをしていたとはいえ、基本的には全てを教えてもらう立場でした。今回は、自分というものが完成してから行ったので、意見の交換ができました。一方的に教えてもらうわけではなく、先生やまわりの仲間とアイディアの交換ができ、さらに自分を豊かにすることができました。それに今回は、ルネサンスから近現代まで、時代ごとにしっかり学び、自分の中で少し整理されていなかったところがクリアになって、新しい引き出しをたくさん作れました。また、自分が今まで感じてきたように演奏したら、巨匠たちにもそれを認めていただけたことは、自信につながりました。

 

――スペインで実り多い時間を過ごされた葵姫さんのリサイタル、楽しみにしています。ところで、ギターを始めたきっかけは、お母さまの影響だったそうですね。

朴:私は3歳の頃は日本にいたのですが、その頃母親がビートルズに憧れていて、フォークギターを弾きたかったそうで。でも近所にあったのはクラシックギター教室。そこに通ううちに、私も先生から「小さいギターを一緒に弾いてみない?」と勧められて、母親の隣でギターをさわり始めました。ギターは最初から好きで、5歳で韓国に戻ってからもずっと弾いていました。手放したことはないですね。ギターとの出会いは運命だったと思います。

(後編に続く)


朴 葵姫(パク・キュヒ)ギター・リサイタル
13:30開場・14:00開演
チケット/一般 ¥3,000、ユース(25歳以下)¥1,000
曲目/
スカルラッティ:ソナタ K.178, K.391
タレガ:アルハンブラの思い出
アラビア奇想曲
椿姫の主題による幻想曲
アルベニス:〈スペイン組曲〉作品47より 第5曲「アストゥリアス」
組曲〈スペイン〉作品165より カタルーニャ奇想曲
組曲〈スペインの歌〉作品232より コルドバ
〈スペイン組曲〉作品47より 第3曲「セビリヤ」
ブローウェル:旅人のソナタ
バリオス:森に夢見る
ヒナステラ:ソナタ 作品47

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