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2021-03-05 更新

茨城新聞「ATM便り」今昔雅楽集 三、千代の楽人

茨城新聞で水戸芸術館音楽部門が月1本のペースで連載しているコーナー「ATM便り」。2月28日掲載の記事を転載します。3月13日(土)に開催する「今昔雅楽集 三、千代の楽人」に因んだ読み物です(転載にあたり、一部修正を加えました)。

公演は水戸芸術館コンサートホールATMで、3月13日(土)16:45プレトーク、17:00開演(終演予定19:10)。料金は一般3,500円、U-25(25歳以下)1,000円です。詳しくはこちらをご覧ください。チケット発売中です。


古代楽器の音と調べ

 東大寺正倉院には、シルクロードを渡って日本にもたらされた、様々な文物が収められています。そこには楽器も数々あります。

 ラクダに乗った楽人が描かれた「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」は有名でしょう。日本の琵琶(絃が四本)とは違い、この五絃の琵琶は、古代インドで流行した楽器だそうです。
他にも、ギリシャのパンフルートのような排簫(はいしょう)、メソポタミアのハープに似た箜篌(くご)など、まるで日本にあったとは思えない楽器もあります。滅んでしまった古代の楽器です。

 お正月に神社などで耳にする日本の伝統音楽「雅楽」は、管、弦、打楽器がそろった「世界最古のオーケストラ」と呼ばれます。雅楽の楽器編成が確立したのは10世紀。平安時代の中頃と言われます。日本独自の国風文化が花開いた時代に、かつて大陸から伝えられた楽器が選別され、雅楽の楽器編成は、つくられました。

 正倉院の古代楽器と雅楽の楽器を比べると、平安時代の人々の音の好みが浮かび上がってくるようです。

 まず、平安の人々は低音楽器を好まなかったようです。古代日本には、竽(う=笙(しょう)を大きくした楽器)、大篳篥(おおひちりき=篳篥(ひちりき)を大きくした楽器)といった低音の管楽器があったことが分かっていますが、現行の雅楽の管楽器は、どれも高い音です。

 金属音も好まれなかったようです。古代には、つるした金属板を叩く方響(ほうきょう)や、鐘を並べた編鐘(へんしょう)などがありましたが、雅楽で使う金属打楽器は鉦鼓(しょうこ)だけ。しかもあまり響かせず、物憂げに打つのが良いとされます。

 3月13日(土)のコンサート「今昔雅楽集 三、千代の楽人」では、雅楽の古典とともに、正倉院の古代楽器の復元品を使い、中国の敦煌(とんこう)で出土した唐代の楽譜の復元演奏も、お聴きいただきます。敦煌の古楽譜は、驚くべきことに、雅楽の琵琶の楽譜と酷似しており、琵琶の記譜法を手がかりにして解読されました。しかし、甦った古代中国の音楽を、古代の楽器で聴くと、やはり雅楽ではなく、中国風に聴こえますから、不思議です。

 千年前の中国と日本の音の好み、古代の楽器の面白い形と音色を、お楽しみいただきたいと思います。

(水戸芸術館音楽部門学芸員・篠田大基)