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2012-10-20 更新
【新楽団員を訪ねて】フィリップ・トーンドゥルさん(オーボエ)

今年、水戸室内管弦楽団(MCO)に加わった新しい楽団員ををインタビュー形式でご紹介するコーナー「新楽団員を訪ねて」を、10月20日、21日の第85回定期演奏会プログラムに掲載しております。
そして同時にこのブログでは、そのインタビュー全文をご紹介いたします!プログラムには残念ながら載せきれなかった面白いエピソードも満載で、世界で活躍している名手たちが、MCOの音楽活動をどんなふうにとらえているのか、またこれまでどんな想いで「道」を切り拓いてきたのか…そうした貴重なお話も伺いましたので、ぜひチェックしてくださいね!
「新楽団員を訪ねて」。まずはMCOの最年少メンバー、オーボエのフィリップ・トーンドゥルさんです!
―新しく水戸室内管弦楽団(MCO)の楽団員としてお迎えすることができ、とても嬉しく思います。今どんなお気持ちでいらっしゃいますか? また日本がお好きだと伺っております。
MCOに楽団員として加わることができ、とても光栄に思います! 私は国際オーボエコンクール・軽井沢に参加した2009年に初めて来日し、日本の文化や人、食べ物が大好きになり、ぜひまた来たいと思っていました。また、その時多くの方が聴きに来ていたのも驚きました。日本では本当にクラシック音楽が愛されていますね。水戸や東京の聴衆は、ただ聴いているのではなく、曲の細部まで理解しようとしているのが伝わってきます。
―トーンドゥルさんは6歳でオーボエを始められたそうですね。
フランスでは小さいうちに音楽を始める人が多いのです。私も楽器の演奏が好きで、最初吹きたいと思ったのはフルート。5歳で始めたのですが、なぜか音がうまく出せなくて。そこで別の先生に相談すると、「オーボエだったら吹いている人もあまりいないし、とてもいい音色だから、きっと気に入るよ」と言われ、いざ始めたらあっという間にとりこになりました! オーボエに出会えて本当に幸運でした。
―ご家族の皆さんも音楽家でいらっしゃるのですか?
いいえ、父は歯科医です。母は大学で英語を教えていました。妹は画家ですが、趣味で演奏を楽しんでいます。私は音楽をやりたいと思い、どんどんのめりこんでいきました。そのうち、プロになるために勉強するようになり、15歳でパリ国立高等音楽院に入学しました。
―その後、わずか18歳でシュトゥットガルト放送交響楽団の首席オーボエ奏者にご就任されましたね。
本当に若いうちに、初のオーディションで仕事が決まったのでとても驚きました。この時自分が選ばれたのは、全く緊張していなかったからだと思っています。当時はまだパリで勉強中で、「合格できれば嬉しいけど、失敗してもまたチャレンジすればよい」と気楽に考えていましたから。でも今では、この仕事が自分のキャリアやモチベーションの上でいかに大事か気付きました。
―まさにターニングポイントだったのですね。オーケストラ入団後に、何か難しさをお感じになられたことはありましたか?
当時私はまだ10代で、ドイツのオーケストラの中では外国人でしたから、いろいろと大変でした。同僚は皆さん年上だし経験豊富で、友人や家族など、それぞれ別の興味がありますしね。最初のうちは、自分の力をはっきり証明しなければとプレッシャーを感じていました。でも私が早くなじめるよう、皆さんが親切に助けてくれたので、乗り越えることができました。
―オーケストラでの音作りという点ではどのようなことを学ばれたのか、お聞かせいただけますか?
他のメンバーと音を合わせるためには自分の演奏の仕方を少し変える必要があります。シュトゥットガルトも優れた演奏家がたくさんいますので、最初のうちは彼らに合わせつつも自分のスタイルを見出して、リラックスしながら演奏するのが難しかったです。木管セクション全体に意識を集中できるようになるまでには3,4カ月はかかりました。一方、MCOには、より溶け込みやすい感じがしています。
―MCOの魅力はどのようなところにあるとお思いでしょうか?
MCOは特別なエネルギーを持つオーケストラだと思います。メンバーは高い集中力を発揮して、力の全てを注ぎ込みながら一緒に音楽を創っているのです。それから日本人とヨーロッパ、アメリカのメンバーがミックスしているのも良いところで、様々なメンバーが深く関わり合うことが、より情熱的で洗練された演奏につながっていると思います。こうしてその音楽はごく自然に開かれたものになり、どんな言葉をも越えたものになるのです。私は欧州各地の優れたオーケストラと共演してきましたが、MCOと同じレベルの楽団はなかなかありません。MCOは世界一の室内管弦楽団だと思います!
―最近では、2010年に第65回ジュネーヴ国際音楽コンクールで第3位、11年に第60回ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝されるなど、素晴らしいご活躍ですね。
ハインツ・ホリガーやラデク・バボラークをはじめ、過去の錚々たる受賞者を考えると、自分もその一人になれたことがまだ信じられませんし、とても光栄です! この5年間で数々の主要なコンクールに参加し、その全てで優秀な成績を出そうと全力を尽くしてきました。自分も何か並はずれて素晴らしいことができると証明したかったのです。私は、あの緊張感や独特のエネルギーが好きです。それはまさに自分との孤独な戦いで、弱点に向き合い、同時に強みも発見できる場です。そして「自分がどんな人間で何を成し遂げたいのか」を見つけるいいチャンスにもなる。人生で最も大きな経験でした。そのおかげで今は、ソロや室内楽など様々な演奏の機会や、たくさんの演奏家との出会いがあります。
―トーンドゥルさんの今後の夢を語っていただけますか?
今後のことはゆっくり考えようと思いますが、今は自分のやっていることを楽しんでいます。でもいずれにせよ、できるだけ長く音楽活動を続け、日本やヨーロッパの皆さんに最高の演奏をお届けしたい。それが今の夢です。もちろんウィーンやベルリンなど大オーケストラでのポジションや、ソリストとしての華々しいキャリアを望むこともできますが、自ら計画して叶うことではありません。大事なのは今、この瞬間にベストを尽くすこと。私はすでに多くのものに恵まれていますし、とても幸せです!
―休日はどんなふうにお過ごしですか?
スキーが好きで、よくスイスに出かけています。それから南スペインやギリシャなど暑い国も好きです。でも、最高の休日の過ごし方は、新鮮な空気の中で一人ゆったりと過ごしたり、刺激的な街や音楽から離れて静けさを楽しんだり、あるいは家族に会ったりして、穏やかに過ごすことですね。
―貴重なお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。
これからも皆さんと、音楽を通してすばらしい時間を共有できることを楽しみにしています!
2012年7月5日
聞き手:高巣真樹(水戸芸術館音楽部門)