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2016-01-25 更新

【ATM便り】ロレンツォ・ギエルミ オルガン・リサイタル

茨城新聞で毎月1回掲載していただいている「ATM便り」。1月25日付の記事は2月のコンサートのご紹介です。
2月3日(水)に開催する「ロレンツォ・ギエルミ オルガン・リサイタル ~歓び、脈動するバッハ~」に因んだ話題を書かせていただきました。

教会堂のように豊かな響きのする水戸芸術館のエントランスホール。そこに設置されたドイツ様式のパイプオルガンで聴く、オール・バッハ・プログラム。それを弾くロレンツォ・ギエルミ氏はイタリアの大オルガニスト。沢山のバッハ作品の優れた録音がありますが、他方、バッハは、当時音楽の先進国だったイタリアの音楽を熱心に研究していたのですから(その証拠が今回のリサイタルで演奏されるイタリアの協奏曲のオルガン編曲です)、面白いものですね。

おかげさまで残席わずかとなってまいりました。ご予約はお早めにどうぞ!


ATM便り 2016年1月25日号

名オルガニストの仕事

 

イタリアを代表するオルガニストであり、バッハ解釈の第一人者として知られるロレンツォ・ギエルミ氏は、水戸での演奏は今回が初めてですが、来日経験は豊富で、日本各地のパイプオルガンを弾いています。
ギエルミ氏と日本との関わりのなかで忘れてはならないのが、東京目白にあるカトリック東京カテドラル関口教会の聖マリア大聖堂(日本のモダニズム建築をリードした丹下健三の設計で有名)に設置されたパイプオルガンでしょう。
現在この大聖堂に設置されているオルガンは、2004年に建造されたイタリア様式の楽器です。このオルガンの設計に助言を与え、工事を監督したのが、ギエルミ氏でした。その様子はNHKの番組『パイプオルガン誕生』で放送され、DVDも発売されています。パイプオルガンの製作過程が記録された貴重な映像です。

私たちはオルガニストの仕事はオルガンを弾くことだと思いがちですが、この例のように、新しいオルガンの製作監修や、完成したオルガンの検査、定期点検なども、じつはオルガニストの仕事の一部と言えます。
大作曲家で名オルガニストでもあったバッハも生前には、沢山のオルガンを試奏して品質保証を与えたり、問題点を報告したりする仕事をしていました。実際にバッハが書いたオルガン鑑定書は今日まで伝わっていますし、バッハが新しいオルガンに初めて触れるときにどんな手順で楽器を調べたのかについても、多くの記述が残っています。バッハは作曲家、演奏家であったばかりか、オルガン鑑定士でもあったわけです。

バッハの生前に彼の演奏を聴いた多くの人は、バッハがパイプオルガンで他の人には真似できない独特な音色を作り出すことに驚いたと言われています。このことは、バッハが個々のオルガンの性能を的確に把握し、楽器の個性をうまく引き出すように演奏していたことを窺わせます。
そしてギエルミ氏も、とても繊細でユニークな音色を作り出すことで定評のあるオルガニストです。
ギエルミ氏は、初めて触れる水戸芸術館のパイプオルガンからどんな音色を引き出して、バッハの名曲を奏でてくれるのでしょうか。リサイタルが楽しみです。

(水戸芸術館音楽部門学芸員・篠田大基)


 

Photo by Sergio Caminata

余談ですが、今回のチラシなどに掲載されているギエルミ氏の写真で、彼が手に持っている茶色の本は、『新バッハ全集(Neue Bach-Ausgabe)』と呼ばれる楽譜集です。金の“BACH”(バッハ)の文字が輝いていますね!
19世紀に編纂された『(旧)バッハ全集』に対して、20世紀以降のバッハ研究の成果を反映して新たに楽譜を校訂し直し、編纂されたのが『新バッハ全集』です。それを携えて写真に写っているギエルミ氏。バッハにかける情熱が伝わってくるようです。