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2025-03-28 更新

水戸芸術館現代美術センターよみものアーカイブ#2-4 「session!」座談会 後編
「session!を白鳥建二と続ける意義」

session!ナビゲーター白鳥建二さん、当センターで長年担当してきたスタッフ・森山に加え、session!草創期を知るゲスト・太田好泰さんをお迎えして、いろんな角度からsession!について語りました。
前・中・後編に分け、ご紹介します。

なぜsession!がこれほど長く続いているのか?白鳥さんがsession!を通じて参加者に与えるものとは?白鳥さんと長い付き合いのある2人が解き明かします。

白鳥さんじゃなきゃだめなような?
白鳥さんじゃなくてもいいような?


session!での鑑賞中の様子、2022年、※1

──白鳥さんの中の森山さん像はいかがですか?

白鳥:
森山さんはですね…。なんていうか、話しやすかったんじゃないかな。多分。初めてのときから。なんでかね。わかんないけど。

森山:マッサージしてもらいながらとかね、他愛のない話をしたり。ただ、普段からすごく連絡取ってるとかではなくて、「今年は何月ぐらいにどうですか?」とか。それで、来てくれたときは、いろいろ話をしてましたけどね。

太田:でも、例えば水戸芸というパブリックな装置と白鳥さんという個人の関係として見ると、異常なほど長く続いているじゃない? 異常っていう言葉はアレですけれど。

森山:そうですね。

白鳥:うん。

太田:そのことってあまり普通じゃないような気がするんですよ。一般的に、例えば、それこそ公立の施設でここまで繋がり続けられるのは…

森山:ずっと面白いからじゃないですか? 私自身もおもしろがっている。もちろん白鳥さんのことも面白いんですけど、白鳥さんの企画に来る人の変化もあるし、それぞれの中の変化もあるし、お客さんたちの興味ってやっぱり揺れ続けているので。あとは社会の状況や障害者とアートとかも、ずっと見ていて面白い。やめる理由がないんですよね。「いつまでやってるんだ」っていうのは何度か言われたことありますけれど(笑)。

太田:いや、そうだと思うんですよ。なんであの人なの?と。要は個人なわけじゃないですか。その人とだけ、なぜ、ずっと続き続けるの?っていう意見は出てもおかしくないですよね。

森山:なんかこの低温な感じがいいんでしょうね。ウォー!みたいなのがないので(笑)。

太田:白鳥さんのためでもない。

森山:もちろんです。白鳥さんのためだけだったら、「今年も来ました」「一緒にみましょう。説明します」で、一緒にみて終り、です。だけど、そこで起こることが面白すぎるので、ずっと白鳥さんにも付き合っていただいている感じですね。やっぱり、いないですよね、こういう人。どうしても啓蒙的になってしまう。広げたいとか伝えたいとかって普通だと思うんですけど、それが白鳥さんにはない。すごくニュートラルで、他人に興味がなくて(笑)、自分の楽しみに興味があるってことが最強なんです。私は、そういうことがどの方にも起こったらいいなと思っているんです。その人が、自分でその作品や人に対して出会ってほしいという思いがあるので、白鳥さんのスタンスはきっかけとして、入口として最高なんですよね。生き方とかも含めて、そこに触れてもらうのが美術館としてはもう最高に良いなということで続いてきたんです。今まで。

太田:辞める理由がない。

session!での鑑賞後の振り返りの様子、2023年、※2

森山:そして、水戸芸には、白鳥さん以外にも、たとえばボランティアさんの中にも、本当にそれこそ本にまとめてほしいような人がいっぱいいて、お1人お1人が本当に興味深いので、白鳥さんは、私にとってはその中のおひとり、という感じ。その意味では、あんまり特別視してないっていうか、それぐらい「人」の存在って面白いなって思っているんです。白鳥さんと一緒に最初に見たジェフの展覧会で、図書館の中に、老婆が全裸で立ってるっていう不思議な写真があるんです。ちょっと不思議な一見気持ちわるい写真。その老婆が何も着てないから、お金持ちなのか、そうじゃないのかとか、情報が一切ない。でも実際は人ひとりが持っている情報量って図書館全部に匹敵するぐらいのものがあるっていう意味なのかなと思うんですよ。多分、白鳥さんは、人の面白さの片鱗を見せてくれていて、それがsession!を続けてる理由。替えは効かないんですが、それは白鳥さんだけじゃないんです。

太田:面白いのは、そこが開館からずっとぶれないってことですよね。

森山:そうなんですよ。先輩たち、ここをかたち作ってくれた方たちがそのスタンスを確立してくれ、それをなぞっている感覚です。

session!からみえてくる
美術館があることの意味


太田:この空間(高校生ウィークのカフェ)が、まさにそうだけど、やっぱり、それこそ唯一無二だし、なんか温かいし、ほっとするし、毎回違うけど、帰ってきた感がお客からするとあるし。絶対にぶれないのはやっぱ「人」なんですよね。「作品」とか、「館」じゃなくて、そこに誰がどんな気持ちで関わってくるかっていう「人」が一番大事っていうのは、ずっと変わらないんですよね。そのために、美術や作家が存在しているっていうかさ。

森山:作家や美術のためにも、美術館はあるんですけど、裏を返せばここにある理由はそれなんですよね。なぜここに美術館があるのかっていうと、来る人、住んでる人たちのために何かできることをするためにある。

太田:かつてのボランティアや高校生ウィークに来ていた人たちが、またここで今の若い人たちと接しているだとかね。そういうことが脈々と、時代と時間を経て、もうまさにそれが現場、現実としてここに立ち現れているっていうのがすごいですね。

森山:それは、本当にご褒美ですね。

高校生ウィーク2023期間中に開催されたWSにて、かつて高校生ウィークの常連参加者だったメンバー(右から2番目、左端)と現役高校生スタッフが交わる様子、2023年

太田:そう、だからやめられない。でもそれが場としてあり続けるっていうのは、本当に贅沢だし、一方で守るには命がけなんだということはわかりますよ。そして、それはスタッフの人たちが守るんじゃなくて、本当は市民が守らないといけないことですよね。

森山:そうなんです。

太田:こういう場があることを誇りに感じて、自分にとってそれがなぜ大事かを考える。美術館じゃなくてもいいんだけど、公共って何かを考えることですよね。

森山:公共とは何か。公共とは社会を構成するすべての人々に関わることですからね。

太田:それがやっぱり日本の場合はまだまだ共通認識になっていないですよね。

白鳥:うん。

太田:下手すると足引っ張り合うっていう悲しいことがあったり。そういうときに、白鳥さんのような人がいることで、肩の荷が下りるというか。本人がどこまで意識しているか知らないけど、それを使わせていただくというようなね、そういう関係だと思う。

森山:そうですね、それは本当にね、ありがたい。なんていうんですか、見えないけれどアートを見に行くってどういうことだろうって、疑問が沸き起こりやすいというか。この(有緒さんの)本も多分、そうやって手に取る方が多いと思う。ときどき書評を見てみるんですけど、やっぱり、「どういうことなの?」って手に取って、でも中には思っていたのとまったく違う世界が書かれていたっていう感想が多い。

川内有緒さんの著書『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』を囲んで、座談会の様子、2024年

──見える、見えないではないことが書いてあるんですよね。

森山:
そう、わかりやすい分類から入ってくけど、「あれ?見えるってどういうことだっけ?」とか「人と関わるってどういうことだっけ?」ってもう1回考えさせてもらう中で、超個人的な白鳥さんの活動が、美術館の大命題を開くということにつながっているんですよね。だから、ずっとやめてない、やめない、ということなんですよね。

白鳥:すごいね。

太田:壮大なまとめになりましたね(笑)。

本でも、ラジオでも、テレビでも。
それでもやっぱり、session!をつづける理由


──いかがですか、白鳥さんにとって今の2人のお話は。

白鳥:
それは悪い気はしないです。うん。最近になって、自覚がやっと追いついてきたぐらいなので、変わってるっていうのは前から言われてはいたんだけど。

森山:今は、知名度があがって、すごく数をこなさなきゃいけないので、ちょっとその辺りで息切れしてたように見えるときもありましたけど。でも、いつもその場所に行って、ぱっと楽しんでぱっと忘れるみたいなので(笑)、あんまり心配しないっていうか。あんまり使命感とかもっていて疲れちゃうとか…そういうことはないでしょう?

白鳥:ないね。

太田:嘘でもあるっていいなよ(笑)

白鳥:いや、自分の役どころは考えるよ。2019年以降、役どころはすごく考えるようになったけど、それは使命感とはだいぶ違うよね。

森山:何かを背負ってるっていうのではない。それがまた影響を与えるんだよね。

太田:悔しいことに。こっちは肩肘張って、大上段に構えて、いろいろ言っても全然誰にも届かないし…。

森山:役得だね、って言ってますね、よく。

白鳥:そうそう、「盲人特権」(笑)。いや、本当にね、その「特権」的な部分とか「楽しさ」とかがね、すごい増してる。ここ数年で。去年の春なんかは、もう、楽しすぎて。処理能力を超えちゃって。いいことがすごく重なったの、連続で。例えばね、鑑賞会をやると、もう2~3週間はその鑑賞会の思い出っていうか、余韻で楽しめるんですよ。「いやー、よかったな」みたいな。

白鳥建二さん(中央)、座談会の様子、2024年

森山:かつてはそれほど多くなかったから。

白鳥:前は年に数えるぐらい、1回とか2回とかだったから、良かったんですよ。今も基本的には、鑑賞会をやれば数週間くらい余韻を楽しめるくらいの経験をしてるわけ。その鑑賞会が3日連続とかであったりするんです。そうすると、もう自分の処理能力を超えちゃって。

──どうなるんですか?

白鳥:去年の春なんかは、日常に戻れなくなっちゃったんですよ、気分が。メールとかが読めなくなっちゃって。

森山:捜索願いが私のところにも来ました(笑)「白鳥さんと連絡取れません…どうにかしてください」って。

白鳥:そこまでいってしまったという…。一種の躁状態だと思う。通常モードに全然戻れなくなっちゃって、それで、マネージャーを頼むことにしました。

太田:何か辛いことがあったのかと心配していたのに、その逆だった。心配を返してほしい(笑)

白鳥:鑑賞会は、結構ね、エネルギー消費は激しいんです。以前は人前で喋ることがあまり好きじゃなかったけど、有緒さんの本が出てから喋る機会が増えて、鑑賞会よりは喋る方がよっぽど楽だって気づきましたね。鑑賞会のときは5~6人の参加者がいるわけだけど、短い時間の中でその人たちが、どういうことを喋るかとか、どういうふうな行動をとっているかとか、そういう情報を必死で集めるわけですよ。多分それにエネルギーをすごく使う。参加してくれた人たちの充実度を推し量るみたいな。それに比べたらさ、喋る仕事は喋りっぱなしでいいじゃない?(笑)

森山:求められる内容が、一定化しているし、十八番の話もあるから。

白鳥:そうそう。大体、経験したこととか、今まで考えたこととか、そういうことだから、楽です。

森山:今思い出したんですけど、白鳥さん、何か言われたときの返しがすごいとおもっていて。以前ラジオに出たときなんですけど。

白鳥:ふうん。

森山:ほら、ピーター・バラカンさんとの番組で。そのとき女性のアナウンサーが「今日は目の不自由な白鳥さんに来ていただきました」的なこと言ったら、「ちょっといいですか」って言って。

白鳥:あれは、収録だったから、台本をもらったときにそこは修正しようと思っていたんだけど。

森山:そこまで書いてあったの?

白鳥:書いてあった。ほら「目の不自由な」はほとんど決まり文句だから。

森山:「いくぞ」と思って、言ったんですね。

白鳥:そうそう。それで「ちょっと待って」って言って、「その”視覚障害者”と同じような感じで、”目の不自由な人”っていう、定型の言い方で使っていると思うんだけれども、僕に限っては、見えなくて不自由はしてないので、見えなくて不自由している人がいるのは確かなんだけど、少なくとも自分は不自由してないからそこは「見えない人」とか言い換えて欲しいです」って言ったら、ピーター・バラカンが「それは視聴者にも聞いてほしいから」ってその部分はカットされずにオンエアされたっていう。

太田:ピーター・バラカンのラジオに出るなんて、これも白鳥特権(笑)。

白鳥:水戸の梅、持っていったよ。

森山:初めて聞いた! 白鳥さんが何かお土産持っていった話!

白鳥:ほとんど持っていかないんだけどね。もう、ピーター・バラカンに会えるのが嬉しくて。これは何か水戸ネタを持っていかないとって。楽しかったですよ。収録だから全然気楽に話してたし。

森山:アナウンサーの人は、ちょっと詰まってて、「え、え…。ではなんと言えば?」みたいな感じでしたね。普通に『「目の見えない」と言っていただければ』と言われて、「あ…」って。なんか丁寧に言ってるようなつもりになっちゃってるところもありますもんね。「目が見えない」っていうんじゃなくて「目の不自由な」っていうと。

白鳥:うん。

森山:結局、そういった考えるきっかけとなるコミュニケーションを、みんながちょこちょこと少しずつ積み重ねていくことが大切なんですよね。

太田:本当に、本当に。そこに尽きるのかもしれないですね。

「座談会終了後、白鳥建二さん(前列左)太田好泰さん(前列右)と一緒に、2024年

座談会
日時:2024年3月17日(日)
於:水戸芸術館現代美術ギャラリーワークショップ室

文=中川佳洋(水戸芸術館現代美術センター教育プログラムコーディネーター)
構成協力=笠井峰子(笠井編集室)
写真=2024年撮影分・仲田絵美、※1佐藤理絵、※2山野井咲里

#2-3 「session!」座談会 中編「2019年、『全盲の美術鑑賞者』白鳥建二、本格始動。」 ページはこちら
#2-2 「session!」座談会 前編「3人の出会いとsession!が始まるまで。」 ページはこちら
#2-1 「視覚に障害がある人との鑑賞ツアー session!」とは? ページはこちら
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